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ハリーの授業

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「それでは、本日から私が二人の先生です。」

そうハリー先生が言うと、空間がピリッとした。




「これは…。」

「結界ですね。」



「ええ。さすがチャーリー様。いえ、チャールズ=クレイ=オランジュリー殿下。」


ハリー先生はチャーリーの前に片膝をついた。

えっ…。チャーリーって王子様だったの?

お母様が連れてきて、何か事情があるのだろうとは思っていただろうけれど。



本当のこの家の子ではなかった自分と、チャーリーの身分を思うと、短い間だったけれど楽しく兄弟として過ごしてきたことが色あせてきて、気持ちが沈む。


そんな僕の心情を見透かしてか、ハリー先生はフッとほほ笑んだ。

「いいですか。チャーリー様、リリー様。あなた方は私が騎士として仕える国、オランジュリー帝国へ私が連れて行きます。まず、リリー様は本当のこの家の子です。母はマリー=ホワイト、父はケン=ホワイトで間違いありません。」


えっ……。


「これから隣国へ行くまでの間、私が必要な知識と、これまでのいきさつ、生きる力を教えましょう。」



そう言うと、ハリー先生は語り始めた。







チャーリー、……チャールズ様が何故、母に託されたか。


それは、極度の潔癖症である母が、それでも愛する父の子を産みたくて、同性同士でも子を為せるほど生殖医療の進んだ帝国を頼ったことが発端だった。

愛があれば乗り越えられる、と他人は勝手に言うけれど、愛があっても乗り越えられないものもある。
おかげで、夫婦関係は冷え切っていたが、自分が悪いのだからと諦めていたらしい。

それでも、愛する人の子が欲しい。


元々、母は帝国と交易をしており、その伝手で生殖医療を受けようとしたが、帝国でも最先端の医療で門外不出の技術を他国の高位貴族においそれと受けさせるわけにはいかない。

信義に厚い母の性格を評価していた帝国の国王は、医療を受けることを許可する代わりに、母にあるお願いをした。


それは、今僕たちが住んでいるこの国―――――ユーカリ王国の公爵家に嫁いだ王妹を守ること。



当時、帝国は代替わりで今の王様の基盤は盤石ではなかった。

帝国に反旗を翻す動きを見せる国もあり、ユーカリ王国もその一つだったのだ。
王族に近い公爵家を帝国の王は信用していなかった。



母はチャーリーのお母様を外敵から守り、二人は親友になり、そしてほぼ同時期に妊娠をした。



チャーリーのお母様だけでなく、チャーリーを見守るミッションは、母に与えられた秘密の仕事。

だけれど、きっとそれだけではなかったはず。

母は、感情を表すことが苦手だったけど、決して冷たい人間ではなかったから。




だが、一昨年。

チャーリーのお母様は公爵家で毒殺されてしまった。




その時、帝国では陛下の御子が一人ひとり取り返しのつかない怪我を負ったり、狙われていた。
今の王統ではないところが、国家転覆を図っていたのだ。

チャーリーのお母様もチャーリーも現在の王統に連なる。



だから、帝国の陛下は、母に全て片付くまで匿ってほしいと頼んだのだ。





ユーカリ王国は、腹の中では帝国を敵と考えている。

公爵家は、帝国の人質を預かっている感覚だった。

そのために、チャーリーのお母様を誘惑して娶ったのだ。
いざとなれば有益かもしれないと産ませたチャーリーのことも、愛してはいない。


公爵家では、公爵の従妹でもある第二夫人が幅を利かせていて、チャーリーを置いてはおけなかった。






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