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魔界の社交界

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『ルウ、優希くん。竜も魔族になったことだし、こちらの社交界に出てはどうかと思い…。ぜひ俺にエスコートさせてほしいのだが。』


TV電話でお願いされて、竜の母は夫と顔を見合わせて悩んだ。


「あの、アルファさん。私、アルファさんのこと兄の親友で子どもの頃からよく知っているし、こんなこと言いたくないんだけど…。竜のこと兄の代わりにしていません、よね?エスコートするって、ことでしょう?兄に果たせなかった思いをあの子で成し遂げようとしてませんよね?」


「アルファさん。俺たち、アルファさんのこと好きですよ。でも、竜は俺たちにとって大事な息子なんですよ。」




アルファは一息ついた。

2人は、彼が生まれ変わりなのを知らない。

知っているのは、竜本人と本人から明かされた俺だけ。


でも、知っているから。なおのこと、彼をリュウとみてしまっているのでは、と言われると確かに否定しがたいところもある。


『俺も……まだ分からない。ただ、彼を愛している。君たちが人間界で根付いたときに疎遠となってしまった縁の者たちに、今の彼を紹介したい気持ちもある。もし、俺の気持ちが正しいもので、彼も同じであるならば、その時は彼を俺の妻にしたい…。』


「アルファさん。竜はまだ若いし、兄さんみたいに女性を愛するかもしれないわ。けして無理強いだけはしないで。」

「竜が幸せなら、俺たちは何も言うことはありません。」



『ありがとう。』










「今度の休みに社交界?」

軍部の秘書官が運転するロールスロイスに同乗して、学校へ向かう。

確かに、アルファさんに送ってもらえば、変な虫は寄ってこない。

目立つし恥ずかしいけど。

その恥ずかしさにも麻痺し始めたころ、行きの車内で社交界に案内された。



「俺の妹のアンジェラも来るし、その伴侶でシイナも来る。ベータも来るらしい。メフィストも子どもを連れてくるぞ。ルウたちは魔界とは距離を置いているから、懐かしいんじゃないか?向こうでは竜の祖父母宅でもいいし、俺の屋敷でも、泊る場所に支障ないし。」

アンジェラはアルファさんの双子の妹で今は辺境伯を継いでいる。
シイナやベータは俺とアルファさんと同じ、将軍職でともに戦った仲間だ。

そう言われてみれば、会ってみたい。


俺にとっては前世だけど、気になることは気になる。


「わかった。一緒に行くよ。」

「よかった。それじゃ、社交界のマナーのおさらいをしなきゃね。身に着けるものはこっちで準備しておくから。」


頬にキスされ、車を降りる。




「加賀美、おはよー。」

友人の林がアルファが行ったのを見計らって声をかける。

「美人も大変だなぁ。」


「え?何のこと?」


「やー。アルファさん?すげえ独占欲だもん。遊びに連れてこうとした日には絶対ついてくると思う。」

「カラオケとか映画とかゲーセンとかショッピング、テーマパークとかにも…??まさかぁ。」


「いーや、絶対アレはついてくる!シュールな図になるぞ。……あ、でも一周回ってみたいような?」

「高校最後の夏だからなあ。夏休みには夏合宿、皆で行きたいよなー。プールとかもいいよね。内部進学内定組は受験ないし、のんびりと。」


「それで冬はクリスマスパーティに初詣に3月は卒業旅行な!」

全部あの人ついてきそうだけど!


あははーと林が笑う。

うん、俺もそう思えてきた。

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