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本編

月の剣のシグマ

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地球人がエト人をせん滅させようとし始めたとき、12体の守護心はそれぞれ精霊界から現世に顕現していたと、ウーは言う。

そして、散り散りになって逃げたけど、コトラには大体の隠れ里のアテがあり、他の守護心が好んで隠れそうな場所は、きちんと記憶のあるウーには大体分かるらしい。


だから、目的地はコトラとウーで決めていた。


「ガイは乾燥した赤土が好きで、昔から何かあると岩山に穴を掘って隠れていたから、間違いなく荒野のどこかに潜んでいるとは思う。」


僕は、18歳になるまで。18年間もずっとウーと一緒にいたのに、何も知らなかった。

そもそもなぜ、ウーは僕と一緒に居続けたのか。

なぜ、僕を自分のマスターにしたのか。



先を行くコトラとウー。それに従うトラの背中を見ながら、僕の心の中にはもやもや渦巻いている。

僕が質問したら、ウーは教えてくれるかもしれない。

でも、ウーが自分から言わないということは、何か言いにくいことがあるのか。

時が来たら教えてくれるのだろうか。


僕は、いったい何者なのか。


「考え事か?」


シンが、僕の顔を覗き込んだ。


「もう旅は始まった。目的も決まってる。なら、突き進むしかないぜ。」


そうだな。くよくよしてても始まらないんだ。




「そういえばさ、シン。地球人がこの星に降り立った時のエトってどんなだったの?」

僕の知識は地球人の知識で、全く真実を知らない。

まずは、できるだけ正しい事実を聞いておきたい。


「そうだな。お城にエト人の王様と王女様がいて、みんな穏やかにその日その日を楽しんでいたな。エト人は争いが嫌いな平和な種族だから。ある日、大きな宇宙船が不時着して、中から地球人が出てきたのさ。王女様たちは彼らを受け入れた。そして、王女は彼らの一人に恋をした。」

「恋?」

「ああ、生物学者のジャスティスだ。確か。そんな名前。なんか故郷で妻と子を亡くした男で、王女とはかなり年が離れていたけど、なんだかんだ二人は結婚して王子が生まれた。」

「ジャスティス博士は、エト人に殺されたなんてことになっているけど。殺したのは…。」


「そう。ヴィクトールたちだ。エト人と仲良くやってる博士は邪魔だから。王も、王女も殺された。…王子も殺されたと思うけど、よくわからない。」


「分からない?」


「ああ。守護心ヨウが王子についていたはずなんだ。あいつも、行方不明になって生死不明だからな…。あいつは、そうそうくたばるようなタマじゃないと思うんだよな~。」






「ちょっとー!二人とも遅いわよ!」

前を行くコトラに叱られて、僕たちは急いで追いかけた。



荒野へ行く手前の町。

大分空気が乾燥している。

荒野へ向かう前に、水や食料を調達しておかないと。

店の前にコトラたちを待たせて、僕は一人で中へ入った。


「この水と、干し肉と缶詰を。5個ずつ。はい。」

「まいどあり。」


お店の主人にお金を渡して、出たとき。




「もう、遅いわよ。」



僕らは、軍部に囲まれていた。



「ふははは!俺たちは仕事が早い!」

「もう、あんたたちの手配書まわってるんだからね!」


あの、軍人の男女二人組だ。


ーーーーーしまった。もう、手配されていたなんて。

考えたら、そうか。

僕にはあっという間な気がしていたけれど、もうあれから数日は経過しているんだ。

色々あって麻痺していた…。


「ここは、力ずくで突破するしかないわね!」


コトラとトラが、臨戦態勢に入る。

僕も仕方なく、カーディナルに矢をセットした。





「助けてあげようか?」




どこからともなく聞こえてくる、凛としたまっすぐな声。


「誰だ!!!?」



声の主は屋根の上から立ち上がると、剣を抜き、一瞬で相手から武器を握る手を斬りつけた。

致命傷ではない。斬り落とされたわけではないが、治るまで握るのには支障があるだろう。

少なくとも、今、戦うことは難しくなったはずだ。



細身のジーンズ。細くて長い手足。

その割に大きめのシャツをふわりと着た、金髪で緑色の目の若い剣士。



月の形の装飾が施された剣を握る彼は、自己紹介した。


「僕はシグマ。多勢に無勢はいただけないな?」




「おいおい、あの剣…。まじか、生き残りがいたのか。」

僕の隣でシンが呟く。


エト王家の『剣』。騎士の里の秘宝、月の剣。

それを持つ彼は、エトの騎士の生き残りだった。
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