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クロウのデビュタント

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「アルフォンス…。えっちというものは、あんなにすごいものだったのか…。」

「はぁ?」

大きなおなかが破裂しないように大人しくソファに腰掛けて、今日も俺はもうすぐ生まれる子どものためにせっせと縫物をしている。
最近、おなかの赤ちゃんのことと、クロウのことばかりでキールがやきもちを焼いているから、産着の合間にハンカチに刺繍をしていることはまだ秘密。

ちくちくしていたら、精霊王がぽすんと俺の前のソファに腰掛けて。

突然こんなことをいうものだから…。


「っあいたっ!」


俺も思わず針で自分の指をさしちゃった。

ててて、とせっかくだから試験管に少し血を採っていてやる。

クロウが少しでも早く魔王に勝てるくらい強くなれますように。

NO.2と戦っていい線いってたんだから、もうすぐだと思うのだ。




「腰が痛いし、なんかその、まだ入ってるような違和感というか。なんだろう、恥ずかしい。」

「ルピがそんなに情熱的だとは意外…。人は見かけによらないんだな。」


「今夜もやっぱり求められるんだろうか。おなか凄くすくんだ。お肉がたべたい。」


やっぱり食いしん坊は変わらないらしい。

「精霊王様は大けがをしたから、余計に肉をとったほうがいいですよ。今夜はパーティですからね。おいしいお肉もたくさん出ますよ。」


にっこり微笑むと、アバロンはぱああっと花が咲いたように笑った。

こういうところをルピは好きなんだろうなあ。




そう、今夜は城で舞踏会が開催される。



帝国の貴族の、新しく子どもから大人への一歩を踏み出す若者たちのデビュタント。

クロウも、今日のデビュタントに参加するのだ。








ファンファーレ。軍部の皆様が警備につく中、宮殿の扉が開かれる。


「帝国にも貴族っていたんですね。」

ルピはグリーンのスーツを着て、黄色のスーツを着たアバロンをエスコートしている。

俺は、キールの側で黒のスーツを着て座っていた。


「ルピ、それは失礼だぞ。我が国にも貴族くらいいる。腐った奴らを排除しまくった結果、よそより少ないだけで…。」

「いや、帝国の軍部とか官吏にもあまり貴族の影がなかったものだから。宰相とか大臣も見たことないし。」

「身分で登用してませんからね。各所にリーダーはいますが、優秀な人材がうまく回してくれてますよ。どうせ貴族の宰相や大臣なんて、お飾りなんだからいいんですよ。」

相変わらずユンスは辛らつだ。

「じゃあ、彼らってなんの仕事をしているの?」

「領地経営?」

「帝国の貴族は暇で楽しそうだな。そういう状況だと腐敗も起こりにくくていいね。」

「だろう?それが目的。」


こんなふうに言われてると思わないんだろうなァ。

そう思いながら、俺は会場の貴族たちに手を振る。



大きな歓声。



クロウの出番だ。

クロウは、オフィリアお母さまをエスコートして会場に入った。


さすがお母さま。
時々忘れるけど、きちんと上等なふるまいができる。
その調子で、それとなくクロウを逆エスコートしてあげてほしい。

クロウには、耳と尻尾が目立たないようにルピの国の衣装を着てもらった。


頭に巻く布と腰布。これでうまく隠れている。


白い服に身を包み、まるで異国の王子様。




「どなたかしら?あの異国の方。」

「麗しいわ。」


「お妃さまのお母様をエスコートしているということは、王族の関係者の方かしら。」

「あれは西のゴールド王国の貴族のお召し物。王太子もいらしているし、弟君かもしれない。」

「ゴールド王国に第二王子なんていらっしゃったかしら…。」




あうあうー。早くお肉食べたい。お肉食べたい。お肉食べたい。

「我慢して、クロウちゃん。立派にやるんでしょ!大体私だってお肉食べたいんだからね!」

我慢してダンスを踊るクロウを、オフィリアはなだめた。

宥める間に、アバロンを睨みつけた。



私より先に肉食べに行ったら、怒るわよ!
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