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ルピの来訪と魔物たちと

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西の水の都。

海路と陸路の交わる都市。

芸術の都。


質の良いシルクが生産され、美しいグラスや工芸品、アクセサリーは他の追随を許さない。

世界中の富裕層の憧れの国。


大理石でできた白亜の宮殿では、この国の王太子が出国の準備をしていた。


「それでは行ってまいります、陛下、妃殿下。」
日に焼けた肌に白の正装が良く似合う、金色を冠する国の名にふさわしい、金髪と翡翠色の瞳。
彼は多くの荷物を準備していた。

国が誇る美しい芸術品、センスのよい衣装。
衣装は彼のサイズだけでなく、彼より少し大きなサイズや小さなサイズも準備していて、かの国への土産も準備していた。

そしてなぜか大量の羊の塩漬け肉。



「王太子よ、しっかり帝国の技術を学んでくるのだよ。」

王太子に面影の似た恰幅のいい王様が愛息子を見つめる。
あの気難しいキール王と息子が友人関係を結んだなど、いまだに信じられないが、外交上手の息子は確かに次代の王に相応しく、誇らしい。

ただ、婚約者がいないのが玉に瑕。

クロノス王国との縁談が消えて以来、他の姫君を何度か紹介したが、彼は一向に首を縦に振らない。

とはいえ、王族の義務をよくわかっているこの子は、最終的には誰かと結婚するなり跡取りを残すのだろうから、長い目で見守ることにしていた。



「はい。いいところを学び、友好を深めてまいります。」


「向こうについたら連絡するのですよ。」

王太子に雰囲気が似ている優しい王妃の周りには、まだ幼い彼の妹たちが並ぶ。
年上の妃だった母親は、50手前になるまで子づくりを頑張ったが、どうしても王子はルピしか恵まれなかった。
5人いる妹たちは既に他国への輿入れ先が決まっている。


こうしてルピは旅立った。
ゴールド王国の王族専用船で、2日後には帝国へ着くだろう。


「楽しみだなあ。みんなどうしてるだろう。アルフォンスもお腹、膨らんできたかなあ。」

あんなに好きだったはずなのに、不思議と落ち着いている。

異性だと思っていたからそう思っていただけで、自分の好きも友だちの好きだったのではないか、と昇華した。

ペールグリーンの人の顔がよぎる。
似てる。
似てるところもあるけど、違う。
大人ぶっているけど、純真で。
頭も固いし、融通きかなそうだけど。
それを崩した時が面白い。
故郷のラム肉料理を食べさせてあげる。






魔物たちの間では噂になっている。

食えば魔王になれるほどの上質な肉がある。

探して誰が食うか。

みな、躍起になって探している。

魔物の棲家のスラムには、魔狼の女が住んでいで、飛び出していった息子を心配していた。


物理攻撃には強いけど、魔法には弱い。
すばしっこいが、猪突猛進しか知らないから、少し範囲を広げた魔法で派手にぶちかませば、直ぐに倒せる。

だから、魔狼はいつも使いっぱしり。

「あの子が帰ってこない。」

もしかしたら、人間に捕まったのだろう。

殺されなくても、ペットにされて飼い殺されることもある。

でも、そっちのほうがいい。


魔王の座を狙って、肉を探す者たちは、当然、人間界に行く前に、
魔王に処分されていた。

あらかた終われば、魔王様は自分が食べるために人間界に行くだろう。

その時に、魔王様に会いませんように。


苦しい暮らしでも、息子が生きてくれる方がいい。

生命こそ宝なのだから。
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