王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

幸せな結婚式

ガラス張りのアーチに囲まれた、巨大な温室の中の王宮の式場に、参列者が集まる。

花嫁の親族席には、桜の花を思わせる桃色の髪の美女が座り、花婿側には乳兄弟で侍従のユンス夫婦と彼の両親が座る。

ずっとハンカチで涙を拭いているのは、花婿である王の乳母だろう、ユンスの母親。

実の母を失ってからは、彼女が母親代わりだった。


誓いをする司教の前に立つ蜂蜜色のスーツの男は、黒髪黒眼の美丈夫で、〘残酷王〙の二つ名からのイメージとはかけ離れている。
花嫁を待つその表情は慈愛に溢れ、柔らかさと誠実さを感じさせた。



ファンファーレが鳴り、花嫁が現れる。

花嫁の母親によく似た緑色の髪の男性にエスコートされて現れた花嫁は、男性のためドレス姿ではなかったが、黒のスーツとドレスシャツが華やかで、肌の白さを際立たせており、銀のアクセサリーと銀色の造花の花束、銀糸のヴェールが風に揺らめいて、優雅な美しさを見せつける。


ほうっと、会場から感嘆の声が漏れる。

ルピ王子も、初めて見るアリアの真実の美貌に心を奪われていた。


何故、帝国が目をつける前に、アリアがいいと自分は押し通さなかったのか。
そうしていたら、アリアを王国から救ったのは自分で、神の前でアリアを待つのは自分だったはずなのに。

男でもいい、子を産めなくてもいいから、アリアが欲しかった。



だが、後の祭り。


エスコート役の母方の親族だろう男性の手から、王の元へ行き、彼のそばへ立ったアリアは、幸せそうに微笑む。


これは、加護目当ての不幸な結婚ではないことを、やっと参列者は理解した。


「若い二人に祝福を。」


エスコートをしていた男がそういうと、会場にフラワーシャワーが飛ぶ。


「キール=フォン=クリスタル。あなたは、彼を生涯愛することを誓いますか?」

「誓います。」

「アリア=スノー=クロノス改め、アルフォンス=スノー=クリスタル。あなたは、彼を生涯愛すると誓いますか?」

「はい!　誓います。」


ヴェールを捲って、約束の軽い口づけを交わす。


「これより、二人は正式な夫婦として認めます。祝福を!」

司教の合図で、祝福の音楽が奏でられた。


二人が参列者に向き直り、キール王がアルフォンスの腰を抱く。


「彼は、生きるために性別を偽ってきた。これを機に、アリアという名は捨て、アルフォンスとなる。そして……」

二人顔を見合わせる。

アルフォンスは、下腹部に手を。

「既にアルフォンスは、俺の子を懐妊している。これから家族が増えていくだろう。」