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絶対に逃がさない
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「クリスタル陛下にはご機嫌麗しゅう。」
伴もつけずにお忍びでいらした陛下は、若い。
黒髪黒眼。エキゾチックな美丈夫で、がっしりした体格。
年はまだ20代前半の若者だが、策略と力で政敵を一掃し、邪魔な者を全て死罪にした残酷王。
彼の治世で、帝国はより強固に栄えている。
隣国の怪物。
年齢にそぐわぬ威圧感で、汗が止まらない。
「ああ、楽に。今日は前王のアリア王女を我が嫁にいただけないかと思ってきた次第だ。」
「アリアを……ですか。子どもの頃は美しい子でしたが、正直、パッとしない子です。よろしいのでしょうか。」
「いいんだ。精霊の加護の瞳を持っているのだろう? 帝国は産業は栄えたが、代わりに汚染も進んでしまった。験担ぎでもいいから、欲しいのだよ。代わりに、お前の国へは軍をこさせないでおこう。」
婚姻の申し入れには無粋だからね、国境沿いにおいてきたんだよ。
無邪気な笑顔が逆に恐ろしい。
「わかりました、アリアを輿入れさせます。」
「その母親も面倒みるから、ね。」
「はい!」
そういうことがあったのが、今日の午前中。
「やばい!明日が婚約式!! 結婚式みたいにこの国で国民の前で宣誓させられる!」
男で男と結婚できるわけがない!
ただでさえ今まで姫のふりをしてるのに、罪が重くなる!
輿入れしてから、男とバレるのもたいへんだ。
「逃げましょ! 今すぐ!」
幸い金はギルドに貯金している。
俺は長い髪をナイフで切って、足がつかないように火魔法で燃やし、精霊に戻った母親とともに、最低限の荷物を手に城を出た。
まずはギルドに行こう。
ギルドの銀行は、どこからでも引き落とせるけど、当座の資金と、宿を手配したい。
「珍しいわね、夜にあなたが来るなんて。」
ギルドの酒場は、客でごった返していた。
「今までありがとう。実は、今夜国を出ようと思って。旅賃を下ろしたいのと、今日泊めてほしくて。」
「そうなの。寂しくなるわね。お金は大丈夫だけど、部屋は困ったわ。」
えっ。満室なのか……。
ここが一番追手的に安心だったんだけどなぁ。
余計な詮索されないし。
「アルフォンスじゃないか!」
酒場から、声がする。
昼間にパーティーを組んだキールだ。
「どうしたんだい?髪も切っちゃって。」
「実は、急なんだけど国を出ようと思って。髪は…気分転換? 遅いからここに泊まって、明日出立する予定だったんだけど、満室だからどうしようかなと思っていたところ。」
「ふーん。」
キールは、腕を組んで考えると、パチンと指を鳴らした。
「じゃあ、俺の部屋に泊まるといいよ。」
「え、いいよ。こうなったら、夜だけど出立するし。野宿でもなんとか……」
「夜は危ないよ。悪い狼に食べられちゃうかもよ?……まあ、知らない仲じゃないし。男同士なんだからいいだろ?それに、俺はリッチなんだ。物盗りの心配もないよ。」
確かに、キールの装いはリッチだ。
何処かの貴族のお忍びって言ってもおかしくない、質のいい生地に仕立てがいい。
「じゃあ、お願いしようかな。ありがとう。」
「どういたしまして。」
逃さないよ。
伴もつけずにお忍びでいらした陛下は、若い。
黒髪黒眼。エキゾチックな美丈夫で、がっしりした体格。
年はまだ20代前半の若者だが、策略と力で政敵を一掃し、邪魔な者を全て死罪にした残酷王。
彼の治世で、帝国はより強固に栄えている。
隣国の怪物。
年齢にそぐわぬ威圧感で、汗が止まらない。
「ああ、楽に。今日は前王のアリア王女を我が嫁にいただけないかと思ってきた次第だ。」
「アリアを……ですか。子どもの頃は美しい子でしたが、正直、パッとしない子です。よろしいのでしょうか。」
「いいんだ。精霊の加護の瞳を持っているのだろう? 帝国は産業は栄えたが、代わりに汚染も進んでしまった。験担ぎでもいいから、欲しいのだよ。代わりに、お前の国へは軍をこさせないでおこう。」
婚姻の申し入れには無粋だからね、国境沿いにおいてきたんだよ。
無邪気な笑顔が逆に恐ろしい。
「わかりました、アリアを輿入れさせます。」
「その母親も面倒みるから、ね。」
「はい!」
そういうことがあったのが、今日の午前中。
「やばい!明日が婚約式!! 結婚式みたいにこの国で国民の前で宣誓させられる!」
男で男と結婚できるわけがない!
ただでさえ今まで姫のふりをしてるのに、罪が重くなる!
輿入れしてから、男とバレるのもたいへんだ。
「逃げましょ! 今すぐ!」
幸い金はギルドに貯金している。
俺は長い髪をナイフで切って、足がつかないように火魔法で燃やし、精霊に戻った母親とともに、最低限の荷物を手に城を出た。
まずはギルドに行こう。
ギルドの銀行は、どこからでも引き落とせるけど、当座の資金と、宿を手配したい。
「珍しいわね、夜にあなたが来るなんて。」
ギルドの酒場は、客でごった返していた。
「今までありがとう。実は、今夜国を出ようと思って。旅賃を下ろしたいのと、今日泊めてほしくて。」
「そうなの。寂しくなるわね。お金は大丈夫だけど、部屋は困ったわ。」
えっ。満室なのか……。
ここが一番追手的に安心だったんだけどなぁ。
余計な詮索されないし。
「アルフォンスじゃないか!」
酒場から、声がする。
昼間にパーティーを組んだキールだ。
「どうしたんだい?髪も切っちゃって。」
「実は、急なんだけど国を出ようと思って。髪は…気分転換? 遅いからここに泊まって、明日出立する予定だったんだけど、満室だからどうしようかなと思っていたところ。」
「ふーん。」
キールは、腕を組んで考えると、パチンと指を鳴らした。
「じゃあ、俺の部屋に泊まるといいよ。」
「え、いいよ。こうなったら、夜だけど出立するし。野宿でもなんとか……」
「夜は危ないよ。悪い狼に食べられちゃうかもよ?……まあ、知らない仲じゃないし。男同士なんだからいいだろ?それに、俺はリッチなんだ。物盗りの心配もないよ。」
確かに、キールの装いはリッチだ。
何処かの貴族のお忍びって言ってもおかしくない、質のいい生地に仕立てがいい。
「じゃあ、お願いしようかな。ありがとう。」
「どういたしまして。」
逃さないよ。
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