貧乏伯爵の三男(勇者?)は潜伏魔王に嫁ぐ

竜鳴躍

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陛下の後悔

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「それでは、前陛下。1時間後に食器を下げにまいりますので。」


淡々と無表情で仕事をして去っていく侍女。

無言で控える騎士。



まるで私は罪人だ。


城の片隅にある離宮に押し込まれた私には、もう何もない…。


私は何も考えなかった。
私は何もしなかった。

それが私の罪なのだろう。


アンリに言われるまで、自分で調査すらしなかった。


調査して分かったのは、当時のアンリは『王子が魔王のイレモノにならない対処法』を研究していたということだ。

昔の人間………いや、この国以外のところでは、『魔王』になる前のそれを冒険者が中心となって祓っていた。
何代も封印を繰り返し、弱体化しているであろう今ならば、たとえイレモノから解放されたとしても祓ってしまえるのではないか。

封印をするよりも、『なくしてしまう』方が大事なのではないか。

そう考えていたようだ。

そして、多大な魔力を持つ自分であればそれは可能なのではないかと…。

封印はその場しのぎ。問題を先送りにすることにしかならない。
最初にその方法が選ばれたのは、その時はそれしかなかったからなのだ。

それを考えもせず、私は……ドゥーブルに騙されてアンリをイレモノにし、そしてすべてを失った。

国王としての立場だけじゃない。



本当に愛していた女性マーガレットも。
子どもたちからの敬愛も。



あんなにオドオドしていたトロンは立派な国王になってその才覚を発揮している。
王妃になったカリナ嬢が上手くトロンの足りないところをカバーし、トロンの良さを引き出しているのだ。

そして、それを支える辺境…。
アンリ……。

トロンはアンリに辺境伯としての地位だけでなく、大公殿下として公爵位を授けた。
夫人の実家のブリッジ伯爵家は侯爵家に。
勇者と聖女だけじゃない。
勇者パーティーの末裔として、伯爵家がこの国をこれまで影から守って来た功績を讃えた。
本来アンリに与えるはずだった王子領を辺境伯家に与えたのと同時に、ドゥーブルの持っていた領地をブリッジ伯爵家に与えたから、爵位が上がって納めなければならない税が増えたとしても、これからは領地経営に困ることはないだろう。
無能な私では考えもしなかっただろうな…。


息子が良い国王であればあるほど。
アンリが素晴らしくあればあるほど。
私の失策が浮かび上がる………。



「トロンがブリッジ伯爵家を侯爵にしたのは、マーガレットのためでもあったのだろう…。」



直に彼女は、他の男のものになるだろう。



孤独の中で、私は独り言ちる。
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