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君のダンスについてこれない床が悪いし、ついてこれない男が悪い

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「え、あの…。私、ダンスはちょっと自信がなくて。」

ケニー様はほほ笑んで、私の手を取ってくれた。


「大丈夫。俺ならね。」



あそこで壁の花になってニヤニヤこっちを見てる女は、この間街で会った女。
ちくしょう。
私が失敗するのを楽しみにしてるんだわ。
そんな根性だから嫁の貰い手がないって、いい加減理解しなさいよ。


もぅ、えいっ!
神殿のてっぺんから飛び降りたつもりで頑張るわ!


――――――――――と、ハラハラしていたのに。


嘘でしょ?


わたし、わたし、踊れてる!


ステップを踏めてる!


床が壊れていないわ!


ケニー様のリードがいいのかしら!


「ケニー様……!私!踊れてる!!!」

「ふふ、リリーは運動神経がいいんだよ。だから、なんだ。ぜんぜん下手なんじゃないよ。君のダンスについてこれない床が悪いし、ついてこれない男が悪いだけだよ。」

「ケニー様っ♡」

「刺繍や楽器だって素材が軟弱すぎるだけなんじゃないかな。そんなものやらなくたって君の価値が下がるわけじゃないけど、気にしているなら、君に相応しいものを今度プレゼントするよ――――――――。」

アラクネの糸で織られた生地やトレントで出来たヴァイオリンを。

エー!そんな素材を簡単にぃ!







壁の花の意地悪令嬢は、口を大きくあんぐり開けて、見開いた目でソレを見ていた。
周りに自分が見られていることなど、気づいていない。

「なによあれ!なによあれ!リリーのくせになんで踊れているのよ…!しかも何なの、あのダンス!」

優雅に曲にあわせて踊っているが、蝶のように舞い蜂のように刺す……そんな表現がぴったりだ。

キレの良い足さばき、それに合わせて男性側もリードする。

それに、なんということでしょう。

リリーたちが動くたびに、床の色がそこだけ変わっている。

――――――まるで魔法で強化しているように虹色に…。


見た目はとても可憐で美しいリリー=ホワイト。

だけれど、その中身はおよそ令嬢とは思えないゴリラ、だったはずなのに…。

会場の男はリリーに見惚れている。

そしてその隣には、麗しきケニー=ビューテ次期侯爵。


悔しい!悔しい!悔しい!!!!


【………そうよね、悔しいわよね。望んだ方を手に入れられないなんて…。】

背筋がぞわっと冷えた。

どこかで聞いたことがある気がする。
怨嗟を含んだような静かな低く這うような、だが華やかな―――――女性の声。

【あんな男どうでもいいじゃない。もっと素晴らしい方がいるでしょう?大丈夫よ。王族は複数の妻を持てるのよ?貴方を素敵なレディにしてあげるわ。】

私の妄想かしら…。頭の中に響く。

そうして、徐々に。

行き遅れ令嬢・ロザリー=ルクス伯爵令嬢の意識は底へ沈んでいった。
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