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デビュタントへ
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「学園はどうだった?」
夕餉のテーブルでお父様が尋ねる。
「たのしかったです。」
「意地悪はされなかったかい?サンは美人だから、女の子がやきもちを焼くだろう?」
「大丈夫ですよ。かわいいものです。」
ナイフとフォークで小さく肉を切り取って、いただく。
質がいい肉だ。柔らかい。スッと口の中に溶けていく。
ただ、亡くなった本当のサンに似ていたというだけで得られた幸運。
自分だけ、こんなふうに幸せでいいのだろうか。
かつての仲間や子どもたちを思いながら、いつも心から愉しめない。
「先生から、勉強も出来るし、戦闘術も騎士団顔負けで素晴らしいと言われたよ。きっと成績はダントツでトップだろう。サンが学園生活を楽しめればそれでいいと思っていたが、褒められると嬉しかったよ。」
この分であれば、自分の跡継ぎも難なく出来るだろう。
学園になれたら、剣を自ら教えてやりたい。
強くても、我流のはずだから。
本当なら、ティナと一緒にこの子を育てているはずだった。
成長に喜び、節目節目を祝っていた。
きっとこの子はこんなふうにどこか寂し気に笑う子ではなかったはずだ。
そのことを思うと、胸が痛む。
だけれど、こうして生きて会えただけ自分たちは救われている。
「……そのうち、私が剣の指導をしてやろう。」
「いいのですか?」
「ああ。当たり前だ。君は私の息子なのだからね。」
そういうと、『ありがとうございます。』とほほを染めて、笑ってくれた。
まだ、短い時間だが、それなりに彼の中で自分は父親になってくれてるのであれば、うれしい。
「そうだ。そういえば、君に伝えなければならないことがあったのだ。」
「なんでしょう?」
「貴族の子は、一年に一回、城で開かれるパーティに出て、一人前の貴族の一員として認められるんだ。デビュタント、というんだよ。普通は15,16くらいで参加するんだが、近々開かれるそれに、サンも参加させたいと思っている。普通は婚約者と参加するんだが、婚約者がいない子は兄弟姉妹や親戚とか親と参加する子もいるんだよ。サンは、男の子だけど女の子側だから、私がエスコートするつもりでいる。参加するのに、衣装を新調する必要があるから、そのつもりでいてほしい。」
「分かりました。」
「旦那様、サン様は美しく優秀。学園にも入学しましたし、デビュタントでのお披露目もすれば、すぐに婚約の申し込みが殺到するでしょう。楽しみですね。私たち一同全力で、国一番サン様を輝かせてみせますよ。」
「ああ、そうだなあ~。婚約…、婚約者も…。うーーーーん。」
サマンサたちは、サンを着飾らせて、素敵な婚約者ができることを期待しているのかもしれないが、正直今までともにいられなかった分、幼い子どものようにかわいがりたい。まだ、婚約者なんて邪魔だ。
こんなにかわいいサンが、男と手を繋いだりキスをしたり、そういうことをすると考えただけで、相手の男を殺したくなる。
サンが欲しいなら、私を倒せるくらいでなければ困る。
「お父様。俺はどんな相手でも、お父様が決めた方と結婚しますよ。」
「サン様は、もう少しわがままでもいいんですよ?旦那様は、サン様が可愛いのは分かりますが、なおさら、婚約者を決めるべきです。変な男に付きまとわれたら困るのはサン様なのですから。サン様に釣り合う年齢で、まだ婚約者を決めていない優良物件なんて、たいして残っていないんですからね?例えば、ケヴィン殿下とか……。」
ぶっ。
「ご、ごめんなさい!」
サンがお茶を噴いた。
顔が赤い。
気が付いていないかもしれないけど、君は殿下が好きなんだろうか。
相思相愛かあ。お父様は寂しい。
寂しいから、もう少し殿下には黙っておこう。
国の外れの森の中の屋敷。
それが組織の隠れ家であり、ゲネスの屋敷だ。
「……おい、俺だ。」
自室で吞んだくれていたゲネスの部屋に、音もたてずに黒づくめの体格のいい男が立つ。
「ジェネシス。」
ゲネスが最初に仲間に引き込んだ、裏家業の者。そのリーダーを見やり、ゲネスは名前を言った。
彼らに、攫った子どもの教育や処遇は任せているし、その始末も任せている。
彼らは元々、国で一番勢力のある野盗だった。
いつしか、王族や貴族を逆恨みした平民を仲間に引き入れて、ちょっとした軍隊のようになったが。
「ケヴィン王子の率いる騎士団が、俺たちを探っているぞ。もしかしたら、ブラッキーが生きていて、情報を提供したのかもしれん。少し、探らせる。レッド、あいつもそのくらいできるくらいの仕上がりだし、レッドならブラッキーも油断するだろうからな。」
「……そうか、まかせるよ。しかし、ケヴィンは邪魔だな。」
「そうだな。やれそうなら、消すか。」
「ああ。」
ウィスキーを飲みながら、つぶやくと。
その瞬間、ジェネシスの姿は消えた。
夕餉のテーブルでお父様が尋ねる。
「たのしかったです。」
「意地悪はされなかったかい?サンは美人だから、女の子がやきもちを焼くだろう?」
「大丈夫ですよ。かわいいものです。」
ナイフとフォークで小さく肉を切り取って、いただく。
質がいい肉だ。柔らかい。スッと口の中に溶けていく。
ただ、亡くなった本当のサンに似ていたというだけで得られた幸運。
自分だけ、こんなふうに幸せでいいのだろうか。
かつての仲間や子どもたちを思いながら、いつも心から愉しめない。
「先生から、勉強も出来るし、戦闘術も騎士団顔負けで素晴らしいと言われたよ。きっと成績はダントツでトップだろう。サンが学園生活を楽しめればそれでいいと思っていたが、褒められると嬉しかったよ。」
この分であれば、自分の跡継ぎも難なく出来るだろう。
学園になれたら、剣を自ら教えてやりたい。
強くても、我流のはずだから。
本当なら、ティナと一緒にこの子を育てているはずだった。
成長に喜び、節目節目を祝っていた。
きっとこの子はこんなふうにどこか寂し気に笑う子ではなかったはずだ。
そのことを思うと、胸が痛む。
だけれど、こうして生きて会えただけ自分たちは救われている。
「……そのうち、私が剣の指導をしてやろう。」
「いいのですか?」
「ああ。当たり前だ。君は私の息子なのだからね。」
そういうと、『ありがとうございます。』とほほを染めて、笑ってくれた。
まだ、短い時間だが、それなりに彼の中で自分は父親になってくれてるのであれば、うれしい。
「そうだ。そういえば、君に伝えなければならないことがあったのだ。」
「なんでしょう?」
「貴族の子は、一年に一回、城で開かれるパーティに出て、一人前の貴族の一員として認められるんだ。デビュタント、というんだよ。普通は15,16くらいで参加するんだが、近々開かれるそれに、サンも参加させたいと思っている。普通は婚約者と参加するんだが、婚約者がいない子は兄弟姉妹や親戚とか親と参加する子もいるんだよ。サンは、男の子だけど女の子側だから、私がエスコートするつもりでいる。参加するのに、衣装を新調する必要があるから、そのつもりでいてほしい。」
「分かりました。」
「旦那様、サン様は美しく優秀。学園にも入学しましたし、デビュタントでのお披露目もすれば、すぐに婚約の申し込みが殺到するでしょう。楽しみですね。私たち一同全力で、国一番サン様を輝かせてみせますよ。」
「ああ、そうだなあ~。婚約…、婚約者も…。うーーーーん。」
サマンサたちは、サンを着飾らせて、素敵な婚約者ができることを期待しているのかもしれないが、正直今までともにいられなかった分、幼い子どものようにかわいがりたい。まだ、婚約者なんて邪魔だ。
こんなにかわいいサンが、男と手を繋いだりキスをしたり、そういうことをすると考えただけで、相手の男を殺したくなる。
サンが欲しいなら、私を倒せるくらいでなければ困る。
「お父様。俺はどんな相手でも、お父様が決めた方と結婚しますよ。」
「サン様は、もう少しわがままでもいいんですよ?旦那様は、サン様が可愛いのは分かりますが、なおさら、婚約者を決めるべきです。変な男に付きまとわれたら困るのはサン様なのですから。サン様に釣り合う年齢で、まだ婚約者を決めていない優良物件なんて、たいして残っていないんですからね?例えば、ケヴィン殿下とか……。」
ぶっ。
「ご、ごめんなさい!」
サンがお茶を噴いた。
顔が赤い。
気が付いていないかもしれないけど、君は殿下が好きなんだろうか。
相思相愛かあ。お父様は寂しい。
寂しいから、もう少し殿下には黙っておこう。
国の外れの森の中の屋敷。
それが組織の隠れ家であり、ゲネスの屋敷だ。
「……おい、俺だ。」
自室で吞んだくれていたゲネスの部屋に、音もたてずに黒づくめの体格のいい男が立つ。
「ジェネシス。」
ゲネスが最初に仲間に引き込んだ、裏家業の者。そのリーダーを見やり、ゲネスは名前を言った。
彼らに、攫った子どもの教育や処遇は任せているし、その始末も任せている。
彼らは元々、国で一番勢力のある野盗だった。
いつしか、王族や貴族を逆恨みした平民を仲間に引き入れて、ちょっとした軍隊のようになったが。
「ケヴィン王子の率いる騎士団が、俺たちを探っているぞ。もしかしたら、ブラッキーが生きていて、情報を提供したのかもしれん。少し、探らせる。レッド、あいつもそのくらいできるくらいの仕上がりだし、レッドならブラッキーも油断するだろうからな。」
「……そうか、まかせるよ。しかし、ケヴィンは邪魔だな。」
「そうだな。やれそうなら、消すか。」
「ああ。」
ウィスキーを飲みながら、つぶやくと。
その瞬間、ジェネシスの姿は消えた。
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