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新章(アリスの結婚編)

帰還と再会

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グロリア伯爵は亡くなり、娘のウインディが女伯爵になった。

死因は、心不全ということになった。


組織は、ピーターが引き継いだが、あるべき姿に戻したら、徐々に縮小化していくそうだ。




「ただいま、みんな帰ったよ。」


「わーい、お兄様!」


「お兄さま、ザオラルさま、ルージュ様!ケーキ焼いたので、あとで食べてくださいね!」


「うふふ、いい茶葉をお土産に買ってきたので、一緒にいただきましょう。」




屋敷に帰ると、全員で出迎えてくれた。


僕も、妻たちも無事に帰ってこられてうれしい。



変わらずキャッツアイの情報収集力には頭が下がる。

お母さまがつけてくれたのか?と思っていた男は、彼が最初から危険を察してつけてくれた男だった。

しかも、今回の件の始末をするのに、まさに最適な人物だったといってもいい。

政治には裏と表がある。

きれいごとだけで片付かないこともある。

それは、大人になって、分かったこと。

きっと、お父様もお母さまも、ああ見えて綺麗ごとだけではないんだろう。

清濁併せのみ、判断し、決断していかなくてはならない。

だけれど、将来王になる可能性が高い僕が、触れてはいけないものもあるのだ。


騎士団長としてのお母さまには、すべてを報告しなければならないが、
国母になるかもしれないお母さまに、ストレートに伝えるのは憚られる部分もある。

キャッツアイはうまく収めただろう。


仕事に対する姿勢は真面目だが、柔軟さと、バランス感覚があるヤツだ。



我が弟は、すごいヤツに見初められたものだなぁ、と思う。



「このお茶、ジュリエッタお姉さまのケーキにあう~!」


幸せそうにケーキを頬張る、素直で可愛い弟。

こういうところに癒されるんだろうなあ。


「アヴニールもいろいろありがとうな。」


そういうと、えへへ。と笑った。


「ところで、キャッツアイ。そんな木の上でアヴニールを視姦していないで、降りてきて一緒にお茶したらどうだ。」


「しかん?」
アヴニールが首を傾げる。


「目をえぐり取ってやろうか。」お父様の危険な発言は、笑顔を貼り付けたお母さまにぺしっと横からたたかれた。


未来は変わったけど、お母さまに一番そっくりのアヴニールを、お父様はどう見ても溺愛しているから、キャッツアイは大変だと思う。


「視姦なんかしてないぞ!!!」出てくるタイミングがなかっただけで…とごにょごにょ言いながら、ワイヤーを駆使し、しゅたっと下りてくる。



「アリス、後で付き合ってくれ。」












市街の外側にある墓地。

黒いドレスを着た銀髪の髪の女性が、執事に伴われて、大きくて立派な墓に花を供える。



俺は、俺の部下妖精を連れて、見知った執事に、初対面の顔をして会釈する。


「この度は大変でしたね。これから女伯爵として大変でしょうが、あなたなら大丈夫です。多少家格が低くても、気持ちの優しい、あなたを支えてくれる者を見つけて、領地を盛り立ててください。」


「…ありがとうございます。」


気持ちのこもっていない花を捧げ、去ろうとする。


一目、会いたかっただけ。

もう二度と会うこともない。


「…あの!」


振り返ると、彼女の瞳が揺れている。


「あなたは、ピーターではありませんか? 私、あなたを待っていたの!!私、貴方でなければだめなの!」


「あなたの知っているピーターはいませんよ。大体、最後に会ったのはあなたが2歳、俺が5歳だ。幼い想いなど幻想にしか過ぎない。俺でなければ等ということはない。」


「いやよ!やっと、やっと再会できたのに、そんなことおっしゃらないで!」


「俺がどんなふうに生きていたか。俺は汚れています。」


「私も同じだわ。途中でお父様のことにはうっすらと気づいていた。けれど、何もしなかったんだから。」


「あなたに罪はない。すべて忘れなさい。」

僕らはもう、大人になってしまったんだよ、ウィンディ。



ウィンディを抱き寄せて、口づけをする。


うっとりと受けるウィンディに、薬を流し込む。

倒れた彼女を、執事ーーー俺の部下ーーーが受け止めた。




目が覚めたとき、彼女は俺のことを忘れているはずだ。その、気持ちごと。父親の悪事も。

きっと、これで前へ進める。




「行こうか、ティンカー。俺たちの主に挨拶をしなければ。」


「はい。今夜は、痛くしてもいいですよ?」









人気のない、山間の湖のふもとで彼と落ち合う。


「アリス=クレイソン様。俺はあなたに忠誠を誓う。あなたの影の剣として、生涯、この国を世界をあなたが望むよう、守りましょう。」


「ピーター=パンス、ジョージ=クライス。剣を授ける。」


キャッツアイとティンカーが見守るほかは、誰も見ていない、影の儀式。

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