190 / 415
新章 溺愛編
いつもみんなそう言うんですよ?2
しおりを挟む
俺は、咄嗟に果物ナイフを握って突っ込んでくる彼女の腕を掴み、ナイフを取り上げた。
ナイフは柔らかな芝に落ち、アリスが遠くへ蹴飛ばした。
「うっ、ふっ、ふうっ。」
息を切らして、俺のことを睨みつける。
何故、これ程憎しみをぶつけられるのか分からない。
「何故、あなたが、子どもを産むのッ!あなたが産むから、王太子妃が真剣に子を持つ努力をしてくれないじゃない!!」
陛下と王妃は本当に素敵な方々で。
なのに、あなたのせいで血を未来に残すことができない。
あんなに素晴らしい方々なのに!!
かわいい孫に会えないのよ!
「俺が子を産むことと、何の関係があるのか分からないんだが…。」
あざになっているかもしれないと思うが、何をするか分からないから力を緩めるわけにはいかない。
近衛が来るまでは、少なくとも捕まえておかないと…。
「…あのっ、あのね! 私、本当に赤ちゃんが欲しくないの! ディビッドも、それでいいって!」
「あなたは!王太子妃なのよっ!どんなことでもして産みなさいよ!そうじゃなかったら、王太子様に側妃を迎えて、他の人と作ってもらうようあなたがお願いしてよっ!」
「アイリス、デイビッドさまはアンジュさましか見ていない。学園の頃からそうだったから、君もわかるだろう?なんて言おうが、だれが頼もうが、あの方がほかの誰かと子をもうけるなどありえないことだ。」
なだめようとしたが、また、血走った目を向けられた。
掴んでいないほうの手で腹を殴ろうとされたので、もう片方も捕まえようとしたが、その前にアリスがつかんでくれた。
「こんな子…!生まれないほうがいいのよおおおお!!!!」
「ひとごろし。」
アリスがぼそっと呟いた。
「違う!違う!!! 私は、王太子妃に子を産んでもらうために、この子に流れてほしいだけ!」
「赤ちゃんも人ですよ、生きてる。」
アリスが、アイリスの手を掴んだ状態で、俺の腹に優しく触れさせた。
「それに、この毒。お母さまが死ぬことも、あるんですよ?」
えっ。 アイリスの顔色が変わった。
「…うそ…。そんなはずじゃ……。クリス、さまがしぬ?」
「そう。あれは、人を殺す、毒です。『そんなはずじゃなかった。』犯罪者は、いつもみんなそう言うんですよ。」
大人しくなり、芝生にへたり込んだアイリスを、やっと来た近衛が連れて行った。
お茶会はお開きになり、お母さまを連れてザオラルと帰る。
残りの侍女に戒厳令を敷き、王太子妃が子どもを産めなくなる年齢になっても男子がいない場合のみ、僕が継ぐことになるから、王家もあきらめたわけではないことを説明した。
「なんか、疲れちゃったな。」
くったりした様子で、あくびをしているお母さまを守るように、僕とザオラルで挟む。
ザオラルにも力を使わせずに済んでよかった。
使わずに越したことはない。
「お母さま、あの侍女、知り合いだったんですか?」
「うーん、昔ね…。知り合いって言うか、あまり関わりはなかったけど…。」
そういいながら、お母さまは寝てしまった。
お母さま。
長生きしてくださいね。
美しくて、だれにでも優しく、頼りになる陛下。
誰よりも賢く、厳しいけど優しくて、陛下を支える美しい王妃。
おとぎ話の、王子様とお姫様のようだったの。
おとぎ話は完ぺきで、幸せが永遠に続いて。
二人は、たくさんの孫やひ孫に囲まれて、幸せな生涯を終えるんだって。
だから、その完璧が台無しになることが許せなかった。
あの人は、私が初めて好きになった人だけど。
すぐに失恋した。
あの人はその時すでに誰かのもので、子どももいたんだもの。
100年の恋もいっぺんに覚めて、
それでもどこか、気になっていた。
カッコいい人だから、素敵なお嫁さんがいるんだと思っていたのに。
まさか、あの人本人が誰かのお嫁さんだったなんて。
釈然としない私の気持ちはどこへいったらいいの?
それが、子どもを孕んで。
よりにもよって私のおとぎ話を壊そうだなんて。
子どもなんか産まないでよ。
男に戻ってよ。
私が好きになって、あこがれた、カッコイイ男の人に戻って。
だから、そんな赤ちゃんなんかいないほうがいい。
ああ、邪魔な赤ちゃんがいないほうがいいって。
そう思っただけだった。
でもそうね。
おなかの赤ちゃんはぴくぴく動いてて、もう『人間』だったわ。
あの人を害したかったわけじゃない。
「ふふ…ふふふふふ。」
冷たい地下牢で私は嗤う。
私はきっと、処刑されるだろう。
ナイフは柔らかな芝に落ち、アリスが遠くへ蹴飛ばした。
「うっ、ふっ、ふうっ。」
息を切らして、俺のことを睨みつける。
何故、これ程憎しみをぶつけられるのか分からない。
「何故、あなたが、子どもを産むのッ!あなたが産むから、王太子妃が真剣に子を持つ努力をしてくれないじゃない!!」
陛下と王妃は本当に素敵な方々で。
なのに、あなたのせいで血を未来に残すことができない。
あんなに素晴らしい方々なのに!!
かわいい孫に会えないのよ!
「俺が子を産むことと、何の関係があるのか分からないんだが…。」
あざになっているかもしれないと思うが、何をするか分からないから力を緩めるわけにはいかない。
近衛が来るまでは、少なくとも捕まえておかないと…。
「…あのっ、あのね! 私、本当に赤ちゃんが欲しくないの! ディビッドも、それでいいって!」
「あなたは!王太子妃なのよっ!どんなことでもして産みなさいよ!そうじゃなかったら、王太子様に側妃を迎えて、他の人と作ってもらうようあなたがお願いしてよっ!」
「アイリス、デイビッドさまはアンジュさましか見ていない。学園の頃からそうだったから、君もわかるだろう?なんて言おうが、だれが頼もうが、あの方がほかの誰かと子をもうけるなどありえないことだ。」
なだめようとしたが、また、血走った目を向けられた。
掴んでいないほうの手で腹を殴ろうとされたので、もう片方も捕まえようとしたが、その前にアリスがつかんでくれた。
「こんな子…!生まれないほうがいいのよおおおお!!!!」
「ひとごろし。」
アリスがぼそっと呟いた。
「違う!違う!!! 私は、王太子妃に子を産んでもらうために、この子に流れてほしいだけ!」
「赤ちゃんも人ですよ、生きてる。」
アリスが、アイリスの手を掴んだ状態で、俺の腹に優しく触れさせた。
「それに、この毒。お母さまが死ぬことも、あるんですよ?」
えっ。 アイリスの顔色が変わった。
「…うそ…。そんなはずじゃ……。クリス、さまがしぬ?」
「そう。あれは、人を殺す、毒です。『そんなはずじゃなかった。』犯罪者は、いつもみんなそう言うんですよ。」
大人しくなり、芝生にへたり込んだアイリスを、やっと来た近衛が連れて行った。
お茶会はお開きになり、お母さまを連れてザオラルと帰る。
残りの侍女に戒厳令を敷き、王太子妃が子どもを産めなくなる年齢になっても男子がいない場合のみ、僕が継ぐことになるから、王家もあきらめたわけではないことを説明した。
「なんか、疲れちゃったな。」
くったりした様子で、あくびをしているお母さまを守るように、僕とザオラルで挟む。
ザオラルにも力を使わせずに済んでよかった。
使わずに越したことはない。
「お母さま、あの侍女、知り合いだったんですか?」
「うーん、昔ね…。知り合いって言うか、あまり関わりはなかったけど…。」
そういいながら、お母さまは寝てしまった。
お母さま。
長生きしてくださいね。
美しくて、だれにでも優しく、頼りになる陛下。
誰よりも賢く、厳しいけど優しくて、陛下を支える美しい王妃。
おとぎ話の、王子様とお姫様のようだったの。
おとぎ話は完ぺきで、幸せが永遠に続いて。
二人は、たくさんの孫やひ孫に囲まれて、幸せな生涯を終えるんだって。
だから、その完璧が台無しになることが許せなかった。
あの人は、私が初めて好きになった人だけど。
すぐに失恋した。
あの人はその時すでに誰かのもので、子どももいたんだもの。
100年の恋もいっぺんに覚めて、
それでもどこか、気になっていた。
カッコいい人だから、素敵なお嫁さんがいるんだと思っていたのに。
まさか、あの人本人が誰かのお嫁さんだったなんて。
釈然としない私の気持ちはどこへいったらいいの?
それが、子どもを孕んで。
よりにもよって私のおとぎ話を壊そうだなんて。
子どもなんか産まないでよ。
男に戻ってよ。
私が好きになって、あこがれた、カッコイイ男の人に戻って。
だから、そんな赤ちゃんなんかいないほうがいい。
ああ、邪魔な赤ちゃんがいないほうがいいって。
そう思っただけだった。
でもそうね。
おなかの赤ちゃんはぴくぴく動いてて、もう『人間』だったわ。
あの人を害したかったわけじゃない。
「ふふ…ふふふふふ。」
冷たい地下牢で私は嗤う。
私はきっと、処刑されるだろう。
0
お気に入りに追加
1,832
あなたにおすすめの小説
どうも、ヤンデレ乙女ゲームの攻略対象1になりました…?
スポンジケーキ
BL
顔はイケメン、性格は優しい完璧超人な男子高校生、紅葉葵(もみじ あおい)は姉におすすめされたヤンデレ乙女ゲーム「薔薇の花束に救済を」にハマる、そんな中ある帰り道、通り魔に刺されてしまう……絶望の中、目を開けるとなんと赤ん坊になっていた!?ここの世界が「薔薇の花束に救済を」の世界だと気づき、なんと自分は攻略対象1のイキシア・ウィンターだということがわかった、それから、なんだかんだあって他の攻略対象たちと関係を気づいていくが……
俺じゃなくてヒロインに救ってもらって!そんなこと言いながら、なんだかんだいって流されるチョロい系完璧超人主人公のヤンデレたちを救う物語
ーーーーーーーーーーーー
最初の方は恋愛要素はあんまりないかも……総受けからの固定になっていきます、ヤンデレ書きたい!と壊れながら書いているので誤字がひどいです、温かく見守ってください
獣人だらけの世界に若返り転移してしまった件
上総啓
BL
階段からうっかり足を滑らせてしまったヒナタは、気が付くと鬱蒼とした森の中にいた。
それも、なぜか真っ裸の子供の姿で。
楽観的なヒナタは、特に恐怖を抱くことなく森を探険し始める。
しかしそんなヒナタを待ち受けていたのは、獣人と呼ばれる男達からの鬱陶しい程の愛情と執着だった──
絶滅したヒト族が『神話の天使』と崇められる獣人世界で、ショタ返りしたヒト族受けが獣人達に囲われながらのんびりまったり大波乱の日常を送る話。
※本作には”ショタ受け”,“総受け”の要素が含まれています。
地雷の方はご注意ください。
大嫌いな後輩と結婚することになってしまった
真咲
BL
「レオ、お前の結婚相手が決まったぞ。お前は旦那を誑かして金を奪って来い。その顔なら簡単だろう?」
柔和な笑みを浮かべる父親だが、楯突けばすぐに鞭でぶたれることはわかっていた。
『金欠伯爵』と揶揄されるレオの父親はギャンブルで家の金を食い潰し、金がなくなると娘を売り飛ばすかのように二回りも年上の貴族と結婚させる始末。姉達が必死に守ってきたレオにも魔の手は迫り、二十歳になったレオは、父に大金を払った男に嫁ぐことになった。
それでも、暴力を振るう父から逃げられることは確かだ。姉達がなんだかんだそうであるように、幸せな結婚生活を送ることだって──
「レオ先輩、久しぶりですね?」
しかし、結婚式でレオを待っていたのは、大嫌いな後輩だった。
※R18シーンには★マーク
TS百合の王道パターン
氷室ゆうり
恋愛
この頃急にはやり始めたTS百合。ツイッターでトレンド入りしたそうですね。そんなわけで急遽作ってみました!ショートショートですがこれぞまさしくTS百合!流行に乗っかってもっともっとtsfの性癖に皆様を誘導していきたいと思っております!
そんなわけで、今回もr18です。
それでは!
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
色んな女の子になって「ロールプレイングゲーム」する話
ドライパイン
ライト文芸
「魂を込めて演技するってあるでしょ? じゃあそれって、『役柄のキャラクターに憑依している』みたいだよね?」
「これはまだα版だから、テストプレイヤーをどんどん募集してるよ!」
「プレイしたい? それじゃぁ、ね……」
【本編完結】慰み者になること前提で嫁いできたはずなのに、初夜が明けたら溺愛されはじめました?!そんなに僕って『よかった』の?
愛早さくら
BL
僕はサフィル。今度、マチェアデュレ神聖王国の聖王へと嫁ぐことになった。表向きは聖王妃として。実態は聖王を閨で慰めるためだけの慰み者として。
生まれた子供がおかしな血筋でないようにと、一応は大国王家の血を継ぐ僕が選ばれたのだそうだ。
僕の価値って体だけ? と、誤解してもおかしくないぐらいに事前に色々聞かされて嫁いで来たのに、僕の伴侶となった国王は、初めからなんだか様子がおかしくて……。
「なぜ僕を、これほど大切にしてくださるのです?」
訊ねた僕に彼は応えた。
「初夜が……めちゃめちゃ気持ちよかったんだよっ! 君最高! それじゃダメかな?!」
それは大変に明け透けで、きっと嘘偽りない返答だった……――。
子供を生むこと前提で性奴隷的な役割として嫁ぎに来いと言われていたのに、なんだか様子がおかしいひどい初夜が明けたら謝り倒されて溺愛され始める話。
溺愛(概念)ってこういうののこと?と、疑問符を飛ばしながら書く予定です!
溺愛(概念)です!
一応聖王は聖王なりに主人公を大切にしているはずです!多分。
登場人物は全員どこかしら様子がおかしいです!
・いつもの。
・他の異世界話と同じ世界観。やっぱり主人公はリオルの子供。
・比較的雰囲気は軽めになると思います。
・男女関係なく子供が産める魔法とかある異世界が舞台。
・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。
・言い訳というか解説というかは近況ボード「突発短編」のコメントをどうぞ。
【完結】女装して姫プレイにハマった公爵次男は 王弟殿下に絡めとられる
竜鳴躍
BL
ニーノは真面目眼鏡と言われる公爵家の次男。質実剛健な宰相の一族に産まれ、家族全員真面目眼鏡。真面目眼鏡に嫌気がさしたニーノははっちゃける。だが、はっちゃけたいが身バレは困る。七三眼鏡で隠れた美貌を露わにし、美少女になって社交界をブイブイ!バカな男にチヤホヤされて上機嫌!王弟からまさかのプロポーズ?ヤバイ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる