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新章 溺愛編

いつもみんなそう言うんですよ?2

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俺は、咄嗟に果物ナイフを握って突っ込んでくる彼女の腕を掴み、ナイフを取り上げた。


ナイフは柔らかな芝に落ち、アリスが遠くへ蹴飛ばした。


「うっ、ふっ、ふうっ。」


息を切らして、俺のことを睨みつける。


何故、これ程憎しみをぶつけられるのか分からない。




「何故、あなたが、子どもを産むのッ!あなたが産むから、王太子妃が真剣に子を持つ努力をしてくれないじゃない!!」

陛下と王妃は本当に素敵な方々で。

なのに、あなたのせいで血を未来に残すことができない。

あんなに素晴らしい方々なのに!!

かわいい孫に会えないのよ!




「俺が子を産むことと、何の関係があるのか分からないんだが…。」

あざになっているかもしれないと思うが、何をするか分からないから力を緩めるわけにはいかない。
近衛が来るまでは、少なくとも捕まえておかないと…。



「…あのっ、あのね! 私、本当に赤ちゃんが欲しくないの! ディビッドも、それでいいって!」


「あなたは!王太子妃なのよっ!どんなことでもして産みなさいよ!そうじゃなかったら、王太子様に側妃を迎えて、他の人と作ってもらうようあなたがお願いしてよっ!」




「アイリス、デイビッドさまはアンジュさましか見ていない。学園の頃からそうだったから、君もわかるだろう?なんて言おうが、だれが頼もうが、あの方がほかの誰かと子をもうけるなどありえないことだ。」

なだめようとしたが、また、血走った目を向けられた。

掴んでいないほうの手で腹を殴ろうとされたので、もう片方も捕まえようとしたが、その前にアリスがつかんでくれた。



「こんな子…!生まれないほうがいいのよおおおお!!!!」


「ひとごろし。」

アリスがぼそっと呟いた。


「違う!違う!!! 私は、王太子妃に子を産んでもらうために、この子に流れてほしいだけ!」


「赤ちゃんも人ですよ、生きてる。」

アリスが、アイリスの手を掴んだ状態で、俺の腹に優しく触れさせた。





「それに、この毒。お母さまが死ぬことも、あるんですよ?」





えっ。 アイリスの顔色が変わった。



「…うそ…。そんなはずじゃ……。クリス、さまがしぬ?」



「そう。あれは、人を殺す、毒です。『そんなはずじゃなかった。』犯罪者は、いつもみんなそう言うんですよ。」







大人しくなり、芝生にへたり込んだアイリスを、やっと来た近衛が連れて行った。







お茶会はお開きになり、お母さまを連れてザオラルと帰る。

残りの侍女に戒厳令を敷き、王太子妃が子どもを産めなくなる年齢になっても男子がいない場合のみ、僕が継ぐことになるから、王家もあきらめたわけではないことを説明した。


「なんか、疲れちゃったな。」


くったりした様子で、あくびをしているお母さまを守るように、僕とザオラルで挟む。

ザオラルにも力を使わせずに済んでよかった。
使わずに越したことはない。


「お母さま、あの侍女、知り合いだったんですか?」


「うーん、昔ね…。知り合いって言うか、あまり関わりはなかったけど…。」
そういいながら、お母さまは寝てしまった。


お母さま。

長生きしてくださいね。














美しくて、だれにでも優しく、頼りになる陛下。

誰よりも賢く、厳しいけど優しくて、陛下を支える美しい王妃。


おとぎ話の、王子様とお姫様のようだったの。

おとぎ話は完ぺきで、幸せが永遠に続いて。

二人は、たくさんの孫やひ孫に囲まれて、幸せな生涯を終えるんだって。


だから、その完璧が台無しになることが許せなかった。


あの人は、私が初めて好きになった人だけど。

すぐに失恋した。


あの人はその時すでに誰かのもので、子どももいたんだもの。

100年の恋もいっぺんに覚めて、

それでもどこか、気になっていた。


カッコいい人だから、素敵なお嫁さんがいるんだと思っていたのに。

まさか、あの人本人が誰かのお嫁さんだったなんて。


釈然としない私の気持ちはどこへいったらいいの?


それが、子どもを孕んで。

よりにもよって私のおとぎ話を壊そうだなんて。


子どもなんか産まないでよ。

男に戻ってよ。

私が好きになって、あこがれた、カッコイイ男の人に戻って。

だから、そんな赤ちゃんなんかいないほうがいい。





ああ、邪魔な赤ちゃんがいないほうがいいって。

そう思っただけだった。

でもそうね。


おなかの赤ちゃんはぴくぴく動いてて、もう『人間』だったわ。

あの人を害したかったわけじゃない。


「ふふ…ふふふふふ。」



冷たい地下牢で私は嗤う。






私はきっと、処刑されるだろう。



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