上 下
160 / 415
新章 溺愛編

化け物と化け物

しおりを挟む
サザン将軍はやはり強い。

空気がピリピリする。

ああ、好きだなぁ。この感覚。




やっぱり自分は剣の真剣勝負が好きだ。

まだ育休中だけど、早く現場に復帰したい。


とはいっても、あまり世界に脅威のない今、もはやたいして歯ごたえはないのだけど。



速度の方は俺が上。


パワーはうんとあっちが上。



ああ、いいなあ。サザン将軍と戦うのは楽しいな。

定期的にこうやって手合わせしたいものだ。











決勝戦を、みなが固唾をのんで見守る。


二人の闘気に充てられて、心なしか風が強くなっている気がする。


将軍の剣撃を躱すお母さま。

しかし、躱した先で放った2本の刃は、将軍の大剣で受け止められ、はじかれる。


剣の風圧が観客席まで届き、観客席と闘技場を隔てるガードに切れ目が入った。

カウンター。


躱す。


これ、勝負はつくのだろうか。




お母さまを馬鹿にした3人が、茫然と戦いを見ている。


どうだ。すごいだろう? 僕のお母さまは。


隣に、ロメオ王子が寄って来た。



「将軍とあれほどの戦いができるとは、すごいな。公爵夫人は。」

王子は、自分の剣の師匠は将軍なのだ、と言った。


「ところで、妹の他にも君には妻が2人できる予定だとか。」


「気にしますか?」


「王族に妻が1人しかいないほうが珍しいだろう。それに、女の妻は妹だけだ。例えば、君が王位を継いだとして、王妃として1番手に来るのは妹になる。ほかの1人はあちらの綺麗な神獣君だし、もう一人は他国の王だろう。本人がいいというのだから、不満はないさ。」


「王位を継ぐ予定もつもりもありませんけどね。そのうち王太子に子どもができるでしょう。必要があればスノーフォレストの技術もあるし…。また、性別がどちらでも同性でも子ができるのだから、王が男子限定であるのもナンセンスかなと思いますよ。」

そのうち女系も継げるようになるんじゃないか、と続ける。


「甘いなぁ。その手の議論はなかなか進まないものだ。」





パリーン。




その時、金属の割れる音がして、お母さまと将軍の武器が折れた。


「これは引き分けだな。」

お母さまが物凄く悔しそうな顔をした。











表彰式のプレゼンターは、国王夫妻が出てきた。


そういえば、国王夫妻は、最初の出迎え以外はあまり姿を見なかったなぁ。


「おめでとう。」

褐色の肌に茶色の髪の筋骨隆々とした国王。

オレンジ色の髪で神秘的な雰囲気をした美しい王妃。

ローブのような服を着て、黄金のアクセサリーをつけるのは、この国の文化なのだろう。


「今日は大会の締めとしてパーティがありますので、楽しんでください。残念ながら、私たちはあまり参加はできないのですが…。滞在は、もうしばらくなさるのですよね?」

「ええ。せっかくですから。明日は夫がビーチで遊ぼうと。」


「まあ。でも海も危険ですから。気を付けてくださいね。」


「はい。」


…なんだろう、なんか違和感を感じる。












「ルージュのお母さまって綺麗だよね。」


神秘的な美しさは、自分のお母さまと違うタイプだと思った。

疲れてしまったザオラルは、すやすやと幼獣の姿で自分の腕に抱かれている。

膝にのせて撫でながら、ルージュを見ると、得意そうな顔をしていた。


「お母さまは、国の巫女なのですわ!」


「ああ、サウス王国は君たちと文化圏が違うからね。まじないとか、神託とか、まあ宗教と政治が密接になっている。実際、お母さまの予言は当たるし、確かになにか能力があるんだろうな。」


「将軍が発起人とはいえ、お父様もお母さまもこの大会にあまり関わっていなかったでしょう?二人には国のために神と対話する役目がありますから、あまり神殿をあけられませんの。」


なるほど、だからお茶会にはルージュだけで。将軍が代わりについてきたのか。

国が変われば変わるもんだな。



「そういえば、明日はどうするんだ?」


「明日はビーチで遊ぼうって、お父様が言ってる。」


「じゃあ、子ども4人だけで冒険しないか。丁度いいコースがあるんだ。ザオラルもいるし、紹介したい人がいる。」


紹介したい人って、なんだろう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた 人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄 ナレーションに 『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』 その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ 社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう 腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄 暫くはほのぼのします 最終的には固定カプになります

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

養子の僕が愛されるわけない…と思ってたのに兄たちに溺愛されました

日野
BL
両親から捨てられ孤児院に入った10歳のラキはそこでも虐められる。 ある日、少し前から通っていて仲良くなった霧雨アキヒトから養子に来ないかと誘われる。 自分が行っても嫌な思いをさせてしまうのではないかと考えたラキは1度断るが熱心なアキヒトに折れ、霧雨家の養子となり、そこでの生活が始まる。 霧雨家には5人の兄弟がおり、その兄たちに溺愛され甘々に育てられるとラキはまだ知らない……。 養子になるまでハイペースで進みます。養子になったらゆっくり進めようと思ってます。 Rないです。

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜

にゃーつ
BL
大きなお屋敷の蔵の中。 そこが俺の全て。 聞こえてくる子供の声、楽しそうな家族の音。 そんな音を聞きながら、今日も一日中をこのベッドの上で過ごすんだろう。 11年前、進路の決まっていなかった俺はこの柊家本家の長男である柊結弦さんから縁談の話が来た。由緒正しい家からの縁談に驚いたが、俺が18年を過ごした児童養護施設ひまわり園への寄付の話もあったので高校卒業してすぐに柊さんの家へと足を踏み入れた。 だが実際は縁談なんて話は嘘で、不妊の奥さんの代わりに子どもを産むためにΩである俺が連れてこられたのだった。 逃げないように番契約をされ、3人の子供を産んだ俺は番欠乏で1人で起き上がることもできなくなっていた。そんなある日、見たこともない人が蔵を訪ねてきた。 彼は、柊さんの弟だという。俺をここから救い出したいとそう言ってくれたが俺は・・・・・・

処理中です...