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ソルジャー公爵家

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ジニアル殿下と過ごすようになって、だいぶ気持ちが楽になった。

とはいえ、いつまでも邸に帰らないわけにもいかない。



ジニアルには、
『ここで暮らしても僕は問題ないけれど、公爵に断っておいで。君の性格ならば、ずっと誤魔化しているのも辛いだろう。』

と言ってもらえた。


しかし、どうやって説明しよう…。




騎士団のオフに馬に乗り、久しぶりに実家へ戻る。

ソルジャー公爵家は何代か前の先祖に臣籍降嫁した王弟のいる由緒正しい家で、領地は郊外の小高い丘にある。
特産品のワインの原材料である葡萄畑を見ながら、邸に近づくにつれ、だんだんと気持ちが重くなった。




「父上、母上。ただいま戻りました。」


「うむ。国を守るため責務を果たしていると聞いている。久しぶりに話をしようじゃないか。」

今は騎士団長を引退して、領地経営に専念している父は、まだ43歳だ。

筋骨隆々とした体は健在で、銀色の髪はまだ白髪になっているわけではない。
まだまだ引退する年じゃないのにとは思うが、だからこそ領地経営を頑張れるのかもしれない。
最近は新しい葡萄の品種を開発し、より質の高いワインの醸造に力を入れているとかで、自分でも葡萄を育ててらっしゃるそうだ。

まっすぐした背中の元女騎士だった母は、隣でにこやかにほほ笑んでいる。




ソファに腰掛け、執事が紅茶をサーブした。

向かい合う両親に緊張する。


「執務は忙しいのか?最近はモンスターがたまに国境付近で出るくらいで、他国との仲は良好。私が団長だったときは、邸に帰れぬほどではなかったとは記憶しているのだが。」


「実は、王宮で暮らしておりまして…。ジニアル殿下のお世話になっております…。」


「ほう。ジニアル殿下の?」

変な汗が手のひらに滲んできた。



「それで…。城の方がやはり職場にも近いですし、急な案件でも駆けつけられるので、正式に向こうで暮らしたいのですが…。」

「殿下は構わないと仰っているのかな?」


「はい。殿下に与えられた場所なので、殿下の裁量で問題ないそうです。」






これはどういうことだろう。
フォーゼ=ソルジャー前公爵は顎を撫でながら、考えていた。
フォートは嫡男で男の子はこの子しかできなかった。
どういうわけか自分の母親に似て少女趣味でなよなよしたこの子を立派にするために、幼少から厳しく育て、自分の後を継いで騎士団長を拝命するまでになったが、なかなか縁談がまとまらない。

ワーカーホリックなのか、仕事熱心なのはいいが気になる令嬢もいないらしい。

騎士団に入るまでは領地経営をさせ、領主代行をさせていたから、次期公爵としての勉強も既に終わっているものの、妻を娶ってもらわなければ後が困るのだが。


なんだか嫌な予感がする。


何があって殿下と今更急接近したのだろう。
側近候補だった頃は、たいして仲良くなかっただろうに。



「暮らすのは構わないが、殿下とお会いしたい。お前がお世話になる部屋も見ておきたいしな。明日は戻るのだろう?私も行こう。」




表情には出さないが、フォートの顔からサ――――ッと血の気が引いた。
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