耳が聞こえない公爵令息と子爵令息の幸せな結婚

だいえっと…

「どうしたの？最近ごはんあんまり進んでいないけど、食欲ないの？」


お母様が心配してくださっている。

ごめんなさい。食欲がないわけじゃないの。


お腹もすいているんだけど…。



どうしても、差し迫っている結婚式。

差し迫っている『初夜』のために、サザエルの前で裸んぼになっても、恥ずかしくないようになっていたいの！


心配かけてごめんなさい！！！



僕は、お母さまに向かってにっこり笑って、力こぶをして見せる。

元気！


僕、元気だよ！！


「…そう。大丈夫ならいいんだけど。」


お母様はそれでも心配そう。

ごめんなさい、お母さま…。








いつものように、サザエルの教育施設に行って、子どもたちにお絵かきを教える。

僕みたいに耳が聞こえない子や、足の不自由な子、手が生まれつき短い子、文字を読もうとすると辛い子など、たくさんの子どもたちがいる。

サザエルは、障がいは悪いことじゃなくて、個性なんだって言って、その子その子にあった教育や、その子の良さを伸ばす教育を頑張ってるんだよ。

お家の中で押し込められて育っていたり、貧しいお家では養えないから親に殺されちゃったり捨てられたりもあったんだけど、サザエルが教育施設を作ってからは、少しずつ変わって来た。

要らない子なんていないんだよ、って。

今は、子ども向けの教育と、将来仕事をするためのプログラムをしているけど、働く場所を作ったり、大人になってから戦争や事故で障がいを持った人たち向けの施設も今度作るつもりみたい。


普通の学校みたいに、運動会も出来たらいいなぁ。



「休憩時間よ～！マナ様も一緒にお茶にしましょう！」

休憩時間になって、職員さんにお茶に誘われた。


３時はおやつの時間。


パウンドケーキや、クッキー等、おいしそうなおやつが並ぶ。


「マナ様、このおやつはお米の粉で出来ているから、マナ様でも召し上がれますよ。どうぞ。」


うっ…。

でっ、でもっ…。



お腹がぐるぐるなったけど、いらないって、顔を横にブンブン振った。



そうしたら、気持ち悪くなっちゃって。



「マナ！」


遠くから見ていたサザエルが走ってくる。


「大丈夫？息苦しさは……平気みたいだけど…。」




「サザエルさま、マナ様。もしかして、無理なダイエット……されているのでは。」


「ダイエット？そうなの？マナ。」


ゆっくり、こっくり。頷いた。


「なんでそんなことするの？」


『だって、結婚式の前に綺麗になりたかったんだもの…。』


「えぇ……。マナは充分きれいだよ？」


職員は首をすくめた。


「わかってませんねぇ。それが乙女心ですよ。サザエルさま。」

「でも、マナ様のダイエットはやりすぎです。食事を極端にとらないのは、体を壊すだけですよ。」

「……マナ。僕は、マナがやせてても太っててもマナが好きだよ。だって、マナが美人だからマナを好きになったんじゃないもの。マナが体を壊す方が悲しいよ。」


ごめんなさい、サザエル。

なんだか涙がぽろっと零れた。









「ええええ！マナが食べなかったのってダイエットのつもりだったの！？病気じゃなくてよかったけど、病気になるよ！」

公爵家では、送ってくれたサザエルに事の次第を聞かされたクリスが、目を点にしていた。


「血は争えないよねぇ。お母さまも太るの気にして、ダイエット頑張ってたもんね。」

ダイエットなんて気にしないアヴニールお兄様。


「クリスもマナも痩せてる方なんだから気にすることない。もうちょっとくらい太ってた方が私はすき…」

お父様がお母さまにぎゅーっと頬っぺたをつねられて、いたた、になった。


「ねえ、マナ。痩せたいなら健康的に痩せなきゃね。マナの場合、過激な運動はよくないから、水泳をしようか。水泳は喘息にもいいらしいから。」


ありがとう！お母さま！