9 / 9
8. イーシャについて
しおりを挟む
イーシャの街を構成するのは、曲線的で無味乾燥なビル群でございます。
その鉄の山々のふもとでは、同じくして飾り気のない白いスーツを着た人々が両手を地につけ、まるで獣のように地面を這い、あるいは磨いた楕円の石に二つ車輪を取り付けたような乗り物に乗り、各々割り当てられた工場に向かうのございます。
この光景は異国の青い肌の民ナムレッグによって作り上げられたものであり、青や金の丸屋根や天を突き刺さんばかりの尖塔、意匠を凝らしたタイルの飾り、季節ごとに様相を変える街路樹、戦場のど真ん中に絵具をぶちまけたかように喧騒と極彩色とが入り混じるバザール、イーシャの原風景は絶滅したも同然にございます。
この地で直立で歩いたり、伝統的な装束をまとおうものなら非文明的人間、ひいては反社会的人間として白い目で見られたり、罵られることは確実でしょう。私は屈辱的な思いを一身に背負いながらも、あの面白味のない街中を四つん這いで歩き回ったのを昨日のように覚えております。
このように町はおろか価値観すらをもそっくりそのまま作り替えられるということ自体は何も珍しいことではございません。しかしそこには侵略と統治、または戦それ自体という表立った要因がつきものであります。砂漠の民が有象無象の神々を全て捨て、ただ一つの神に絶大な信頼を寄せたのも、北の海賊が世界樹をへし折ったのも、全ては戦による統治者の入れ替わりによるものでございましょう。
だからこそ私は、己らが築き上げてきた文明全てを自らの手によって無に帰し、異国のそれをがらんどうとなったアイデンティティに当てはめただけでしかないのに、さも「我々はイーシャでありながら青き肌の民と同一の先進的な民族に上り詰めたのだ」と言わんばかりの振る舞いをしているイーシャの民が滑稽でならないのです。
一方でナムレッグの民が、属国からの朝貢品の一つを愛でるかのように、かつてイーシャにあった文明への興味を口にすれば、イーシャ人は親に成績を褒められご褒美のおもちゃを貰った子供のように大喜びすると同時に、自らが恥と捨て去った文化を途端に誇り始めるのでございます。
ですが所詮は心までナムレッグに捧げた者ども。青き肌の民という神から授かりし“文明”を見よう見まねで消費しているにすぎません。果たしていつまで真似っこの振る舞いを続けていられることか。
もうそろそろガタが来る頃でしょう。そして名実ともにナムレッグを宗主とした、新たなイーシャの歴史が始まる。私はそう思わんばかりでございます。
その鉄の山々のふもとでは、同じくして飾り気のない白いスーツを着た人々が両手を地につけ、まるで獣のように地面を這い、あるいは磨いた楕円の石に二つ車輪を取り付けたような乗り物に乗り、各々割り当てられた工場に向かうのございます。
この光景は異国の青い肌の民ナムレッグによって作り上げられたものであり、青や金の丸屋根や天を突き刺さんばかりの尖塔、意匠を凝らしたタイルの飾り、季節ごとに様相を変える街路樹、戦場のど真ん中に絵具をぶちまけたかように喧騒と極彩色とが入り混じるバザール、イーシャの原風景は絶滅したも同然にございます。
この地で直立で歩いたり、伝統的な装束をまとおうものなら非文明的人間、ひいては反社会的人間として白い目で見られたり、罵られることは確実でしょう。私は屈辱的な思いを一身に背負いながらも、あの面白味のない街中を四つん這いで歩き回ったのを昨日のように覚えております。
このように町はおろか価値観すらをもそっくりそのまま作り替えられるということ自体は何も珍しいことではございません。しかしそこには侵略と統治、または戦それ自体という表立った要因がつきものであります。砂漠の民が有象無象の神々を全て捨て、ただ一つの神に絶大な信頼を寄せたのも、北の海賊が世界樹をへし折ったのも、全ては戦による統治者の入れ替わりによるものでございましょう。
だからこそ私は、己らが築き上げてきた文明全てを自らの手によって無に帰し、異国のそれをがらんどうとなったアイデンティティに当てはめただけでしかないのに、さも「我々はイーシャでありながら青き肌の民と同一の先進的な民族に上り詰めたのだ」と言わんばかりの振る舞いをしているイーシャの民が滑稽でならないのです。
一方でナムレッグの民が、属国からの朝貢品の一つを愛でるかのように、かつてイーシャにあった文明への興味を口にすれば、イーシャ人は親に成績を褒められご褒美のおもちゃを貰った子供のように大喜びすると同時に、自らが恥と捨て去った文化を途端に誇り始めるのでございます。
ですが所詮は心までナムレッグに捧げた者ども。青き肌の民という神から授かりし“文明”を見よう見まねで消費しているにすぎません。果たしていつまで真似っこの振る舞いを続けていられることか。
もうそろそろガタが来る頃でしょう。そして名実ともにナムレッグを宗主とした、新たなイーシャの歴史が始まる。私はそう思わんばかりでございます。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる