6 / 9
5. ケシュタクについて
しおりを挟む
蜘蛛の巣のように張り巡らされた車道に行列を作る車から鳴る、不機嫌なクラクションの応酬は、決して止まず、歩道を行き交うビジネスマンの、定型文を不規則に並べただけの表層的な電話のやりとりは、昼夜絶えることはなく、森林に茂る木々のように立ち並ぶビル群のどこかでは、常に地を掘るドリルや、クレーンのきしむ音が聞こえてくるものでございます。
ケシュタクの喧騒が止んだことは一度もございません。街が設立されて以来一度もです。
しかし、その騒々しい音の数々に本質などは存在いたしません。重苦しい渋滞を超えた先に車が向かうのは、また異なる車道の異なる終着地へ向かっているように見せかけた、牛歩の行列の一員に加わり、死体を揺り起こすが如く無意味なクラクションを鳴らし、前方の哀れな仇を煽り立てること自体を主体とした、また別の交通渋滞の最後尾であり、耳にスマートフォンを当てながら、にこやかな顔と声色で、心なき音の羅列を発信する紺のスーツを纏ったビジネスマンの群れは、筒に閉じ込められた昆虫が、円の空間を行き来しながら触角で壁をつつき回るかのように、街の同じ区間を何度も往来することによって、街の活気とやらをただ演出しているに過ぎないのでございます。
また、ケシュタクでは骸骨のような姿をした建設途中のビルがよく見られます。しかし、これらのビルが完成することはございません。黄色い蛍光ベストを着、白いヘルメットを被った作業員が、肩に細長いパイプを担いだり、得体の知れぬ機械を操作していたり、巨人の腕のようなクレーンを操作し、何十トンもあるであろう鉄骨を吊り下げたりなど、ビルを建てるためのれっきとした手順を踏んでいるはずなのですが、一向にテープカットまでにこぎつける様子が見られないのです。まるで、ある一定の高さまで築き上げた後に、建てては解体をする徒労を何年、いやはては何十年も延々と繰り返しているかのようでございます。
ある日、私がホテルにて新たな地へ旅立つための荷造りをしていたところ、外で車の大きなスリップ音が聞こえました。
何事だと窓から顔を出し、ホテルの下の道を覗いてみたところ、そこには歩道に乗り出した車と、近くでうつ伏せになって倒れているサラリーマンの姿がありました。どうやら接触事故が起こったようでございました。
しばらくすると、けたたましいサイレン音とともに救急車が到着し、救急隊員が事故現場をブルーシートで覆いました。
私は撥ねられた男の行末が気になりましたが、もう出発の時間でしたのでやむなくホテルを出、ブルーシートと、それに群がりスマートフォンを向ける人々を尻目に、新たな国へと向かいました。
きっと男を乗せた救急車は、街の喧騒に新たにサイレンの音と点滅を加え、永久にケシュタクを彷徨い続けるのでしょう。
ケシュタクの喧騒が止んだことは一度もございません。街が設立されて以来一度もです。
しかし、その騒々しい音の数々に本質などは存在いたしません。重苦しい渋滞を超えた先に車が向かうのは、また異なる車道の異なる終着地へ向かっているように見せかけた、牛歩の行列の一員に加わり、死体を揺り起こすが如く無意味なクラクションを鳴らし、前方の哀れな仇を煽り立てること自体を主体とした、また別の交通渋滞の最後尾であり、耳にスマートフォンを当てながら、にこやかな顔と声色で、心なき音の羅列を発信する紺のスーツを纏ったビジネスマンの群れは、筒に閉じ込められた昆虫が、円の空間を行き来しながら触角で壁をつつき回るかのように、街の同じ区間を何度も往来することによって、街の活気とやらをただ演出しているに過ぎないのでございます。
また、ケシュタクでは骸骨のような姿をした建設途中のビルがよく見られます。しかし、これらのビルが完成することはございません。黄色い蛍光ベストを着、白いヘルメットを被った作業員が、肩に細長いパイプを担いだり、得体の知れぬ機械を操作していたり、巨人の腕のようなクレーンを操作し、何十トンもあるであろう鉄骨を吊り下げたりなど、ビルを建てるためのれっきとした手順を踏んでいるはずなのですが、一向にテープカットまでにこぎつける様子が見られないのです。まるで、ある一定の高さまで築き上げた後に、建てては解体をする徒労を何年、いやはては何十年も延々と繰り返しているかのようでございます。
ある日、私がホテルにて新たな地へ旅立つための荷造りをしていたところ、外で車の大きなスリップ音が聞こえました。
何事だと窓から顔を出し、ホテルの下の道を覗いてみたところ、そこには歩道に乗り出した車と、近くでうつ伏せになって倒れているサラリーマンの姿がありました。どうやら接触事故が起こったようでございました。
しばらくすると、けたたましいサイレン音とともに救急車が到着し、救急隊員が事故現場をブルーシートで覆いました。
私は撥ねられた男の行末が気になりましたが、もう出発の時間でしたのでやむなくホテルを出、ブルーシートと、それに群がりスマートフォンを向ける人々を尻目に、新たな国へと向かいました。
きっと男を乗せた救急車は、街の喧騒に新たにサイレンの音と点滅を加え、永久にケシュタクを彷徨い続けるのでしょう。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる