29 / 35
銀の鱗と図書室の鍵 2
しおりを挟む「えっ、愛して? ……えっ!?」
「んんっ? 今さら驚くところなのか?」
唇が離れたとき、私は混乱していた。
先ほど、愛していた、と言ったジェラルド様の言葉は、聞き間違いなどではないだろう。
けれど、いつも子ども扱いされているせいもあって、ジェラルド様が、私を愛していた、ということが結びつかない。
「あれ? 過去形……!?」
「ちょっと待ってくれ! 全く伝わっていないばかりか、誤解までするのはやめてほしい!」
シーンッと、静まり返った室内。
少し落ち着きを取り戻して顔を上げれば、ジェラルド様の耳元が赤かった。あれ? なにそれ、可愛い。
「……少し待ってくれ。改めて言うとなると、な」
愛していた、と愛しているは、似ているようで全く違う。だって、愛していた、という言葉は、今の私に向けられたものではない。
口元を押さえて、少し私から視線を逸らしたジェラルド様は、あまりに尊い。そう、尊いという言葉がよく似合う。
「っ、愛しています!!」
「は……?」
「お慕いしています。ジェラルド様のこと、本当に好きで、大好きで、世界で一番、愛しています!!」
「……ステラ」
でも、私が愛しているのは、今のジェラルド様だ。もしも、同い年だとしても、逆に私が年上でも、きっと大好きになっただろう。
黙り込んでしまったジェラルド様をギュッと抱きしめる。身長差があるから、胸のあたりに抱きついているみたいになってしまったけれど、ずっと、こうしたかったから……。
ジェラルド様が、怪我をしたと知ったときにも、本当はこうしたかった。
とても強いって知っているけれど、生身の人間に絶対なんてない。
それを隠して笑うジェラルド様を子ども心に、こうして抱きしめたかった。
ふと、ジェラルド様の首元に、完璧すぎる正装にそぐわない古い紐が下がっていることに気が付く。
千切れてしまったのか、結び目が二つある、見覚えがありすぎるそれを引き出す。
「あ…………」
「こ、これ。あのときの」
それは、ジェラルド様が怪我をしていたことに気が付いた私が、家に駆け戻って、慌てて作った幼稚なお守りだ。
明らかに子どもが作ったとわかる不器用なお守りには、あの日の私の祈りと願いが込められている。
「ずっと、持っていて下さった……?」
「……片時も離さず」
「えっ、私のこと、愛してたって……」
「君はずっと子どもだったから、その言葉は語弊があるが……」
ため息が聞こえる。
抱きしめていた私の体が、抱きしめ返される。
「……ルルードには、未来を視る力があるのは、王太子妃の婚約者だった君はすでに知っていることだな?」
「ええ……。ルルードだけが持つ、固有の加護ですよね? ……まさか」
なぜか少しすねたようにも見える、ジェラルド様の表情。
「そうだ。私ばかり、こんなに待たされて……。君は、こんな簡単に私に愛してると言えるなんて、ズルいな。それなのに、その言葉に舞い上がってしまっているのだから、どうしようもない」
可愛すぎないか。それが正直な感想だ。
たぶん、こんなに可愛らしいジェラルド様を知っているのは、私だけに違いない。
いや、もしかしてバルト卿は知っているのだろうか……。
「その顔、何を考えている?」
「えっ、あのその」
「私が愛しているのは君だけだ」
その言葉は、威力が強すぎて、今日の私は口まで押さえて、やはり膝から崩れ落ちたのだった。
79
お気に入りに追加
1,640
あなたにおすすめの小説
伯爵閣下の褒賞品
夏菜しの
恋愛
長い戦争を終わらせた英雄は、新たな爵位と領地そして金銭に家畜と様々な褒賞品を手に入れた。
しかしその褒賞品の一つ。〝妻〟の存在が英雄を悩ませる。
巨漢で強面、戦ばかりで女性の扱いは分からない。元来口下手で気の利いた話も出来そうにない。いくら国王陛下の命令とは言え、そんな自分に嫁いでくるのは酷だろう。
互いの体裁を取り繕うために一年。
「この離縁届を預けておく、一年後ならば自由にしてくれて構わない」
これが英雄の考えた譲歩だった。
しかし英雄は知らなかった。
選ばれたはずの妻が唯一希少な好みの持ち主で、彼女は選ばれたのではなく自ら志願して妻になったことを……
別れたい英雄と、別れたくない褒賞品のお話です。
※設定違いの姉妹作品「伯爵閣下の褒章品(あ)」を公開中。
よろしければ合わせて読んでみてください。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
今まで我慢したご褒美にお義兄様の全てを貰いますね?
バナナマヨネーズ
恋愛
わたくしは、7つの時にリムドール伯爵家にお金で買われて養女となりました。
来る日も来る日も、お義兄様とお義父様の浅ましい欲望に耐えながら、心を無にして耐え続けました。
そんなわたくしには、唯一の心の支えがありました。
わたくしは、その心の支え、心からお慕いしているラインハルザ様の傍に居るためにある計画を実行したわ。
この物語は、わたくしが心から愛するラインハルザ様を手に入れるまでのラブラブハッピーな物語ですわ。
全22話
※【R18作品(BL)】「子犬だと思っていた幼馴染が実は狼さんだった件」のリンドブルム侯爵夫妻のお話です。今作だけでも十分お楽しみいただけますのでご安心ください。
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
【完結】貴方を愛するつもりはないは 私から
Mimi
恋愛
結婚初夜、旦那様は仰いました。
「君とは白い結婚だ!」
その後、
「お前を愛するつもりはない」と、
続けられるのかと私は思っていたのですが…。
16歳の幼妻と7歳年上23歳の旦那様のお話です。
メインは旦那様です。
1話1000字くらいで短めです。
『俺はずっと片想いを続けるだけ』を引き続き
お読みいただけますようお願い致します。
(1ヶ月後のお話になります)
注意
貴族階級のお話ですが、言葉使いが…です。
許せない御方いらっしゃると思います。
申し訳ありません🙇💦💦
見逃していただけますと幸いです。
R15 保険です。
また、好物で書きました。
短いので軽く読めます。
どうぞよろしくお願い致します!
*『俺はずっと片想いを続けるだけ』の
タイトルでベリーズカフェ様にも公開しています
(若干の加筆改訂あります)
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
逆行令嬢は何度でも繰り返す〜もう貴方との未来はいらない〜
みおな
恋愛
私は10歳から15歳までを繰り返している。
1度目は婚約者の想い人を虐めたと冤罪をかけられて首を刎ねられた。
2度目は、婚約者と仲良くなろうと従順にしていたら、堂々と浮気された挙句に国外追放され、野盗に殺された。
5度目を終えた時、私はもう婚約者を諦めることにした。
それなのに、どうして私に執着するの?どうせまた彼女を愛して私を死に追いやるくせに。
溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる
田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。
お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。
「あの、どちら様でしょうか?」
「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」
「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」
溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。
ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる