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銀の鱗と図書室の鍵 2

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「えっ、愛して? ……えっ!?」
「んんっ? 今さら驚くところなのか?」

 唇が離れたとき、私は混乱していた。
 先ほど、愛していた、と言ったジェラルド様の言葉は、聞き間違いなどではないだろう。
 けれど、いつも子ども扱いされているせいもあって、ジェラルド様が、私を愛していた、ということが結びつかない。

「あれ? 過去形……!?」
「ちょっと待ってくれ! 全く伝わっていないばかりか、誤解までするのはやめてほしい!」

 シーンッと、静まり返った室内。
 少し落ち着きを取り戻して顔を上げれば、ジェラルド様の耳元が赤かった。あれ? なにそれ、可愛い。

「……少し待ってくれ。改めて言うとなると、な」

 愛していた、と愛しているは、似ているようで全く違う。だって、愛していた、という言葉は、今の私に向けられたものではない。
 口元を押さえて、少し私から視線を逸らしたジェラルド様は、あまりに尊い。そう、尊いという言葉がよく似合う。

「っ、愛しています!!」
「は……?」
「お慕いしています。ジェラルド様のこと、本当に好きで、大好きで、世界で一番、愛しています!!」
「……ステラ」

 でも、私が愛しているのは、今のジェラルド様だ。もしも、同い年だとしても、逆に私が年上でも、きっと大好きになっただろう。

 黙り込んでしまったジェラルド様をギュッと抱きしめる。身長差があるから、胸のあたりに抱きついているみたいになってしまったけれど、ずっと、こうしたかったから……。

 ジェラルド様が、怪我をしたと知ったときにも、本当はこうしたかった。

 とても強いって知っているけれど、生身の人間に絶対なんてない。
 それを隠して笑うジェラルド様を子ども心に、こうして抱きしめたかった。

 ふと、ジェラルド様の首元に、完璧すぎる正装にそぐわない古い紐が下がっていることに気が付く。
 千切れてしまったのか、結び目が二つある、見覚えがありすぎるそれを引き出す。

「あ…………」
「こ、これ。あのときの」

 それは、ジェラルド様が怪我をしていたことに気が付いた私が、家に駆け戻って、慌てて作った幼稚なお守りだ。
 明らかに子どもが作ったとわかる不器用なお守りには、あの日の私の祈りと願いが込められている。

「ずっと、持っていて下さった……?」
「……片時も離さず」
「えっ、私のこと、愛してたって……」
「君はずっと子どもだったから、その言葉は語弊があるが……」

 ため息が聞こえる。
 抱きしめていた私の体が、抱きしめ返される。

「……ルルードには、未来を視る力があるのは、王太子妃の婚約者だった君はすでに知っていることだな?」
「ええ……。ルルードだけが持つ、固有の加護ですよね? ……まさか」

 なぜか少しすねたようにも見える、ジェラルド様の表情。

「そうだ。私ばかり、こんなに待たされて……。君は、こんな簡単に私に愛してると言えるなんて、ズルいな。それなのに、その言葉に舞い上がってしまっているのだから、どうしようもない」

 可愛すぎないか。それが正直な感想だ。
 たぶん、こんなに可愛らしいジェラルド様を知っているのは、私だけに違いない。

 いや、もしかしてバルト卿は知っているのだろうか……。

「その顔、何を考えている?」
「えっ、あのその」
「私が愛しているのは君だけだ」

 その言葉は、威力が強すぎて、今日の私は口まで押さえて、やはり膝から崩れ落ちたのだった。
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