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兄との約束

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 私たちは、無事に世界樹の聖域から外に出ることができた。世界樹に絡みついていた蔦は、今は随分と少なくなっている。今なら世界樹からフローラと私が離れても大丈夫そうだ。

「リアナ様……フリード様の気持ちに気が付いているんですか?」

「え?何言っているのフローラ」

「私ですら気が付いたというのに。さすがにフリード様が可哀想になってきました」

 兄の気持ちってなんだろう。私のこと、世界で一番大事な妹だと思っていると思うけど?

 そういえば、私には兄と初めて会った時の記憶がたしかにある。そのことに気づいたら、ほかの記憶までどんどん蘇りはじめていた。

 一人で庭で遊んでいた時に、父に呼ばれて薔薇のトンネルをくぐったらそこに兄がいた。それが、私と兄の初めての出会いだった。

『リアナ、兄のフリードだ。仲良くするように』

 まだ幼かった私には父の言葉の真意もわからず、ずっと欲しかった兄が出来たと素直に喜んだ。私とは対照的に、その時の兄は冷たい瞳をしていたように思う。

 私は兄と遊びたくて、毎日その背中を追いかけた。初めのうち兄は構ってくれなかったけれど、私が転んだ時に、抱き上げて助けてくれた。私は兄の優しさが嬉しくて「お兄さま大好き!」と言って思わず抱きついた。

 兄は瞳を見開いて「……可愛いなリアナは」と初めて笑った。冷たく見えた瞳は、その日からいつだって誰よりも優しく私を見ていた。

 7歳の時に乙女ゲームの出来事を思い出して、破滅を避けるために世界樹の塔に引きこもってからだって、いつも私のために本やドレス、珍しいお菓子、そして花束、たくさんの物を届けてくれていた。

 それなのに私は、ディオ様の呪いを肩代わりしたあの日まで、攻略対象者という理由で兄の事を避けていた。誰よりも、兄に甘えていたくせに。

「――――え?」

 世界樹の聖域から出たら、そこには兄がいた。

「――――あれ?なに……これ」

 頬に熱が集まる。どうしたんだろう、兄の顔を真っすぐ見ることができない。

 リアナは俺の……なんだったんですか、お兄様?

「リアナ……無事でよかった」

 いつものように、わたしが帰ってこないから心配して待っていてくれたのだろう。

 兄に、抱きしめられた。いつも、そうしてもらえたら、無条件に安心するのに。
 今の私は、もう安心どころじゃない。

 頬が熱い。胸が苦しくて、切なくて。それなのに、離れたくなくて。

(どうしよう……?!)

 なぜか涙までこぼれて止まらなくなってしまった。私は思わず兄の事を押しのけてしまう。

「リアナ?」

 兄が怪訝な顔をしている。たしかに、今まで私は一度だってそんなことしたことがない。

 それでも兄が以前言っていた「俺がもし兄じゃなかったら」という言葉の真実に私はたどり着きそうになっている気がする。

 もしかして、兄じゃなかったらというあの時の言葉……あれは本気だったのだろうか。

(どうしよう。私、どうしたらいいの)

「ごめんなさい!お兄様っ」

 私は、兄に背を向けると一目散に駆け出し、大好きな兄から逃げ出した。
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