上 下
43 / 109

王太子に完敗と卒業式

しおりを挟む

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 三学期、私の首席はライアス様に奪われてしまった。剣技で完敗、座学でも僅差で負けた。

 うーん、さすがメイン攻略者。どちらかと言うと天才肌のくせにものすごく努力家だ。努力だけの人間が勝ち続けるのは難しい。

 フローラにも実技で負けた。試験で大差で勝ったからなんとか二位は死守した。

 こうなったら絶対絶対、ミルフェルト様に会いたいから、聖女の力で王立図書館に入館する資格をもぎ取ってみせる。

 いや、それよりもやっぱり、世界樹の塔に扉を常設してもらうべきか。

(それでも、来年度は絶対に首位に返り咲く。私は、あの兄の妹だから出来るはずだ。)

 そう私は決意した。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 そして、文化祭から半年が過ぎる。

 今日は私の誕生日で、学園の卒業式だ。兄とディオ様は卒業してしまう。

 ディオ様と会う機会は、減ってしまうのだろうか。兄とは家族だからいつでも会えるけど、これからはきっと仕事も忙しいだろう。

 やっぱり、今までみたいには会えないのかな。

(置いていかれるみたいで寂しいかも)

 そんなことを思いながら、世界樹の塔から出ると、兄とディオ様が、なぜか揃って迎えに来ていた。

「二人ともどうしたんですか?」

 兄とディオ様の制服を見るのも今日が最後。え?なに、すごい貴重じゃないの?卒業式の兄とディオ様のダブル制服姿。

「一緒に登校するのも最後だからな。二人で迎えに来てみた。俺だけ行こうとしたのに、ディオがどうしてもって言うからさ」

「兄妹仲良いのは良いことだけど、今日だけは譲れない。一緒に行こう、リアナ」

 そう言って二人は何故か左右から手を繋いできた。

(子ども扱いされてない?ちゃんと歩けますよ?)

 しかも、この状態で登校するの?!すでに、学園公認の兄との手繋ぎ登校……のさらに上をいくと?!

「あの。流石にこれは……」

「俺は譲らないぞ」

「……ダメ、かな?」

 兄の手は振り解けないほど力強いし、ディオ様の耳にはぺたんと垂れた犬耳の幻が見える。

(――――詰んだ。いや、もう今更目立ってもそう変わらない。きっとそうに違いない)

 理想の引きこもり生活から一転。目まぐるしい一年間だった。

 大丈夫、兄がやらかしたあんなことやこんなことと比べたら、大したことない。いっそ楽しんでしまえばいい……。

 ん?本当に?

 今日は、親達の参加とあるんだよ?父とかディオ様のお父様やお母様も来るんだよね?

「あの……やっぱり」

「どうしても、この特別な日にリアナと登校したい」

「リアナとの特別な日の思い出にさせて?」

(――――ダメだなんて私にはとても!!いや、断れる人間いるのかなこれ?)

 今日は、特別な日だから。これは、人をダメにしてしまう魔法の言葉だ。

「――わかりました。でも、学園の手前までですよ」

 二人と手を繋いで歩く。たぶん、それも今日が最後だろう。そう私は思った。

 実際は、何かにつけて手を繋ぎたがる二人と、この後も繋ぐ機会はあるのだが、今の私はまだ知らない。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 教室に着くとレイド先生が、長い前髪をかき上げながら無駄にフェロモンを撒き散らして言った。

「今日の主役のような二人を両手にって、相変わらずだなリアナは」

「レイド先生。揶揄わないでください……」

 予想以上に沢山の人たちとすれ違い、二度見どころか三度見された時間を、私は決して忘れない。

 そして、仲良く会話しながら爽やかに去っていった二人のうしろ姿も。頑張った分、いいものを見せてもらった。

 卒業生代表挨拶は、三学期も全教科満点と、実技二位を決めてディオ様との同点首席を死守した兄。私もあなたに続きますから。

 そんな兄は猛烈にカッコいいが、挨拶がやや長かったので、減点しておこう。このままじゃ、私の中で兄だけが完璧にカッコいい人になってしまう。

 在校生代表はランドルフ先輩。もちろんランドルフ先輩は、来年度の生徒会長だ。

 卒業の花束贈呈は、何故か私が選ばれた。『春君』のヒロインのフローラのお仕事ではないのか。……もっと頑張って欲しい。フローラと目があったら、なぜかサムズアップされた。いや、あなたのお仕事なんだからね?

「卒業生の皆様……ご卒業おめでとうございます」

 それでも、兄に花束を渡すため壇上に上がると鼻がツーンとしてしまう。私は兄とずっと学園に登校できるのだと、勘違いしていたのかもしれない。

 確実に時間は過ぎていくのね。

「ありがとう、リアナ」

 兄の笑顔が眩しい。兄には悲しい顔は似合わない。兄のことは、私が守るから。兄、大好きだ。

 そう密かに決意していたのに。

「――っ――――?!」

 全校生徒と、父兄の皆様の前で、なぜか兄は堂々と抱きついてきた。

「あわわっお兄様っ!?」

「俺の大事なリアナ。お前のこと、絶対卒業させるから。絶対に見つけてみせるから」

 その声はたぶん私にしか聞こえないほど微かで。

 周りには感極まってしまったシスコン兄が、妹に抱きついている姿に見えているだろう。兄の今後にとって、それくらいのダメージで済むといいけど。兄の将来が心配すぎる。

(――――それでも)

 恥ずかしいくらいなんなのだ。私のために命をかけてくれた兄。まだ、諦めずに私のことを救おうとしてくれる人……。心から愛しい私の……。心から愛しい私の……?

「――――大好きなお兄様。お兄様が、生きて卒業してくれてうれしいです」

「リアナ……俺は」

「お願い。卒業して極秘資料管理官になっても、呪いを解くために危ない橋渡るなんてやめて下さいね?」

 兄が考えていることが分かってしまう。なんでどこだって引く手数多な兄が、進路を極秘資料を扱う部署にしたかなんて。

 内緒話のように小声のままの兄が言う。

「リアナ……ごめん。それだけは、約束できない」

「お兄様……」

 そして私たちは、引き離された。

「はい。仲がいいのは分かったが、そろそろ終わりにしような?」
 
 レイド先生によって、私は現実に引き戻された。やって……しまった。卒業式の長い長い抱擁。しかも妹と。兄の行く末を私が塞いでどうするんだ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

処理中です...