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第4章
聖女と極彩色の従魔
しおりを挟む「――――無事だったのね!」
胸元に切れ込みが入ってしまって、目のやり場に困るミルさんに抱き着かれる。
飛び込んできた瞬間に、ポヨンと揺れた胸元に、私の目は釘付けになった。
新たな扉が、開いてしまいそうだ。
「ミルさんこそ。間に合ってよかったです」
あの場所に残してきてしまった、シストとナオさんのことを思うと、胸がヒリヒリと痛くなる。
でも、今は前を向いて、この事態を打開するほかにできることがない。
「とりあえず回復を」
「いらないわ。この程度の傷、魔法を打つには支障がないもの」
「え……。でも」
「魔力は温存しておくのよ。だって、有限なのだもの」
そういいながら、ミルさんは自分の手首にはめられていた、腕輪を外すと私の手首にはめてきた。
「これは」
「奥の手」
「――――ミルさんが持っていたほうが」
「……いいえ。聖女様が持っているべきだわ。魔人はきっとまた、ここに来る」
怪しく光る、金色の目。口紅なんて塗らなくても、木苺のように赤い唇。
最高の美貌だと、王国の誰もが言うだろう。
むしろ、厚い化粧で今までこの美しさを覆い隠していたのではないかとすら思ってしまう。
「さ、戦いましょう。最後まで付き合ってもらうわよ? ロイド」
「ミル」
剣聖ロイドさんが、一瞬のスキをついて、ミルさんの頬をぺろりと舐めた。
その姿は、狼が愛する番にする、親愛行動のように見えたのは、私だけだろうか。
「きゃ?!」
赤くなってしまったミルさんは、純真可憐な顔をしている。
いつも化粧をしていた時よりも、むしろグッとくる。
「俺の印」
「バカ」
まるで、四つ足の狼が、獲物を狩る時みたいに姿勢を低くしたロイド様が、魔獣の中に突っ込んでいった。一対一の場合は、美しい王国騎士団流の剣術を、完璧に振るうレナルド様に軍配が上がる。
でも、対魔獣戦の時、ロイド様は強い。
「ところで……」
足元に、羽の生えた魔法陣を張り巡らせたミルさんが、眉をしかめる。
その間にも、魔法陣の構築には余念がないのはさすが、最高峰の魔術師。
――――むしろ、今からミルさんが発するだろう疑問については、私のほうが聞きたいくらいなのだが。
ステータスは、全ての人間に存在する。
それは、美しい金色の文字で描かれた、日本語だ。
ステータスが見えるのは、異世界から来た聖女の特権らしい。
そのほかに、鑑定士という職業の人は、聖女や守護騎士などの称号は見えるらしいけれど。
私も、見ようと思えば、称号のほかに、ある程度の強さが分かる。
そして、目の前にいる物体……。
毒々しい、緑と紫の色。そしてもう一匹は、蛍光ピンクとグリーン。
先ほど、戦っていたスライム二匹だ。
「――――仲間になりたそうにしている?」
そして、今まで魔物に見えたことがないステータスの金色の文字が浮かんでいる。
いや、これは……。えと、名前を付けたらいいのかな?
「えと、ミーとピー?」
思わず名前を付けてしまった。
その瞬間、かわいいとは言い難い色合いのスライム、ミーとピーがポヨンポヨンと飛び跳ねた。
あれ? つぶらな目があるの? もしかして、かわいいかも?
ポヨンポヨンと跳ねながら、二匹はレナルド様の周りの敵を排除し始めた。
緑と紫のミーは、毒を使うのか周囲の敵が、紫や緑に変色して倒れていく。
蛍光ピンクとグリーンのピーは、酸を使うらしい。周囲がジュウジュウいっているけど。
珍しく動揺したのか、ちらりとこちらに目を向けるレナルド様。
多分大丈夫です! の意味を込めて、笑顔を返しておくと、露骨にため息をつかれた。
「――――えっと、あれなに」
「えっと、聖女の新しい仲間……ですかね」
二匹のステータスには、確かに『聖女の従魔』と書かれていた。
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