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第2章

婚約から、逃げていいですか 1

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 朝日が降り注ぐ窓、眠れない夜を過ごした私は、カーテンをほんの少し開いて、外を覗く。
 昨日たくさん詰めかけていた人たちは、諦めたのか門の前にはいなかった。

「……それにしても、ここはどこなのかしら」

 三階建ての建物を王都に所有できる貴族なんて、数えるほどしかいない。
 だから、その答えは、ディストリア侯爵家の所有する建物なのだろう。

「…………レナルド様」

 王族の呼び出しに、早朝から出かけて行ったレナルド様。入れ替わりに、今は、ミルさんが護衛に来てくれている。

 レナルド様は、出かける直前まで、「表に出ないように」と、私に繰り返し言った。
 確かに、昨日の襲撃といい、安全のためには、一箇所にいて欲しいのは、分かるけれど。

「それにしても、聖女様を閉じ込めるなんて。名前を呼ぶことも出来ずに、守護騎士としての責任感で思いに蓋をし続けてきたせいね。……拗れているわ」
「こじれ?」
「あら、ごめんなさい。こちらの話」

 ミルさんは、今日は露出度控えめだ。
 首元まで黒いレースに覆われたタイトなドレス姿は、逆にその妖艶さを際立たせている。

 実は、ミルさんが来るまで、少しだけ時間があったから、お屋敷を抜け出そうとした私。
 結果、お屋敷はおろか、この部屋から出ることすら叶わなかった。

 どれだけ厳重な防衛体制を敷いているのだろう。心配性なレナルド様らしい。

 それでも、聖女の称号と魔法を持っていた時には、たぶんここから出るなんて、簡単だったに違いない。
 自分の身を守ることも出来ない。聖女の力のない私は、懐かしい、かつての世界と変わらない。

 結局、レナルド様に迷惑かけて、庇護されて生きていく?

「ねえ、レナルドがなんで王宮に行ったか、分かってる? 聖女様との婚約を陛下に、許してもらうためだわ」
「責任とって婚約してもらうのは、さすがに……。それに、私はもう、聖女じゃなくなったから、守護騎士としての役割を果たす必要もないです。真面目なレナルド様らしいですけど」
「レナルドのこと、好きなのだと思ってた」
「………………好きですよ?」

 でも、レナルド様と対等でいたい。

『ね、後悔しない? しても良いけど、このままここにいた方が、道は平坦だ』

 たぶん後悔する。
 レナルド様がいない世界は、たぶん寂しくて、楽しくない。

『でも、理沙は行くんだね』
「うん。シスト、お願いできるかな」

 ミルさんは、私を止めない。
 私の選択を尊重してくれる。

「たぶん、逃げられないと、思うけど。それに、レナルドにとっては、これも想定内だろうから」

 シストが、桃色の光を放つと、私たちの姿は、部屋から消えた。
 ミルさんの呟きは、私に届かないままだった。
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