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パーティーのお誘い 5

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「まさか、レザール・ウィールディア殿下が、幼い頃からずっとフィアーナ様を慕っていたとは」
「へ?」

 寝耳に水とは、このことだろう。
 レザール様が、ずっと私を慕っていた?

 その言葉を心の中でもう一度繰り返してみる。

「そ、それは、まさか」
「今、王都の話題の中心ですよ。言われなき罪で貶められた思い人を救うために、レザール殿下が奔走したと。それに心を打たれた父が、隠れ蓑として名乗り出たそうですね?」
「……!?」

 レザール様の腕に掴まったまま、顔を見ることが出来ない。
 そんな噂が立って、その私がレザール様の腕にしがみついている状況。

(噂は真実ですって、周囲に知らしめているようなものじゃない!!)

 せめてレザール様から距離をとろうとしたのに、なぜか逆にぐいっと引き寄せられて、もたれかかるみたいになってしまった。

「全て事実です」
「へぁ?」

 レザール様の淡い水色の瞳が、私をまっすぐに見下ろした。

「……密かにずっと、お慕いしていたので」
「……」

 レザール様は、それだけつぶやくと、私に微笑みかけた。
 ざわめきが広がり、改めて会場中の注目を浴びてしまっていたことに気がつく。

(そんな……。だってレザール様には好きな人が)

 会場にいる人たちには、レザール様が私に甘く笑いかけたように見えるだろう。
 でも、私は知っている。
 これは本当のレザール様の笑顔じゃないって。

「あの……」

 その時、会場に音楽が流れはじめる。
 周囲に弁解することも出来ないまま、掴まっていたのと反対の手が引かれて、私たちは真正面から向き合った。

「……踊っていただけますか?」
「……はい、喜んで」

 外れかけてしまった、よそ行きの仮面を被り直す。
 レザール様に向けた私の微笑みも、もちろんいつもの笑顔じゃない。

 ゆっくりと踊り出した私たち。

「あの頃、一度だけこうして踊りましたね」
「……レザール様」
「兄上が、他の令嬢に囲まれていたあなたをお誘いしたあの日」

 そう、王太子の婚約者になってから、いつも私は、社交界で一人立たされていた。
 卒業式間近、私が最後に参加したパーティーで、レザール様にダンスに誘われた。

 当時は、私のほうがレザール様より背が高かったから、エスコートされたというより、一緒に楽しく踊ったという方が合っていそうだけれど……。

 あの日の少年は、今は大人になって私を見下ろし、ダンスをリードしている。

「レザール様」

 グイッと腰を引き寄せられ、ドレスの裾を翻しながらターンすれば、会場から拍手が沸き起こる。

「ふふ、やっといつものフィアーナだ」
「……あの」

 吐息がかかりそうなほど近い距離。
 きっと今なら会話をしても、私たちにしか聞こえない。

「……怒っていますか?」
「え? どうして」
「……あなたを手に入れたいからと、噂を流し、こんな手段に出た俺のことを」
「え?」

 眉を寄せたままのレザール様の笑顔からは、切なさすら感じる。

「ずっと、好きでした」
「……レザール様」
「その答えすら聞く勇気がないくせに、あなたが欲しくて、外堀を埋めて」

 答えなくては、と思うのに唇がしびれて、頭がぼーっとしてしまい、上手く答えられない。
 今の言葉は、いつもの私の勝手な妄想なのではないだろうか。

 曲が終わり、静かにもう一度向かい合った私たち。
 まるで恋人にするように、手の甲に落ちてきた口づけ。

「ずっと、あなただけを愛していました」

 微笑んだレザール様の笑顔は本物だ。
 それなのに、どこか悲しそうで。

「行きましょうか」

 あまりの衝撃に、答えを口に出来ないまま、レザール様に引き寄せられて私は歩き出した。
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