32 / 36
家族以上恋人未満
しおりを挟む* * *
あの日から、私たちの距離は……。
(全く縮まっていません)
そもそも、家族と恋人はどちらの距離が近いのだろう。
「家族の距離の方が近い気がするの……」
「そうか? 僕はそう思わないけどね」
「ひっ、お父様!?」
領地のお屋敷の執務室で、独り言を言ったつもりだったのに父の声が急にしたため驚いて肩を揺らす。
「恋人と恋人の距離は近いさ……つまり君たちは恋人未満ということだ」
父が私と同じ淡い紫色の瞳を細めた。
「恋人未満……」
「はあ、僕ももう少し君に色々教えてあげるべきだったのか……でも、君がここに来るまでにもっと教えておいてほしかったな……」
「いろいろ?」
「僕の最愛の人、つまり君の母親に対しては、どうして信じてくれなかったという気持ちだけだったけど……君にもう少し、さ」
「――お父様はお母様のことを愛していたのですよね?」
「もちろん……全てを捧げることを決意するほどに」
「だからですよ」
お母様の気持ちが今は少しわかるのだ。
ヴェルディナード侯爵家の血がなせるものなのか、その愛は少々重い。
自分の身を犠牲にして、愛する人を守ろうとするその姿は、美談として語られるかもしれないけれど……。
「幸せになってほしい……ただ」
「……そうだね。僕と彼女はそういう点がよく似ていたに違いない」
「……お父様」
「そして、僕と彼女の血を等しく引いた君はもっとそうなのかもしれないね」
「私が……?」
私はいつも自分のことで精一杯だった。
もしかしたら、もう少しだけ義兄のことを慮れば、違う未来があったのかもしれないのに。
(一人で戦わせてしまった……今ならそう思うのに)
苦しい状況で誰かを思いやることはとても難しくて。
でも、義兄はいつだって私のことを……。
「お父様……大好きです」
「はは、突然の愛の告白かい?」
「ええ、お父様が生きていてくれることがとても嬉しいです」
「そうか……それなら、君が知っている未来を覆すために力を尽くそう」
父のことをまっすぐ見つめる。
「だが、僕はあくまで裏方だ。幸せにおなり」
「お父様……」
義兄と私の距離は近づかない。
手を繋ぎ、笑い合い、同じ時間を過ごす……その時間は幸せなのに、それだけでは足りない。
「もうすぐ、シルヴィスが王都から帰ってくる。出迎えてあげなさい」
「ええ……お父様」
身につけるのは、お義兄様の金色の瞳をイメージした月のようなアクセサリーだ。
三日月は、微笑んだ義兄の目のようだ。
耳につけたイヤリングがシャラリと揺れる。
エントランスホールで今か今かと帰りを待つ。
(宰相代理として働くお義兄様……。活躍は目覚ましいものだけど)
心配になるのだ。私と出会ってしまったために、いつだって負担を掛けているのではないかと。
「――なんて顔しているんだ」
「……っ、お義兄様!」
「シルヴィスだと言っているだろう」
「……シルヴィス様」
――少しだけ変わったのは、その腕の中に飛び込むことができることだ。
だって、いつだってその腕は私を抱き留めてくれるのだから。
380
お気に入りに追加
1,301
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる