上 下
11 / 15

心痛な報せ

しおりを挟む
華奈はベッドで眠っていた。
母の悠子が部屋のドアをノックしたのは、年が明けて二日目の、部屋に冷気が漂う朝四時過ぎのことだった。

一階廊下に置かれている電話の電子音は、早朝の静けさを破って、家中に大きく響いた。
悠子はカーディガンを羽織ってベッドから出ると、胸騒ぎを覚えながら電話に出た。
「亜樹子です、姉さんごめんなさいこんな時刻に、日赤の救命センターにいるんです、貴幸さんが意識不明なんです、来て下さい?、保険証はお財布に入っていたけど、わたし、何も持って来ていなんです……。入院の手続きが要ります、わたしでもいいんですけど、そうも行かないみたいなの、親族の方がいらっしゃれば連絡をしてくださいって……。それと、入院に必要な物のリストを預かっています、それと印鑑も持って来ておいてください、わたしは動けないから……」
「分かったわ、ごめんなさいね直ぐ準備して行くわ、悪いけど待っていて。主人はどんな様子?」
「今、落ち着いた処です、詳しいことは姉さんが見えてから話します。高熱と震えがひどくて、声を掛けたけど返事がなくて……。さっき部屋で呻く声が聞こえたけど、今は静かに眠っているみたい……」
「命に関わる情況なのかしら?」
「それは大丈夫だそうです」
「ありがとう。お世話を掛けてしまってごめんなさいね、直ぐ行きますから、宜しくね……」
二階の階段降り口で、電話の話し声を聞いていた修司は、すばやく着替えていた。
悠子が指示したタオルや、自分の使っていないパジャマをバッグに詰めると、先に一階にある駐車場に下りて行った。
華奈は急いで洗顔し素早く顔と髪を整えて、セーターにダウンのコートだけを羽織った。
修司の運転するワゴン車の中で華奈が言った。
「亜樹子さんの処でよかった、マンションで独りだったら大変だったかも知れないわ……」
修司も言った。
「亜樹子小母さんが、お父さんに、独りで居るなら一緒に正月をしようって言ってくれたんだ……。お父さん行ったんだね、どうして家に来なかったんだろう?、正月くらい来ればいいのに。お父さんから聞いたけど、お母さんと話しをしているって?」
華奈が言った。
「修ちゃん、それどう言うことなの?、わたしは知らないけど……」
「スキャットのパーティーのとき、お父さんが亜樹子小母さんと小母さんのお兄さんと話しているのを聞いたんだよ。お父さんがその時に、間もなく現職を離れるからって、そうだろお母さん?」
悠子が言った。
「もう少ししてから話そうと思っていたの、後で話すわ……。でも、ほんとに亜樹子さんの処でよかった、亜樹子さんには迷惑をかけることになってしまったわね、無理にでも家で正月をして貰えばよかった……。お父さん、あんな性格のひとだから、けじめだからって言って……」
着いたばかりらしい救急車が正面入口の車回しに止まっていた。
救命センターの前で悠子と華奈を下ろすと、修司だけが駐車場にワゴン車を置きに行った。
受付の長椅子には何組かの家族が座っていた。
看護師の女性と老人男性が、ぐったりとした老女を両側から抱えて奥の処置室に向う後姿が見えた。
 三人の救急隊員が急患を引き渡して、空になった担架の傍で医師と話していた。
亜樹子は廊下の一番奥の長椅子に座っていた。
病院内は暖房で比較的暖かかったが、亜樹子は毛糸の帽子に水色のダウンのロングコートを羽織ったままだった。
両腕を胸の前で組み、左右の上腕辺りを白い指がコートに食い込むほど握り締めて、自分のからだの震えを押さえるかのように抱きしめて俯いていた。
華奈が声を掛けるまで亜樹子は二人に気付かなかった。
亜樹子は気付くと立ち上がって言った。
「華奈ちゃん驚いたでしょ、あんな時間に電話したから……。姉さん、今、処置室で検査をしているの、体温が四十度もあったそうです。親族が見えたら、もうすぐ検査結果を話して頂けるそうですから……」
悠子が訊く。
「今は何処に?」
「そこの部屋です。病室を手配していると、さっき看護師さんから説明がありました」
「それで、どんな様子なの?」
「直ぐにどうと言うことはない様ですけど、かなり重症かも知れないそうです。原因は肝臓みたい……、何かの数値が異常だと……、気付かなかったけど黄疸も見られると……」
亜樹子はまだ少し震えていた。
華奈が背中に腕を回してコートの上から抱えると、コートのダウンが沈んだ。
華奈は亜樹子の身体が細かく震えているのを感じた。
悠子が亜樹子に話し掛けようとしたとき、女性看護師が近づいて来て言った。
「南條貴幸さんのご家族の方ですか?、どうぞ先生のところへ、2番のドアです」
悠子と遅れて来た修司とが一緒に診療室に入った。
廊下に残された華奈と亜樹子は並んで椅子に座った。
華奈が言った。
「小母さんごめんなさい、お正月から迷惑を掛けてしまって……」
「いいのよ、小さい頃から兄妹みたいに育ったのよ。あの日、少し嫌な予感がしたの……。華奈ちゃん達を見て嬉しそうにしていたのに、好きなウヰスキーをグラスに残して飲まなかった……。昨日はお昼前に見えたわ、何かだるそうな感じだったの、食べるとお腹が張るとか肩が痛いとかって、ボソッと言っていたわ……。御節料理も少し手を付けただけで、直ぐにソファーに横になってね……。ボーっとテレビを見ていたのよ、疲れているみたいだったから、奥の間に床を準備してあげたの。夕食もそこそこに、悪いけど寝させて貰うよって、それが六時頃だったと思う……。わたしがお風呂を済ませてベッドに入るまで、一度も起きないで静かに眠ったままだった。異常に気付いたのは今朝の三時過ぎだったわ、わたしが水を飲もうと廊下に出たときだったの……」
華奈は、俯いたままで言った。
「気付いてくれてよかった。小母さん、わたし、慶彦さんとのことで少し浮かれていたのかも知れないわ。さっき来る時に修司に聞いたわ、父と母が、これからどうしようとしているかなんて、気にもしていなかった。特に父のからだのこと……、馬鹿ね」
「何を言っているの?、お父さんは喜んでらしたわ。普段は堅くて厳しいのに、あの日は修ちゃんに華奈とお母さんを頼むぞ、なんて殊勝なことを言っていたわ、珍しいことだと思って見ていたのよ」
「亜樹子小母さんに比べたら、今のわたしなんてこどもでしょ?、慶彦さんも少しだけ年上だけど、しっかりしていて大人だし、小母さんは凄いなって、最近つくづく思っているの……」
「ううん、鶴間さんもしっかりしているけど、華奈ちゃんも立派な大人の女性よ。自信を持ちなさい」
「あーあ、こんなときに小母さんに話すようなことでもないのに、どうかしているわ・……」
華奈たちが腰掛けているところから、左手には、まだ夜の明けない外の様子がガラス窓を透して見えた、救急車が止められたままだった。
右手にはエレベーターがあり、正面に一般病棟への廊下が続いていた。
廊下の左に診療室が三室、右に処置室が二室、その奥に検査室があった。
1番の処置室のドアが開いて、中から、白い毛布に包まれて横たわる患者を乗せた担架が運び出された。
救命病棟の病室に移すために、エレベーターのある華奈たちの方に向って来た。
長椅子に座っていた若い夫婦がいた。
華奈より若いと思われる妻は、よく眠っている二歳くらいの男児を抱えていた。
夫婦の処に女性看護師が近寄り、夫に書類を手渡して説明しながら担架に付いて行くように促した。
若い母親が心配そうな表情で男児を正面に抱き直し、一層強く胸に抱きしめるようにして、夫に寄り添いながら担架に続いてエレベーターに乗り込んだ。
華奈は急に父の様子が心配になった。
目の前の受付で、当番の医師と話していた救急隊員が「それでは、我々はこれで戻ります、宜しくお願いします」と言って玄関に横付けしていた救急車に戻って行った。救急車には知らない町の名前が書いてあった。
華奈に抱きかかえられて落ち着いた亜樹子は、今度は自分が華奈の手を握ってやった。
華奈が言った。
「小母さん、この前の夜ね、こんなに楽しいことがあるのかって思ったわ。スキャットに集まったみんなは幸せそうだったわよね……。何も心配しないで、ただ前に進んでいけばいい、そう思ってた……。磯崎さんたちも雅ちゃんと繭子さんも、相馬さんや陣内さんのカップルも……。わたし、雅ちゃんと一緒にスキャットに行って、静香さんと会ったあの日から昨日までが、人生の中で一番幸せだったかも知れないわ……。でも、ずっと幸せなことばかりが続く訳はないわよね……」
「何、弱気になって、わたしの処で貴幸さんの発作が起きたのは、華奈ちゃんの家族にとってもわたしにとっても、幸運だったと云えるわ。独り自分のマンションで倒れていたら、そう思うと、わたしはまだ貴幸さんには生きることに執着があるのだと思うのよ、特に華奈ちゃんと慶彦さんのことを思えばね。大丈夫、貴幸さんはこどもの頃から怪我でも病気でも直ぐに治って、元気に走り回るお兄ちゃんだったから、心配しないで……」
修司が診察室から出て、二人の方に歩いて来た。悠子はまだ出て来なかった。
亜樹子が言った。
「修ちゃん、どうだって?」
「お父さん、前から自覚症状があった筈だって……。今は意識はあるけど、苦しくて口が利ける状況ではないだけだって……。今のところ大丈夫みたいだけど、慢性肝炎が肝硬変に進んでいるって……。はっきりしたことは午後の検査結果を見てからになるらしいよ……」
華奈が言った。
「手術で切ったりするの?」
「それは無いみたいな話しだった、とりあえず安静にして薬で治療をするみたい……。かなり無理をしていたのと、食事がいい加減だったんじゃないかって。お母さんも僕も、他人に食べて貰う料理を作っているのに……、お父さんはいい加減なものを食べていたんだ、悔しいよ……」
修司は涙ぐんでいた。
悠子が診療室から出て来た。
亜樹子が言った。
「姉さん、どうなの?」
「長い入院になるかも知れないわ、とにかく安静ですって……。仕事なんかはもう無理だと思うわ、署の方に連絡しなきゃ……。亜樹子さん、お世話を掛けたわね、ありがとう、後は何とかできるわ、せっかくのお正月休みなのにごめんなさいね、修司、後で送ってあげて?」
「それはいいんですけど、貴幸さん、ほんとに意識はあるんですか?」
「先生の仰ることは分かっているみたい、話す気力がないのよ。病室の準備が出来るまで、もう少し此処にいるみたい。救命病棟に移って、落ち着いてから、明日詳しい検査をするそうなの、癌になっていなければいいのだけど……。随分痩せているわ、誰かが言わなければ、無理をして自分では調整の利かないひとだから……」
亜樹子が言った。
「大丈夫ですよ、何でも頑張るひとでしょ?、だから今度もきっと頑張ると思いましょうよ?、誰かが付き添うんでしょ、わたしのマンションでお食事をして?、華奈ちゃんも修司くんも……」
悠子が言った。
「亜樹子さんありがとう、でもこの病棟は完全看護らしくて、付き添わなくてもいいらしいわ、病室が決まれば一度帰って準備をして下さいって……」
亜樹子が言った。
「わたしの所にバッグとかコートもあるし、貴幸さんのマンションにも行って、着替えとかも準備されるんでしょ?、みんなも食べないと元気が出ないわ。修司くん、此処がすんだらお母さんと華奈ちゃんをマンションに連れて来て上げて?、わたしはタクシーで帰るわ。朝食を準備しておくから、マンションの駐車場は6番よ、空けておくわ……。食べてからお家に戻ればいいでしょ?」
華奈が言った。
「小母さんありがとう、修司、送ってあげて?、わたしとお母さんは一緒に病室まで行くから、後で迎えに来て?」
修司はタクシーで帰ると言う亜樹子を説得して、一緒に待合室を出て駐車場に向った。

亜樹子を送っていく途中、運転しながら修司が言った。
「小母さん、正月が開けたら僕ひとりで幸をやってみます、もうお父さんをひとりには出来ないから……。お母さんと一緒にいる方がいいですよね、刑事も辞めるみたいなことを言っていたし……」
「そうね、お仕事のために家族を危険に晒したくないって、そう言っていたんだから、刑事を辞めるのなら、もういいわね、わたしからも話してあげるわ。この前うちの兄には亀岡に帰るかも知れないって話していたわ、お母さんと畑を作って、新鮮な野菜でも修司くんに送ろうかって……。珍しく穏やかな顔で話していたのよ。修司くんたち家族を愛しているのよ……。・・・小母さん羨ましいわ」
「小母さんは結婚しないんですか?」
「諦めてはいないわよ、でもね、店に来て下さるひと達がいいひとばかりだから、その気になれないのよ、お店を止められないから……。華奈ちゃんや雅ちゃん、あの日集まったひと達、そしてお父さん、分かるでしょ?」
「はい、分かります。田舎の幼友達っていいですね?」
修司は必ず母と姉を連れて来ると言い残して、亜樹子をマンションの前で降ろした。
陽射しのない曇った夜明けの烏丸通を、無言のままハンドルを握り締めてワゴン車を走らせた。
空いた道路が涙で歪んで見えた。

年賀状を整理していた繭子は、謹賀新年の文字と梅の花のイラストの下に綺麗なペン字で書き添えられた文面に驚いた。
年賀には相応しくない内容が信じられず、裏返して差出人を見た。
『わたし今年の秋には母になるかも知れません。
理解して貰えないかも知れないけど、わたしの生き方だから祝福してね。
わたしの初仕事は辞表を出すことかな。
仲良くしてくれた繭子さんにだけお報せします』
中江愛子の文字を見たとき、即座に大柳昭一の顔が浮かんだ。
愛子のことが心配だった。
同期で入社した愛子は、最初から繭子とは違う雰囲気を持っていた。
学生時代から、テレビ番組のアシスタントやイベントのコンパニオンをアルバイトでやっていた。服装も化粧もセンスが感じられた。 
はっきりとした目鼻立ちで、人と顔を合わせるときは何時も笑顔だった。
モデルのような長身の体形には少し違和感を与える、丸みを帯びた頬と顎をしていた。
女子社員の中でも撫で肩が目立つ日本的な容姿で、それが魅力でもあった。
眉と目がはっきりとして凛とした雰囲気もあったが、柔らかな顔の輪郭がそれを抑えて、明るく快活な印象の方が強かった。
大人しい感じの繭子とは反対のイメージを感じさせていた。
入社試験の初対面のとき、愛子の方から繭子に近づいて来た。
入社が決まり、入社式で会ったときから、社内で唯一の女友達になった。
繭子は携帯電話を取ると、愛子にメールを送った。
繭子は、普段耳にしている妻帯者と独身者の恋愛形態として、不倫は知っていても、愛子と大柳の関係を、不倫の現実として理解はできなかった。
愛子とは社内での付き合いはあったが、プライベートでは一切付き合いはなかった。趣味も遊び方も違っていた。
目に見える大きな違いは、着ている高価なブランドの服や持ち物だった。
愛子の両親は、愛子が中学生の頃から別居していた。
愛子が大学を卒業して、会社に入社が決定した後で正式に離婚が成立した。
母親は薬剤師で、離婚する前から父親から受継いだ二軒の薬局を経営し、後にエステティック.サロンを開いた。
愛子は母親が購入したマンションに、母親とは別に独りで住んでいた。
離婚した父親は、市内の医療法人に勤務する婦人科の医師だった。
学生時代に母親と知り合って結婚したと愛子から聞いていた。
繭子の結婚観は、世間一般の常識範囲内で男女付き合いをして、お互いの意思を確認してから、結婚に結び付けるものだと考えていた。
その一般常識は、決して絶対的なものではないとも分かっていた。
ただ、法律に触れることは許されないし、それ以上に周りの人たちを苦しませたり、悲しみを与えたりしてはならない、というのが繭子のモラルとルールだった。
ブルー.ムーンのバラの花束を亜樹子に贈った大柳。
男性としての見栄えも、上司としても欠点の少ない大柳。
その大柳が、奥さんがありながら愛子との関係を続けている。
繭子はこころから好きにはなれなかった。
愛子からのメールは、雅人のメールと前後して返信されて来た。
雅人からのメールは、華奈の父親である叔父が倒れたから、会う約束の時間を午後三時以降に出来ないか、という文面だった。
愛子のメールは、何処かで昼食を一緒にしてもいいと云う返事だった。
繭子は、雅人に三時以降でいいと返信メールを打った後、愛子には京都駅の近くで是非会いたいと返信した。
繭子と雅人は年末に、正月二日の計画を立てていた。
平安神宮に初詣に行き、帰りに、独りで過ごしている亜樹子を誘って一緒に食事をする、その後で雅人が繭子の家を訪ねることにしていた。

繭子は愛子と会うために京都駅に向った。
中江愛子はグラデーション.カットのショート.ヘアに、ボリューム感のある襟の付いた淡いブラウン系のロシアン.セーブルのジャケット、ダーク.グレーのセミロング.スカートにハイヒール姿だった。
人ごみを見ながら、ホテルのラウンジに繋がる階段の脇で待っていた。
初詣の行き帰りの人達で、駅の中央口コンコースは混雑していた。
その中でも、愛子の洗練された雰囲気は目を惹いていた。
通勤時に見る愛子からは連想できないファッションだった。
繭子は駅のコンコースに入ったところで愛子を見つけた。
まだ、見た目では分からないだろうと思いながらも、彼女を遠慮がちに注視した。妊娠している気配などは全く感じられなかった。
愛子も繭子の姿を視界に捉え、四、五メートルに近づいた辺りで繭子に言った。
「何よ、その顔?、お正月よ、もっと嬉しそうな顔をしなさいよ?、でも驚いたみたいね?」
「驚かない方がおかしいでしょ?。それに普段の感じと全然違うんだもの、違う人かと思ったわ……。いいのかしら、そんなに高いヒールを履いても?」
「平気よ、気を付けているから、でも気持ウエストが太くなったかな……。このコートだと、まだ分からないでしょ?、でもね、よくお腹は空くの、今もそうなの、お正月に独りで御節料理でもないし……」
「独りでなんて、お母さんは?」
「そんなの……。この何年かお正月に会ったことがないわ。仲間の人たちと温泉だったりハワイだったり、娘をひとり残してよ、どう思う?。そんな母親よ……」
「どうって、わたし愛子さんのことを、そんなによく分かっていないから?」
「そうね、そう言えば会社の外で会うのは初めてね。母のことはいいのよ、それよりお昼、何にする?」
「愛子さんの食べられるものに合わせるわ?」
「大丈夫、つわりは軽いの、そろそろ終る頃なのよ。気を遣わなくてもいいわよ、普通でいいの……」
「嘘、そんなに経っているの?、よく不安じゃないわね、どうするつもりだったの?」
「いいから、後で話すわ、行きましょう?」
ホテルのラウンジは満員だった。
愛子は友人がやっている店があると言って、ホテルを諦めて駅近くのイタリアン.レストランに繭子を連れて行った。
シェフお薦めの蟹を使ったパスタ.ランチを頼んだ。
繭子が言った。
「愛子さん、どうかしてない?、本気なの?」
「繭子さん心配しないで?。わたし結構逞しいのよ。それより、仕事だから答えられなかったらいいけど……、大柳さんの転勤を知っていたの?」
繭子は驚いて言った。
「いいえ、管理職の人事は本社総務なの、わたし達には事前に知らされることはないのよ。それに、知っていると思うけど、総務と経理は一般部門の異動より発令月がずれているでしょ?、だから何も知らないわ。でも、その話しは本当なの?、誰から聞いたの?」
「休みの最初の日に会ったのよ、彼から直接聞かされたの……。関東支社に転勤することになった、それも一月十五日付だよって……。今までは部長扱いだったけど、正式な部長で行くことになるから昇格人事だって……。でも一月なんて変則でしょ?、どうしてかな、と思って……」
「それなら心当たりがあるわ。関東支社の総務部長が、十一月末に茨城の工場に行っているときに倒れて緊急入院されたのよ、それが先月の十二日に容態が急変して、亡くなられたの、年末だし社葬じゃなくて親族だけの密葬だったから、幹部だけに連絡が回って、社報には載せなかったって聞ているわ。誰が後任で行くのだろうって、総務部内では話題になっていたの。それより、大柳さんには奥さんがいるのよ、生まれてくるあかちゃん、どうするの?」
「彼を信じるわ。話してくれたのよ、家内は転勤に同伴しない、単身赴任になるって、夫婦仲が上手く行っていなかったのよ。子供はいないし、別れるにはいい機会だって……」
「別れるなんて……。大柳さんが言ったの?、そんなに簡単に行かないでしょ?」
「違うのよ、随分以前から奥さんの方から切り出されていたの。近畿支社に転勤して来てから結婚して、住んでいるのはずっと奥さんの家でしょ、学生向けの賃貸マンションや他の不動産も、財産は奥さんと奥さんの弟さんの名義になっているのよ。だから彼の収入がなくても、奥さんは経済的に困ることはないのよ」
「訊いていい?、怒らないで、愛子さんのことが原因で夫婦の間に問題が起きたの?」
「違うのよ、もう繭子さんとも長くないから話すわ、一昨年の年末よ、うちの課の忘年会に、総務からゲストで彼が呼ばれて来たことがあったの、二次会が終って解散になったときに、偶然帰る方向が同じだからって、幹事の誰かが彼の乗ったタクシーにわたしを乗せてくれたのよ。家に帰る前に少し酔いを醒ましたいからって、途中でタクシーを降りたの、わたしのマンションから十分くらいの所だった。近くのラウンジに入ってコーヒーを飲むことにしたわ……。そのとき、彼は酔っていたのだと思う、気が緩んでいたのね、わたしのような十九も年下の、普段話したこともない女子社員に奥さんとのことを話したのよ。繭子さんには前に話したけど、わたし、高校を出て二年くらいクラブでカウンターの仕事をしていたでしょ、思うところがあって大学に行くことにしたけど……。結構色々な男のひとを見て来たのよ、話を聞いて気の毒で可哀想だった。総務の人たちって社内では割と敬遠されるのに、話し易いって、社員の間で評判もいい総務部長が、そんな悩みを抱えていたのだと分かって同情したわ・。わたし、自分の父のことが重なっていたと思うの……。でも、そのときは何もなかったのよ」
「そうなの……。気を悪くしないで聞いてくれる?」
「いいわ、どうぞ」
「わたしね、今の彼と出会ったジャズ.クラブのママと知り合いになったの、とてもいいひとなのよ。そのママと大柳部長が、八坂神社の近くの料亭から出て来るのを見た人がいるの……。愛子さんのことは噂で聞いていたから、その話を聞いたときはショックだったわ・、でも、それは誤解だったわ。大柳さんが入社して間のない頃のことよ、東京本社の頃ね、大切な得意先の接待で二次会にクラブに案内したそうなの、既に酔っていたお客さんと他のお客さんとの間でトラブルが起きたの、若い大柳さんはどうしていいか分からなかった、そのとき、見かねてその場を収めてくれたのが、当時そのクラブで歌っていたママだったの。何年か経って、ママが京都に帰ってクラブを開くと聞いた大柳さんは、初対面の時にママが胸に付けていた紫のバラを憶えていてね、開店の日に数え切れないほどの青いバラの花束を、昔の恩人であるママにプレゼントしたのよ。料亭から出て来た相手のひとがその大柳さんで、ママの恋人でも愛人でもなかったのよ、そのことを知ったとき素敵なひとだと思ったわ。普通ならとてもいい上司だし、わたしは部下として可愛がって貰ってもいたから、好きになって当然なのに、愛子さんとのことを聞いていたから、どうしても好きになれなかったのよ……」
「そんなことがあったの?、知らなかったわ。繭子さんは彼の奥さんの弟さんと会ったことがあるんでしょ?、彼から聞いたわ、自分の思い付きで奥居くんに悪いことをしたって。弟さんは貴女を気に入っていたみたいね?」
「聡史さんと云うのよ、大柳夫妻も一緒に食事をして、それからふたりでドライブに行ったわ、時間が経つに連れて嫌いになって行ったのよ。あのひとのお姉さんだから、何となく今の話を聞いて分かる気はするわ。本当に大柳さんが離婚するのなら、わたし、愛子さんを応援するわ」
「繭子さん、わたし母子家庭でしょ、別れた父は辛かったんだろうって、今ごろ考えるのよ。母にここまで育てて貰っていて悪いけど、母の事業を継ぐ気はないし、財産もいらないわ。母や彼の奥さんのようにはなりたくないわ。不倫だったかも知れない、でも彼から奥さんの話しを聞いていなかったら、こんなにはならなかった。繭子さんと彼とは純愛だと思うわ、でも、わたしも純愛だと思っているわ。わたしは離婚して欲しいとは望んでいなかったし、頼んだこともないのよ。わたしは彼の仕事の妨げにならないようにって考えたわ、だから会社も辞めるのよ、彼のために……。転勤は偶然なのよ」
繭子は口を閉じて考えていた。
愛子も黙っていた、暫くして繭子が言った。
「わたし、何か気が抜けちゃったわ、愛子さんと会って。他の方向で話すつもりだったのに、こんな話しの展開になるなんて予想していなかった。愛子さんは偉いわ、彼のためにって言えるものがあるんだもの……。今のわたしには、彼に対してそんな風に言えるものは何もないもの……」
「いいのよ、繭子さんがわたしに話そうと思っていたことも分かるの、わたしは二歳年上のお姉さんよ、繭子さんも二年経てば、今より少し大人になるってこと……」
「愛子さんが、年賀状に書き添えた短い言葉の背景に、こんなことがあるなんて……。読んだときとは違った驚きだわ……」
「でもね、社内の女性で繭子さんだけよ、わたしのことを黙って見ていてくれたのは……。喫茶室で会っても、お昼を一緒に食べていても、繭子さんは噂のことに一度も触れなかった。他の女性達は色々と陰で面白く作って話していたわ、仕方ないことだけど……」
「わたしは男と女のことを、よく分かってないと思っているから、だから何も言えなかった、それだけなのよ」
「繭子さん、わたしは本当に、彼が転勤しなくても辞めようと思っていたのよ。やっぱり繭子さんには本当のことを話すわ。彼はこどものことをまだ知らないの……。それと、彼はもう旧姓の井上昭一に戻っているのよ」
「本当に?」
「ええ、奥さんから渡された離婚届に判を押したのよ、もう届出も済んで離婚は成立しているの……、ごめん、言わないでおこうと思っていたから……。転勤の内示を受けて直ぐ押したそうよ、わたしに何て言ったと思う?、離婚したから何もないけど、もし良かったら、将来家族が増えてもいい家を赴任先で借りようと思うけど、どうだろう、よかったら会社を辞めて僕の処に来てくれないかって、言ってくれたのよ……」
「驚きだわ、大丈夫なの?、大柳さんは四十六歳よ、何もなくてもいいの?」
「わたしね、入社してからこの三年間、自分のお給料は全て貯金していたの、わたしの生活費は、全て母のお金とカード。母はね、それがわたしに父親がいないことへの罪滅ぼしだと思っているのよ。こどもができてもノー.プロブレムよ。大学の四年間も母がくれるお金は全部貯金していたの。慎ましやかに生活するのなら、彼のお給料があれば、何があっても十分なくらい貯めているのよ、わたしの着るものも十年分くらいはあるわ。それに、お金に換えられそうなものばかりを選んで買って来たの。このコートもそうよ、袖を通していないコートや宝石もたくさんあるから、売ればこのコートでも百万円以上で売れるわ……」
「そう、少し安心したわ。でも、愛子さんが会社からいなくなると寂しいわ」
「繭子さんは、お勤めどうするの?、今年中には結婚するんでしょ?」
「秋頃になると思うわ、姉も春には結婚して出て行くのよ、兄はまだなんだけど……。母の店を引き継ぐひとがいないから、会社を辞めて手伝おうかなって考えているの、結婚してもやれそうだし。祖母の作った和装小物なんかを、母が作った物と一緒に並べて売っている店だけど、今度は母が作る物を、わたしが売ってあげようかなって……。祖母と母が協力してやってきたお店だから……」
「繭子さんも信用できる総務部員だって、みんな言っているのに、優秀な総務が二人もいなくなると近畿支社も大変だわね。今日は連絡くれてありがとう、嬉しかった。これからどうするの?」
「ええ、彼と会う予定なんだけど、今朝早くに彼の小父さんが倒れて救命センターに運ばれているの、彼も病院に行っているから、三時過ぎに会うことにしているのよ。そう云えば、今朝、同じ頃に彼と愛子さんからのメールが入ったのよ。両方とも気がかりなことだったから落ち着かなかったわ。でも、愛子さんと会って話せてよかった。わたしなりに理解できたからホッとしたわ、幸運を祈っているわ。いい年になればいいわね」
「わたしは大丈夫よ、繭子さんこそ良い年にしてね。でも、彼の小父さん心配ね、大したことがなければいいけど……」
愛子と別れた繭子は、地下鉄で雅人と待ち合わせている地下鉄の四条駅に向った。
愛子と大柳の関係を知り、繭子の気懸かりな思いは消えた筈だった。
思いに反して、華奈の父親のことが重大なことのように意識され始めた。
スキャットで雅人に華奈を紹介されたときから、貴幸は身近な存在になる予定の人だった。
繭子は貴幸に元気になって欲しいと願った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~

蝶野ともえ
恋愛
響は昔、幼馴染みである千絃ととある約束をした。 その約束は叶わぬ事なく、長い月日が流れた。 病気のため、選手として生きていく事が出来なくなった響の前に、千絃が現れる。 「おまえが必要なんだ」と言われた響だったが、昔の事を思い出し彼の事を信じられずにいる。 しかし、共に仕事をするうちに千絃が気になり始め………… 彼を知るうちに彼が約束をどうして守らなかったのかを知ることになるのだが……… 漣 響(さざなみ ひびき) 27歳 剣道の選手。居合い、殺陣などが好き。見た目はとても女らしいが剣を持つと武人になる、と有名に。だが、病気を理由に引退。千絃とは幼馴染み 月城 千絃(つきしろ ちづる) 27歳 俺様で我が儘な性格。ゲーム製作会社で動画監督をしている。昔、剣道の全国大会で優勝した経験がある。 水篠 璃都(みずしの りと) 27歳 響きの友人。カメラマン。

ヤマネコさんの呼ぶほうへ〜ポンコツ聖女とヤマネコ獣人、森の中でレストランやってます〜

猫屋ちゃき
恋愛
ヤマネコ獣人のリンクスは、森の中で憧れだった料理屋を開業している。だが、肝心の客には逃げられてばかり。料理を食わせたいのに「く、喰われる」と勘違いされて逃げられてしまうのだ。 あるとき、リンクスは森の中に落っこちていた腹ペコ少女を拾う。状況から考えるに召喚された聖女のようだが、目立つ能力もなく、おまけに女神の加護も中途半端で片言しか喋れない。 気の毒に思ったリンクスは少女マオを拾い、養ってやることにするのだが…… 世話焼きなヤマネコ獣人とポンコツ腹ペコ聖女の、ほのぼのスローライフな物語。 ゆるっと楽しんでいただけるように、ゆるっと書いてまいります。

たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ
ファンタジー
タイトル変更しました 旧タイトル:転生しても困らない!異世界にガイドブック持ち込みでとことん楽しむ  転生!無敵!最強!は、もうお腹いっぱい? 大丈夫こいつはデザートだ。らめーん大盛りの後でもなぜかアイスクリームは食えるだろ!?だからまだ読めるはず。ほら、もうここまで読んだら最後まで読んでも一緒だ。異世界好きはいい奴しかいないから、なっ!!  トラックにひかれない異世界転生。最強を目指すのではなく、ガイドブックのアドバイス通り最強のステータスを引っ提げて向かった異世界。  それでもレベルだけが強さじゃない。時と場所と条件によって強さは変わる。だからこそコレが一番だと思う手段で乗り越える(?)  異世界ではガンガンいこうぜよりも命大事にの主人公である英太は、より良い充実を追い求め今日もしれっとレベルアップだ。 ◆◆◆◆◆  地元の高校を卒業して東京に上京、それから1年ちょっと経った。  大学に行かなかったので、何かしなきゃと思って上京したが、やりたいことは今のところ見つかってない。  バイトは掛け持ち。でなきゃ、やたら高い家賃が払えない。  友達は大学生活を楽しんでいるらしい。  遊びの誘いもちょこちょこきていたが、金が無いのでやんわり断り続けていた。おかげで最近は全然誘われなくなってしまった。   今日もバイトを予定時間よりもオーバーして終える。 「疲れた。仕事量増やすなら金も増やしてくれよ。先にタイムカード押しとくよってなんだよ。はぁ、俺は何のために働いてんだか……」  なんて愚痴をぼそぼそ吐きながら歩く帰り道。    その途中にある本屋。いつもなら前を素通りしていくだけなのだが、今日は目が留まり、足も止まった。   出入り口の一番目立つところに並べられているのは旅のガイドブックのようだ―― ◆◆◆◆◆ こちらの小説内では設定の説明を端折ってます。 気になる方は同じ作者の他の小説から「異世界ガイドブック」を読んでみてください ------------------- 表紙のオリキャラを4690様に担当していただきました。 pixiv https://www.pixiv.net/artworks/91866336

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

竜皇帝陛下の寵愛~役立たずの治癒師は暗黒竜に今日も餌付けされ中!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリリアーナ・アンシーは社交界でも醜い容姿故にアザラシ姫と呼ばれていた。 そんな折、敵対する竜の国との平和条約の為に生贄を差し出すことになった。 その相手は純白の聖女と呼ばれるサンドラだったが国の聖女を差し出すわけにも行かず、リリアーナが身代わりを務めることになった。 辺境伯爵令嬢ならば国の為に働くべきだと泣く泣く苦渋の選択をした婚約者だったが体よくリリアーナを国から追い出し、始末する魂胆が丸見えだった。 王も苦渋の選択だったがリリアーナはある条件を付け了承したのだ。 そして決死の覚悟で敵国に迎えられたはずが。 「君が僕のお嫁さんかい?とりあえず僕の手料理を食べてくれないかな」 暗黒竜と恐れられた竜皇帝陛下は何故か料理を振る舞い始めた。 「なるほどコロコロ太らせて食べるのか」 頓珍漢な勘違いをしたリリアーナは殺されるまで美味しい物を食べようと誓ったのだが、何故か食べられる気配はなかった。 その頃祖国では、聖女が結界を敷くことができなくなり危機的状況になっていた。 世界樹も聖女を拒絶し、サンドラは聖女の地位を剥奪されそうになっていたのだった…

単身赴任しているお父さんの家に押し掛けてみた!

小春かぜね
恋愛
主人公の父は会社の諸事情で、短期間で有るはずの単身赴任生活を現在もしている。 休暇を取り僅かだが、本来の住まいに戻った時、単身赴任の父の元に『夏休み、遊びに行く!』と急に言い出す娘。 家族は何故かそれを止めずにその日がやって来てしまう。 短いけど、父と娘と過ごす2人の生活が始まる…… 恋愛小説ですが激しい要素はあまり無く、ほのぼの、まったり系が強いです……

【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが

Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした─── 伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。 しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、 さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。 どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。 そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、 シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。 身勝手に消えた姉の代わりとして、 セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。 そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。 二人の思惑は───……

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

処理中です...