爽やかな出逢いの連鎖

稲葉真乎人

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心を寄せて

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和やかな朝食が終り、留美は孝司と一緒に、部屋で荷物の整理をする。
他の四人は、応接間でコーヒーを飲みながら話していた。
榎木家の駐車場に乗用車が入って停まる。玄関で百合子の声がした。
「榎木の小父さん、おはようございます」
紳策が応接間から出て行く。
「いらっしゃい、昨夜は、ご苦労さんだったね。誰かと一緒ですか?」
「お邪魔していいですか小父さん・・・、驚かせたいから、紹介は後でいいですね?」
「ああ、いいよ、どうぞ。百合子さん、何が起きるのかな?」
百合子の後ろから青年が入って来て言った。
「おはようございます、朝から、突然お邪魔して申し訳ありません」
紳策は、昨夜聞いた百合子の婚約者だと分かった。
「いらっしゃい、百合子さんが言ってますから、ご挨拶は後で伺いましょう・・・。いいですよ、どうぞおあがりなさい・・・」
紳策の後ろを、百合子と中森紀夫が付いて行く。
紳策が応接間の入口に立って言った。
「百合子さんと、お連れのお客さんですよ・・・」
応接間の三人は、ソファーから立ち上がり、客を迎える態勢になる。
最初に声を出したのは良一だった。
「よお、紀夫くん・・・」
「樫村さん、ご無沙汰しています、昨夜、電話で聞いて驚きましたよ」
「よく言うよ、今まで、よく黙っていたね、分からなかったなあ・・・」
「樫原さんだって分かりませんでしたよ。百合子さんから聞いて、今でも、ちょっとどうなってるのか、よく分かりませんよ」
百合子が婚約間近の中森紀夫を紹介する。
沙紀が、留美たちに伝えてくると言って席を外す。
沙紀は、孝司と留美には、百合子が来たとだけ伝えて応接間に連れて来る。
応接に入るなり留美が言った。
「紀(のり)兄さん!」
「おう、留美、知らなかったよ?」
「わたしだって、知らなかったわ・・・」
紳策が言った。
「まあ、座って。ゆっくり話を聞かせて頂こうかな・・・、百合子さん、お母さんは?」
「近所の人と、お寺さんに・・・」
「そうか、居れば、呼んであげればよかったと思ってね」
「昨夜は、ご馳走になりました、母も宜しく伝えておいてくれと言っていました」
良一と紀夫は、お互いに、やったね、といった感じで肩を竦める。
良一が孝司を紹介する。
「紀夫くん、こっちが榎木孝司くん、高校時代からの親友なんだ」
孝司が神妙に礼をする。
「始めまして、榎木孝司です、百合子さんから聞かれたと思います・・・。中森さんのお宅には近々ご挨拶に伺います。何と言うか、留美さんとお会いしてから急でしたので、すいません」
紀夫が言った。
「謝ることはないですよ。でも、本当にそうみたいですね・・・、妹はあまり家で話しませんから・・・。パアッとしていますが結構表に出さないんですよ。こちらこそ宜しくお願いします。母は信じられないと言っていました、こんな娘でいいのだろうかと・・・」
「失礼な兄さんね、喜んでよ・・・」
「お袋が言ったんだよ、兄さんは喜んでいるよ・・・。榎木さんを心配しているからだよ・・・」
「もう、百合子さんに悪口を話してもいいの?」
全員が紹介をして一段落する。
留美と沙紀が席を立ち、キッチンにお茶の準備に出て行く。
紀夫は、ことの次第を良一から説明して貰っていた。
紀夫は、この場にいる全員が、何等かの姻戚関係になることを理解する。
誰からともなく、訳が分からなくなると言って笑いだしてしまった。
紳策だけは心から嬉しそうに話を聞いていたが、我慢できないと云うように口を開く。
「分からなくても何でもいい・・・こんな素敵な若者達が縁続きになるなんて夢みたいだね・・・。久美子さんとのことが、こんな風になるとはね・・・」
久美子が言った。
「そうですね、年寄りの再婚ですから、馬鹿にされるかと思っていましたのに・・・」
孝司が言った。
「馬鹿になんてする理由がないですし、みんな祝福していますよ、見習いたいと思っているんですよ」
「おいおい、再婚組に夢を見ているのか?」
誰かれなく顔を見合わせて笑った。
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