16 / 55
アフタヌーンティー
しおりを挟む
ビジネススクールで履修すべき単位を取得し、研究論文も試験もクリアした。
経営管理修士の学位を得ることが出来た颯太と理奈は、スクール終了と同時に日暮里の『SHINDO PHOTO STUDIO』のビル三階に移り住む準備に掛かっていた。
四月の半ばを過ぎた土曜日、颯太はパティシエでもある祖父の輝昭から聞いた横浜市内のフランス菓子店に出向き、ケーキを購入すると妙蓮寺駅に向った。
理奈とは午後二時妙蓮寺駅正面口で待ち合わせていた。
理奈が住んでいる叔母夫婦の進藤家は、西に進んで主要地方道の広い道路を横切り、少し北に行った所にある。
春の陽光は暖かく、風も穏やかな午後だった。
駅の出口から少し離れた場所で理奈は待っていた。
颯太は改札越しに理奈の姿を見つけていた。
ブルーのアンクルパンツに白いズック、ブルーボーダーのティーシャツにグリーンのロングカーディガン姿の理奈も、颯太の姿を目に留めると笑顔で出口に近づいてくる。
左の肩口にベージュのシュシュで束ねた、少し長くなった髪の、カールした先端がリズミカルに揺れる。
颯太の傍に来ると、直ぐに向きを変えて並んで歩き始める。
「ようこそ……。ねえ、どっちから来たの?」
「うん、横浜からだよ……」
「ごめんなさいね……お休みなのに」
「挨拶は欠かすわけには行かないから……これを……」
颯太は紙袋を持ち上げた。
「あら、お土産を準備してくれたのね……。訊いていい、なに?」
「言葉だけを聞いて店に行ったから、途惑ったよ……祖父に訊いてから行けばよかった」
「だから、なに?……それ、洋菓子のお店よね」
「きみが何時か話していただろ、叔母さん夫婦がティータイムのとき、欠かせない好物だって。ケーク.オ.シトロンだったよね?」
「そうよ、ウイークエンド.シトロンよね……」
「それだよ、店のひとはそう言ったんだけど、同じものかどうか知らないから……。まあいいかって感じて買ったんだけどね、良かったのかな……」
「同じものよ、叔母さんたちはケーク.オ.シトロンって言ってるけど……。シトロンはフランス語のレモンのことだから、ショーケースにレモンケーキって書いてなかったかしら?」
「そう云えば……、そう、書いてあったような気がする……」
「きっと喜ぶわ。気を遣わせたわね……」
「だって、手ぶらじゃ……。一応、僕も店子のひとりになるんだから……」
「店子ね……、昔の長屋住まいみたい……可笑しい……」
理奈は心なしかはしゃいでいるように見えた。颯太も楽しそうだった。
白髪の進藤昭嗣と銀髪のまゆ子夫婦は、共にひっつめ髪を組紐で束ねていた。よく似た風貌からは、ゆとりある雰囲気が感じられた。
ふたり共、目鼻立ちがハッキリとした彫りの深い美形なのが印象的な夫婦だった。
まゆ子は、桜井家の家系なのか、長身で姿勢も良く、理奈とよく似ている。昭嗣とはそれほどの身長差は無く、二人ともスリムな体形である。
颯太は、まるで親戚の息子を迎えるかのように、自然で肩ぐるしさを感じさせない歓迎を受ける。
広い日本庭園の見える応接間に通されると直ぐに、「きみ、ティータイムを早めようかね、頼むよ……」と、昭嗣がまゆ子に声を掛けた。
昭嗣の正面に理奈と並んで腰かけるように言われた颯太が、自己紹介をしようとすると昭嗣が言った。
「皆部颯太くんだろ……まあ、掛けなさい。理奈から聞いておるから、かしこまることはない。わたし等としては、まゆ子の姉から理奈を預かっている立場上、理奈がどんな男性と付き合っておるのか、顔さえ見ておけば、それで良いんだ。幼子じゃないんだからね……」
「わかりました。ありがとうございます。ご迷惑はかけないようにしたいと思っています。宜しくお願いします」
「いいんだよ。若いんだ。人生は長くも短くもある、好きになる女性も男性も生涯ひとりと云うことも無いだろう。頑なにひとりのひとに拘る者もいれば、多くのめぐり逢いこそが大切だと思う者も居る。男女の間に生じる問題が二人の障害になると思えば、やり直せば良いんだから。理由は相手の為でも良い、自分の為でも良い、両方が成り立つと信じられた時に将来を誓えばいいと思うがね……」
「あなた、初対面の皆部さんに、なにを講義してらっしゃるのかしら……。いただきましたよ。ケーク.オ.シトロン。皆部さん、気を遣わせましたね。理奈の入れ知恵かしら……」
「叔母さん、違いますよ。前に一度だけこの家のティータイムのことを話しただけよ……」
「あら、それじゃあ皆部さんが細やかな気配りのできる方だってことね……。貴女も目が高いわね……」
「そんな……。颯太さん、間違ってなかったでしょ。こう云う夫婦なの、小父さんと叔母さんは……」
「あら、どんな紹介をしてくれてたの?」
「わたしも聞きたいな、理奈から見た私たち夫婦はどのように映っているのか、興味はあるな……」
「いいですよ、またの機会に話しますから、今日はいいでしょ……」
まゆ子が四つの高級そうな綺麗なカップに紅茶を注ぎ終える。
「さあ、皆部さんからの頂き物だけど、みんなで頂きましょ……。あなたは食べ過ぎないで下さいよ……」
「そうよ小父さん。きりが無いんだから……」
「そう云う台詞も、理奈から聞かれなくなると思うと、少し寂しくなるな……」
「あの、今日はご家族の方は?」
「ああ、長男の嗣治が同居しているんだが、今は楽しいばかりの時でね、婚約中だ。朝から一緒に何処かに行ったようだ……。六月には結婚式を挙げるらしいから……。わたし等は式などどうでも良いんだが、向こうさんのこともあるから致し方ない……。理奈と入れ替わりに遼子さんがこの家の住人になるんだが、どうなることかな……」
暫く話した後で、昭嗣が颯太に言った。
「皆部くん、ご存じと思うが、理奈は先へ先へというタイプの女性だ。ビジネススクールに通ったのもそうだが、仕事上の夢を追って生きている。恐らく何時の日にか夢を叶えるとわたしは思っているんだが、そんな理奈が皆部くんのような男性に興味を持ったことが不思議でならんのだよ。まあ普通に女性として生きていることが分かってホッとしているんだがね。
ただ、きみにも感心しているんだよ。きみは穏やかで優しい雰囲気を持っている、聞けば技術屋さんらしいが、ビジネスの面でもユニークだと思う。理奈から研究論文の内容を聴いたが、わたしは気に入っているんだ。写真家のわたしとしては何処にフォーカスをするかは重要だ、このフォーカスは被写体にじゃないんだ、自分の中にある感性だったり思想だったり、関心毎だったり、それらの何にフォーカスするかが決まれば、被写体の何処にフォーカスすべきかが分かるような気がしているんだ。きみの論文からその様なことを考えさせられたんだ。きみの様な感性を持つひとが理奈の何処を気に入ってくれたのか……。興味のある処なんだな……」
「ひとに与える外見からの印象では、理奈さんとわたしとは似合いではではないと思います。わたしも最初の印象はそうでした、ですが、ビジネススクールのモジュール授業の場で、物の捉え方とか、頑固そうなのに柔軟に他からの影響に対処できる処は、わたしと似ていると思っています。普段の凛とした気配を漂わせて、少し近づき難い理奈さんと、理奈さんの心の内と云うか、人間としての本質は異なることを知ることが出来たので、お付き合いをさせて頂きました」
「正解だな……。ただ、きみも理奈も周りが放っておかないだろうな……。その辺りのことが、これからのふたりの課題かな……。でも最初に話したように、お互いの才能や能力を活かすために、互いの存在が障害になるようなら、深刻に考えることは無いんだから、冷静に状況を判断することだね。きみ達にはできる。それは覚えておいてくれるかな……」
「ありがとうございます。心に留めておきます……」まゆ子が口を添える。
「皆部さん、フランスではね、不倫と婚外子が多いの、自由恋愛の国なのね。法律的に認められた結婚と個人的な契約の同棲、と云っても結果的に結婚に至る人の方が多いのよ。1999年にはパックス(PACS)と云ってね、まあ、法律的に認められた同棲の契約みたいなものね、条件はあるんだけど、わたしが気に入っているのは、別れたいと思って契約破棄をするのには、一方からの通告で良いってことなの……。事実婚でも良いけど、社会的な恩恵を受けるには法律による婚姻がベストね。云えるのは恋愛が自由にできる環境があるってこと……。パックスはまだそんなに利用されていないみたいだけど、世界にはそんな国もあるってことね。自由に恋をして、このひとと確信出来たら結婚すればいいの。信じられなければ別の道に進めばいいんですからね」
「叔母さん、わたし達に何を期待しているの?。分からないではないけど……」
「理奈さん、僕は叔母さんの話は凄く理解できるよ……。ぼくも理奈さんも、目標に向かって進むタイプたよね。夫々がやりたいと思う事に、自分が障害になりそうだと思えば、僕は相手を尊重すると思うよ……」
「わたしもそうだけど……。何か、ちょっと……。有難いとは思うけど……」
「ごめんなさいね、気に障ったようなら。老婆心ということで許してちょうだい……」
「そんな、大袈裟なことじゃないけど……」
「理奈。まゆ子はプレッシャーを取り除いてあげようと思って話してるんだよ。皆部くん、わたしも同じなんだよ……」
「はい、わかります。感謝します。僕自身は自分の考えが肯定されたような気がして、気が楽になりました」
「うん。それで良いんじゃないかな……。理奈、良い人を見つけたな……」
昭嗣はケーク.オ.シトロンの三つ目に手を伸ばそうとしていた。まゆ子が、その手を軽くポンポンと叩いてたしなめた……。
颯太は窓の外に視線をやる。庭園の端で、淡いピンクの花を満開にした沈丁花の香りが、ガラス窓を通して聞こえてくるような気がした。
庭に植えてある沈丁花を見ていて、祖母から聞いたことを思い出していた。
「颯太、沈丁花はね、一年中緑の葉をつけている常緑樹だから、永遠とか不死なんて花言葉もあるんだよ」
颯太は「永遠」と云う言葉に、何かが頭をよぎり、何とも言えない落ち着かない気持になったのを記憶した……。
経営管理修士の学位を得ることが出来た颯太と理奈は、スクール終了と同時に日暮里の『SHINDO PHOTO STUDIO』のビル三階に移り住む準備に掛かっていた。
四月の半ばを過ぎた土曜日、颯太はパティシエでもある祖父の輝昭から聞いた横浜市内のフランス菓子店に出向き、ケーキを購入すると妙蓮寺駅に向った。
理奈とは午後二時妙蓮寺駅正面口で待ち合わせていた。
理奈が住んでいる叔母夫婦の進藤家は、西に進んで主要地方道の広い道路を横切り、少し北に行った所にある。
春の陽光は暖かく、風も穏やかな午後だった。
駅の出口から少し離れた場所で理奈は待っていた。
颯太は改札越しに理奈の姿を見つけていた。
ブルーのアンクルパンツに白いズック、ブルーボーダーのティーシャツにグリーンのロングカーディガン姿の理奈も、颯太の姿を目に留めると笑顔で出口に近づいてくる。
左の肩口にベージュのシュシュで束ねた、少し長くなった髪の、カールした先端がリズミカルに揺れる。
颯太の傍に来ると、直ぐに向きを変えて並んで歩き始める。
「ようこそ……。ねえ、どっちから来たの?」
「うん、横浜からだよ……」
「ごめんなさいね……お休みなのに」
「挨拶は欠かすわけには行かないから……これを……」
颯太は紙袋を持ち上げた。
「あら、お土産を準備してくれたのね……。訊いていい、なに?」
「言葉だけを聞いて店に行ったから、途惑ったよ……祖父に訊いてから行けばよかった」
「だから、なに?……それ、洋菓子のお店よね」
「きみが何時か話していただろ、叔母さん夫婦がティータイムのとき、欠かせない好物だって。ケーク.オ.シトロンだったよね?」
「そうよ、ウイークエンド.シトロンよね……」
「それだよ、店のひとはそう言ったんだけど、同じものかどうか知らないから……。まあいいかって感じて買ったんだけどね、良かったのかな……」
「同じものよ、叔母さんたちはケーク.オ.シトロンって言ってるけど……。シトロンはフランス語のレモンのことだから、ショーケースにレモンケーキって書いてなかったかしら?」
「そう云えば……、そう、書いてあったような気がする……」
「きっと喜ぶわ。気を遣わせたわね……」
「だって、手ぶらじゃ……。一応、僕も店子のひとりになるんだから……」
「店子ね……、昔の長屋住まいみたい……可笑しい……」
理奈は心なしかはしゃいでいるように見えた。颯太も楽しそうだった。
白髪の進藤昭嗣と銀髪のまゆ子夫婦は、共にひっつめ髪を組紐で束ねていた。よく似た風貌からは、ゆとりある雰囲気が感じられた。
ふたり共、目鼻立ちがハッキリとした彫りの深い美形なのが印象的な夫婦だった。
まゆ子は、桜井家の家系なのか、長身で姿勢も良く、理奈とよく似ている。昭嗣とはそれほどの身長差は無く、二人ともスリムな体形である。
颯太は、まるで親戚の息子を迎えるかのように、自然で肩ぐるしさを感じさせない歓迎を受ける。
広い日本庭園の見える応接間に通されると直ぐに、「きみ、ティータイムを早めようかね、頼むよ……」と、昭嗣がまゆ子に声を掛けた。
昭嗣の正面に理奈と並んで腰かけるように言われた颯太が、自己紹介をしようとすると昭嗣が言った。
「皆部颯太くんだろ……まあ、掛けなさい。理奈から聞いておるから、かしこまることはない。わたし等としては、まゆ子の姉から理奈を預かっている立場上、理奈がどんな男性と付き合っておるのか、顔さえ見ておけば、それで良いんだ。幼子じゃないんだからね……」
「わかりました。ありがとうございます。ご迷惑はかけないようにしたいと思っています。宜しくお願いします」
「いいんだよ。若いんだ。人生は長くも短くもある、好きになる女性も男性も生涯ひとりと云うことも無いだろう。頑なにひとりのひとに拘る者もいれば、多くのめぐり逢いこそが大切だと思う者も居る。男女の間に生じる問題が二人の障害になると思えば、やり直せば良いんだから。理由は相手の為でも良い、自分の為でも良い、両方が成り立つと信じられた時に将来を誓えばいいと思うがね……」
「あなた、初対面の皆部さんに、なにを講義してらっしゃるのかしら……。いただきましたよ。ケーク.オ.シトロン。皆部さん、気を遣わせましたね。理奈の入れ知恵かしら……」
「叔母さん、違いますよ。前に一度だけこの家のティータイムのことを話しただけよ……」
「あら、それじゃあ皆部さんが細やかな気配りのできる方だってことね……。貴女も目が高いわね……」
「そんな……。颯太さん、間違ってなかったでしょ。こう云う夫婦なの、小父さんと叔母さんは……」
「あら、どんな紹介をしてくれてたの?」
「わたしも聞きたいな、理奈から見た私たち夫婦はどのように映っているのか、興味はあるな……」
「いいですよ、またの機会に話しますから、今日はいいでしょ……」
まゆ子が四つの高級そうな綺麗なカップに紅茶を注ぎ終える。
「さあ、皆部さんからの頂き物だけど、みんなで頂きましょ……。あなたは食べ過ぎないで下さいよ……」
「そうよ小父さん。きりが無いんだから……」
「そう云う台詞も、理奈から聞かれなくなると思うと、少し寂しくなるな……」
「あの、今日はご家族の方は?」
「ああ、長男の嗣治が同居しているんだが、今は楽しいばかりの時でね、婚約中だ。朝から一緒に何処かに行ったようだ……。六月には結婚式を挙げるらしいから……。わたし等は式などどうでも良いんだが、向こうさんのこともあるから致し方ない……。理奈と入れ替わりに遼子さんがこの家の住人になるんだが、どうなることかな……」
暫く話した後で、昭嗣が颯太に言った。
「皆部くん、ご存じと思うが、理奈は先へ先へというタイプの女性だ。ビジネススクールに通ったのもそうだが、仕事上の夢を追って生きている。恐らく何時の日にか夢を叶えるとわたしは思っているんだが、そんな理奈が皆部くんのような男性に興味を持ったことが不思議でならんのだよ。まあ普通に女性として生きていることが分かってホッとしているんだがね。
ただ、きみにも感心しているんだよ。きみは穏やかで優しい雰囲気を持っている、聞けば技術屋さんらしいが、ビジネスの面でもユニークだと思う。理奈から研究論文の内容を聴いたが、わたしは気に入っているんだ。写真家のわたしとしては何処にフォーカスをするかは重要だ、このフォーカスは被写体にじゃないんだ、自分の中にある感性だったり思想だったり、関心毎だったり、それらの何にフォーカスするかが決まれば、被写体の何処にフォーカスすべきかが分かるような気がしているんだ。きみの論文からその様なことを考えさせられたんだ。きみの様な感性を持つひとが理奈の何処を気に入ってくれたのか……。興味のある処なんだな……」
「ひとに与える外見からの印象では、理奈さんとわたしとは似合いではではないと思います。わたしも最初の印象はそうでした、ですが、ビジネススクールのモジュール授業の場で、物の捉え方とか、頑固そうなのに柔軟に他からの影響に対処できる処は、わたしと似ていると思っています。普段の凛とした気配を漂わせて、少し近づき難い理奈さんと、理奈さんの心の内と云うか、人間としての本質は異なることを知ることが出来たので、お付き合いをさせて頂きました」
「正解だな……。ただ、きみも理奈も周りが放っておかないだろうな……。その辺りのことが、これからのふたりの課題かな……。でも最初に話したように、お互いの才能や能力を活かすために、互いの存在が障害になるようなら、深刻に考えることは無いんだから、冷静に状況を判断することだね。きみ達にはできる。それは覚えておいてくれるかな……」
「ありがとうございます。心に留めておきます……」まゆ子が口を添える。
「皆部さん、フランスではね、不倫と婚外子が多いの、自由恋愛の国なのね。法律的に認められた結婚と個人的な契約の同棲、と云っても結果的に結婚に至る人の方が多いのよ。1999年にはパックス(PACS)と云ってね、まあ、法律的に認められた同棲の契約みたいなものね、条件はあるんだけど、わたしが気に入っているのは、別れたいと思って契約破棄をするのには、一方からの通告で良いってことなの……。事実婚でも良いけど、社会的な恩恵を受けるには法律による婚姻がベストね。云えるのは恋愛が自由にできる環境があるってこと……。パックスはまだそんなに利用されていないみたいだけど、世界にはそんな国もあるってことね。自由に恋をして、このひとと確信出来たら結婚すればいいの。信じられなければ別の道に進めばいいんですからね」
「叔母さん、わたし達に何を期待しているの?。分からないではないけど……」
「理奈さん、僕は叔母さんの話は凄く理解できるよ……。ぼくも理奈さんも、目標に向かって進むタイプたよね。夫々がやりたいと思う事に、自分が障害になりそうだと思えば、僕は相手を尊重すると思うよ……」
「わたしもそうだけど……。何か、ちょっと……。有難いとは思うけど……」
「ごめんなさいね、気に障ったようなら。老婆心ということで許してちょうだい……」
「そんな、大袈裟なことじゃないけど……」
「理奈。まゆ子はプレッシャーを取り除いてあげようと思って話してるんだよ。皆部くん、わたしも同じなんだよ……」
「はい、わかります。感謝します。僕自身は自分の考えが肯定されたような気がして、気が楽になりました」
「うん。それで良いんじゃないかな……。理奈、良い人を見つけたな……」
昭嗣はケーク.オ.シトロンの三つ目に手を伸ばそうとしていた。まゆ子が、その手を軽くポンポンと叩いてたしなめた……。
颯太は窓の外に視線をやる。庭園の端で、淡いピンクの花を満開にした沈丁花の香りが、ガラス窓を通して聞こえてくるような気がした。
庭に植えてある沈丁花を見ていて、祖母から聞いたことを思い出していた。
「颯太、沈丁花はね、一年中緑の葉をつけている常緑樹だから、永遠とか不死なんて花言葉もあるんだよ」
颯太は「永遠」と云う言葉に、何かが頭をよぎり、何とも言えない落ち着かない気持になったのを記憶した……。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~
茶山大地
ファンタジー
「領主となって国王を弑逆するくらいの覚悟がない旦那様はヘタレですわね」
不慮の死を遂げた九頭竜斗真(くずりゅうとうま)は、<転移>先で出会った孤児院の子供達の窮状を直視する。 ヘタレではあるが、養護施設出身でもある彼は似たような境遇の子供達を見捨てることができず、手を貸すことにするのだった。 案内人から貰った資金を元手に、チートスキルも無く、現代知識もすでに伝わってるこの世界で彼はどうやって子供達を救っていくのか......。 正統派天然美少女アホっ娘エリナに成長著しい委員長キャラのクレア、食いしん坊ミリィ、更には女騎士や伯爵令嬢を巻き込んでの領地経営まで?明るく騒がしい孤児院で繰り広げられるほのぼのスローライフヘタレコメディー、ここに始まります!
■作中に主人公に対して、「ロリ」、「ロリコン」、「ロリ婚」と発言するキャラが登場いたしますが、主人公は紳士ですので、ノータッチでございます。多分。ご了承ください。
本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
よろしければそちらでも応援いただけますと幸いです。
また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
是非挿絵だけでもご覧くださいませ。
「キヅイセ」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
雨野 美哉(あめの みかな)
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
意地を張っていたら6年もたってしまいました
Hkei
恋愛
「セドリック様が悪いのですわ!」
「そうか?」
婚約者である私の誕生日パーティーで他の令嬢ばかり褒めて、そんなに私のことが嫌いですか!
「もう…セドリック様なんて大嫌いです!!」
その後意地を張っていたら6年もたってしまっていた二人の話。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる