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恋人探し
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芦沢丈晴は京都営業所に活動拠点を置くと、スタンドバー.ブーメランに顔を見せる機会が多くなっていた。
ブーメランのマスター竹中光雄は、何時も丈晴の来店を快く迎えていた。
「芦沢くん、最近は以前より顔を見せるのが多くなったね?」
「ええ、大阪に通っていた頃とは違って、かなり時間に余裕が出来ました。通勤電車に乗っていた時間は、今では間違いなく自由な時間ですから」
「それはそうだね。それでどうなんだい?」
「新しい仕事は順調です。僕には向いていると思っているんです」
「それは分かっているよ。女性の方だよ……」
「そうでしたね。新しい仕事のスタートで忙しくしていましたから、マスターには話していませんでしたね」
「ちょっと心配だったからね、気になっていたんだ。主任と云うのは会社組織の中で管理職として生き残れるかどうか、最初にチェックされる大切なポジションだ。間違いを起こして欲しく無いからね。主任が全員、課長に昇進する訳じゃないだろ?」
「ええ、それはまあそうですね。例の手紙を見て貰った女性の事ですよね?」
「そうだよ。それで芦沢くんとしては、会ってみて印象はどうだったの?」
「僕には出来過ぎた女性のように思えるんです」
「うん、出来過ぎた女性ね……。出来過ぎていて問題があるのかな?。優秀で申し分の無い女性なら、言うことは無いんじゃないの?」
「今までに、社内で優秀だと言われていた何人かの先輩達と噂があった女性らしくて……。男性の方が尻込みをして駄目になったみたいなんです」
「先輩達は先輩達でいいんじゃないのかい?。その先輩達には彼女が合わなくても、君だから合うということもあるだろ?。勝手に尻込みをしていないかい?」
「そう言われると、確かに不満な点は無いんですが……。やっぱり違うと思います。
恋人とか結婚相手としては、あたりの優しい感じの女性が僕には合うような気がしているんですけど……。マスターは、どう思われますか?」
「僕に訊くのかい?。確かにそう言う女性の方が、君の傍に立っている姿を想像すると、しっくり行くかも知れないな」
「そうですか、安心しました。何となく彼女をふっきれないものが心の隅にあって、気になっていたんです」
「そうなの?。それで、他に恋人候補は居るのかな?」
「積極的にアプローチをしている訳ではないんですけど、何人か興味を持っている女性は……」
「ほう、複数と言うことはまだまだと云う事だな……。ところで大きな声では言えないんだけどね、碧ちゃんは君に興味があるみたいだよ……」
丈晴の表情が変ったのを見たマスターが、続けて訊く。
「おや、どうしたの?」
「マスター、それって本当ですか?」
マスターが、奥のテーブルの近くで客と話している篠宮碧の方に視線をやる。
「訊いてみるかい?」
「いえ、呼ばないでいいですよ」
「そうかい、まあ、頭の隅に入れておいても良いんじゃないかな?」
「勿論です」
「おや、満更じゃないみたいだね?」
「そんなに言わないで下さい。碧さんは僕の好きなタイプなんですから」
「ほお、それは初耳だね。僕にとっては嬉しい情報だな」
「マスターは碧さんを推薦されるんですか?」
「君が嫌じゃなければね。友人の娘さんだから、こんな店で変な虫が付いたら申し訳ないことになる。良い相手が居れば、と頼まれてはいるんだ」
「それなら、此処には、お医者さんや、公務員でも優秀なひと達が来られていますから」
「いや、僕と同じで碧ちゃんの父親の篠宮くんも、大病院の勤務医や高給取りのお役人は好みじゃなくてね。彼は、それが嫌で町医者の道を選んだんだ。大学病院では強い引き止めがあったらしいけどね」
「そうなんですか……。でも、正直嬉しいです」
「そうかい、そりゃ良かった。まあ後は任せるよ」
「ほんとに、いいんですか?」
「碧ちゃんの恋人が芦沢くんなら、僕は何も反対はしないよ。でも、他にも候補者が居るんだろ?。よーく考えてみればいいんじゃないかな。戻って来たよ……」
襟元にフリルのついた、ゆったりとした薄いラベンターカラーのブラウス。
濃い赤ワインのようなベルベットのロング.タイトスカート姿の篠宮碧が、銀のトレーを手にしてカウンター前に戻って来た。
「マスターも芦沢さんも、何を話してはったんですか?」
「いや、芦沢くんが最近よく来てくれるだろ、お礼をね……」
「そう言えばそうですね。大阪の支店に行かんでも、よおならはったからですか?」
「まあ、そうだね。通勤電車の時間分は余裕が出来たから…。それと、新しい仕事だから、色々とマスターのアドバイスも訊きたくてね」
「わたしもお店のひとりとして、お礼を言わんとあきませんね。芦沢さん、ブーメランをご贔屓にして頂いて、おおきにありがとうございます」
丈晴には急に碧が眩しく見えた。
京都営業所に出勤するようになった芦沢丈晴に、営業所員の町田俊司が、よく話しかけてくる。
町田は入社四年目を迎え、営業で独り立ちしたばかりだった。
営業所の上司より、営業所に駐在する他部門の丈晴の方が相談し易いらしい。
退社後に機会があると、丈晴に飲みに行こうと、声を掛けていた。
週末の金曜日。
普段より早く外勤から営業所に戻っていた丈晴は、週報を兼ねる報告書をパソコンで作成していた。
町田が自販機の紙コップに淹れたレモンティーを持って、丈晴のデスクに近づいて来た。
「芦沢さん、どうぞ……」
「おーっ、ありがとう。どうしたんだ、何かありそうだな、頼みごとかい?」
「いえ、別にそう言う訳では……。今日は予定があるんですか?」
「仕事終わりに?」
「はい」
「いや、別に予定はないよ」
「行きませんか?。美味いピザとワインの店に案内しますから」
「ああ、いいけど。営業所のメンバーと行かなくてもいいのか?」
「みんな、予定があるらしくて、所長も主任も……」
「そう。定時でいいかな?」
「はい。わたしも日報を出せば終わりですから」
「いいよ。じゃあ六時に一階の休憩室の前でいいかい?」
丈晴は営業所に居候をしている立場もあり、営業所のスタッフには気を遣っていた。
町田が、直接上司では無い部外者の芦沢丈晴に、相談をし易いのは理解できる。
丈晴は少しでも役に立てばと、営業所長の部下管理に影響が出ないように気配りをしながら、他の所員の相談にも快く耳を傾けてやっていた。
石窯で焼いたピザは、今までに食べたことのない良い香りがした。
空き腹にビールでピザは、少しきついと思った丈晴はコーラを選んだ。
竹田は白ワインをボトルで注文すると、水を飲む様な勢いでグラスを空けては注ぐ。
「なあ、ピザにはビールじゃないのか?」
「イタリアのひと達はそれが定番だそうですが、日本では結構ワインを勧める店も多いんだそうですよ」
「そうなのか?……。竹田くん、これは確かに美味いね。こんな店をよく見つけたな?」
「堀江さんに連れて来て貰ったんですよ」
京都営業所で営業支援担当をしている堀江悠子は、京都生まれの京都育ちで、町田より二歳年上の先輩になる。
「堀江さんと二人で来たの?」
「違いますよ。芦沢さんは知らないんですか?」
「何を?」
「そうですか……。今日は、ちょっと相談したいことがあるんです」
「仕事のことじゃなくて?」
「はい」
「それで?」
「関西支店の守山主任は、芦沢さんと同い年ですよね?」
「商品管理課の?、そうだけど……」
「営業所の堀江さんと守山主任は、間もなく婚約されるんですよ」
「へぇ、そうなの。守山くんは同じ歳だけど、彼は途中入社だから同期じゃないんだ。だから、あまり良くは知らないんだ」
「そうなんですか。この前、ふたりのデートに同行したんですよ」
「どう云うこと?、それって、ちょっと野暮じゃないか?」
「違うんですよ。八島さんは芦川さんに何も話して無いんだな……」
「八島さんて?……。僕のグループの八島美那子さん?。彼女が僕に何を?」
「八島さんは、守山主任の高校の後輩なんですよ。この前、守山さんが京都にデートに来るのを聞いた八島さんが、守山さんの自家用車に乗せて貰って来たんです。
そのときに、この店に連れて来て貰ったんです」
「それは聞いてないな。待ってくれよ、どうして彼等のデートに八島さんや君が一緒なんだ?」
「ですから、そのことで芦沢さんに相談をしようと思って、今日、声を掛けさせて貰ったんです。八島さんは芦沢さんのグループのメンバーですから」
「そうだけど……。八島さんのことをかい?。まあ、どっちにしてもプライベートなことなら、気にすることは無いんじゃないか?」
「あのー、彼女はどんなひとなんですか?」
「はあっ⁉、ひょっとして付き合っているの?」
「いえ、まだ本気じゃないんですけど」
「そうか、それでなんだな。僕の留守に、彼女からの伝言メモを町田くんが書いてくれていることが多いのは……。電話で話しているんだ?」
「まあ……。営業所では僕が電話を取る事が多いので」
「そうだね。メールでもいいのにと思うような伝言があるから、変だとは思っていたんだ……」
「彼女、よく芦沢さんの話しをするんですよ。それで、芦沢さんが付き合っておられるのかと思って……」
「町田くん、それは無いよ。グループに女性は彼女しか居ないからな、メンバーはみんなよく彼女と話すし、大切にしているんだ。僕も支店に行くと、終業後に一緒に食事に行ったりもするからね、それで話題に出るんじゃないのかな」
「じゃぁ、お付き合いはされてないんですね?」
「ああ、してないよ」
「そうですか……」
「どうしたんだよ?。えらく慎重なんだなぁ……」
「まあ……、僕は高校大学と、ずっと男ばかりの中で生活して来たので慣れないんです」
「学生時代は、何をやっていたの?」
「高校時代は探検同好会で、大学ではケービング同好会でした」
「ケービング?……、洞窟探検の?」
「よく知っておられますね。そうなんです」
「きみが八島さんと面と向かって話したのは、この店に来たとき?」
「そうです、彼女は総務だったでしょ。支店で何度か顔は見ていましたけど……、ただの女子社員としてしか見ていませんでしたから」
「それで、印象はどうだったの?」
「印象ですか?」
「そうだよ、初対面のときの印象だよ。お互いにどう思ったの?」
「芦沢さん、何か興味があるんですか?」
「う、うん。僕の恋愛哲学とでも云うか……。初対面の一瞬に、それ以降の全てが懸かっていると思っているから……」
「そうなんですか?。何て答えたらいいのかなぁ……」
「まあいいよ。又の機会で……」
丈晴は八島美那子と新幹線の中で話したことを思い出していた。
ブーメランのマスター竹中光雄は、何時も丈晴の来店を快く迎えていた。
「芦沢くん、最近は以前より顔を見せるのが多くなったね?」
「ええ、大阪に通っていた頃とは違って、かなり時間に余裕が出来ました。通勤電車に乗っていた時間は、今では間違いなく自由な時間ですから」
「それはそうだね。それでどうなんだい?」
「新しい仕事は順調です。僕には向いていると思っているんです」
「それは分かっているよ。女性の方だよ……」
「そうでしたね。新しい仕事のスタートで忙しくしていましたから、マスターには話していませんでしたね」
「ちょっと心配だったからね、気になっていたんだ。主任と云うのは会社組織の中で管理職として生き残れるかどうか、最初にチェックされる大切なポジションだ。間違いを起こして欲しく無いからね。主任が全員、課長に昇進する訳じゃないだろ?」
「ええ、それはまあそうですね。例の手紙を見て貰った女性の事ですよね?」
「そうだよ。それで芦沢くんとしては、会ってみて印象はどうだったの?」
「僕には出来過ぎた女性のように思えるんです」
「うん、出来過ぎた女性ね……。出来過ぎていて問題があるのかな?。優秀で申し分の無い女性なら、言うことは無いんじゃないの?」
「今までに、社内で優秀だと言われていた何人かの先輩達と噂があった女性らしくて……。男性の方が尻込みをして駄目になったみたいなんです」
「先輩達は先輩達でいいんじゃないのかい?。その先輩達には彼女が合わなくても、君だから合うということもあるだろ?。勝手に尻込みをしていないかい?」
「そう言われると、確かに不満な点は無いんですが……。やっぱり違うと思います。
恋人とか結婚相手としては、あたりの優しい感じの女性が僕には合うような気がしているんですけど……。マスターは、どう思われますか?」
「僕に訊くのかい?。確かにそう言う女性の方が、君の傍に立っている姿を想像すると、しっくり行くかも知れないな」
「そうですか、安心しました。何となく彼女をふっきれないものが心の隅にあって、気になっていたんです」
「そうなの?。それで、他に恋人候補は居るのかな?」
「積極的にアプローチをしている訳ではないんですけど、何人か興味を持っている女性は……」
「ほう、複数と言うことはまだまだと云う事だな……。ところで大きな声では言えないんだけどね、碧ちゃんは君に興味があるみたいだよ……」
丈晴の表情が変ったのを見たマスターが、続けて訊く。
「おや、どうしたの?」
「マスター、それって本当ですか?」
マスターが、奥のテーブルの近くで客と話している篠宮碧の方に視線をやる。
「訊いてみるかい?」
「いえ、呼ばないでいいですよ」
「そうかい、まあ、頭の隅に入れておいても良いんじゃないかな?」
「勿論です」
「おや、満更じゃないみたいだね?」
「そんなに言わないで下さい。碧さんは僕の好きなタイプなんですから」
「ほお、それは初耳だね。僕にとっては嬉しい情報だな」
「マスターは碧さんを推薦されるんですか?」
「君が嫌じゃなければね。友人の娘さんだから、こんな店で変な虫が付いたら申し訳ないことになる。良い相手が居れば、と頼まれてはいるんだ」
「それなら、此処には、お医者さんや、公務員でも優秀なひと達が来られていますから」
「いや、僕と同じで碧ちゃんの父親の篠宮くんも、大病院の勤務医や高給取りのお役人は好みじゃなくてね。彼は、それが嫌で町医者の道を選んだんだ。大学病院では強い引き止めがあったらしいけどね」
「そうなんですか……。でも、正直嬉しいです」
「そうかい、そりゃ良かった。まあ後は任せるよ」
「ほんとに、いいんですか?」
「碧ちゃんの恋人が芦沢くんなら、僕は何も反対はしないよ。でも、他にも候補者が居るんだろ?。よーく考えてみればいいんじゃないかな。戻って来たよ……」
襟元にフリルのついた、ゆったりとした薄いラベンターカラーのブラウス。
濃い赤ワインのようなベルベットのロング.タイトスカート姿の篠宮碧が、銀のトレーを手にしてカウンター前に戻って来た。
「マスターも芦沢さんも、何を話してはったんですか?」
「いや、芦沢くんが最近よく来てくれるだろ、お礼をね……」
「そう言えばそうですね。大阪の支店に行かんでも、よおならはったからですか?」
「まあ、そうだね。通勤電車の時間分は余裕が出来たから…。それと、新しい仕事だから、色々とマスターのアドバイスも訊きたくてね」
「わたしもお店のひとりとして、お礼を言わんとあきませんね。芦沢さん、ブーメランをご贔屓にして頂いて、おおきにありがとうございます」
丈晴には急に碧が眩しく見えた。
京都営業所に出勤するようになった芦沢丈晴に、営業所員の町田俊司が、よく話しかけてくる。
町田は入社四年目を迎え、営業で独り立ちしたばかりだった。
営業所の上司より、営業所に駐在する他部門の丈晴の方が相談し易いらしい。
退社後に機会があると、丈晴に飲みに行こうと、声を掛けていた。
週末の金曜日。
普段より早く外勤から営業所に戻っていた丈晴は、週報を兼ねる報告書をパソコンで作成していた。
町田が自販機の紙コップに淹れたレモンティーを持って、丈晴のデスクに近づいて来た。
「芦沢さん、どうぞ……」
「おーっ、ありがとう。どうしたんだ、何かありそうだな、頼みごとかい?」
「いえ、別にそう言う訳では……。今日は予定があるんですか?」
「仕事終わりに?」
「はい」
「いや、別に予定はないよ」
「行きませんか?。美味いピザとワインの店に案内しますから」
「ああ、いいけど。営業所のメンバーと行かなくてもいいのか?」
「みんな、予定があるらしくて、所長も主任も……」
「そう。定時でいいかな?」
「はい。わたしも日報を出せば終わりですから」
「いいよ。じゃあ六時に一階の休憩室の前でいいかい?」
丈晴は営業所に居候をしている立場もあり、営業所のスタッフには気を遣っていた。
町田が、直接上司では無い部外者の芦沢丈晴に、相談をし易いのは理解できる。
丈晴は少しでも役に立てばと、営業所長の部下管理に影響が出ないように気配りをしながら、他の所員の相談にも快く耳を傾けてやっていた。
石窯で焼いたピザは、今までに食べたことのない良い香りがした。
空き腹にビールでピザは、少しきついと思った丈晴はコーラを選んだ。
竹田は白ワインをボトルで注文すると、水を飲む様な勢いでグラスを空けては注ぐ。
「なあ、ピザにはビールじゃないのか?」
「イタリアのひと達はそれが定番だそうですが、日本では結構ワインを勧める店も多いんだそうですよ」
「そうなのか?……。竹田くん、これは確かに美味いね。こんな店をよく見つけたな?」
「堀江さんに連れて来て貰ったんですよ」
京都営業所で営業支援担当をしている堀江悠子は、京都生まれの京都育ちで、町田より二歳年上の先輩になる。
「堀江さんと二人で来たの?」
「違いますよ。芦沢さんは知らないんですか?」
「何を?」
「そうですか……。今日は、ちょっと相談したいことがあるんです」
「仕事のことじゃなくて?」
「はい」
「それで?」
「関西支店の守山主任は、芦沢さんと同い年ですよね?」
「商品管理課の?、そうだけど……」
「営業所の堀江さんと守山主任は、間もなく婚約されるんですよ」
「へぇ、そうなの。守山くんは同じ歳だけど、彼は途中入社だから同期じゃないんだ。だから、あまり良くは知らないんだ」
「そうなんですか。この前、ふたりのデートに同行したんですよ」
「どう云うこと?、それって、ちょっと野暮じゃないか?」
「違うんですよ。八島さんは芦川さんに何も話して無いんだな……」
「八島さんて?……。僕のグループの八島美那子さん?。彼女が僕に何を?」
「八島さんは、守山主任の高校の後輩なんですよ。この前、守山さんが京都にデートに来るのを聞いた八島さんが、守山さんの自家用車に乗せて貰って来たんです。
そのときに、この店に連れて来て貰ったんです」
「それは聞いてないな。待ってくれよ、どうして彼等のデートに八島さんや君が一緒なんだ?」
「ですから、そのことで芦沢さんに相談をしようと思って、今日、声を掛けさせて貰ったんです。八島さんは芦沢さんのグループのメンバーですから」
「そうだけど……。八島さんのことをかい?。まあ、どっちにしてもプライベートなことなら、気にすることは無いんじゃないか?」
「あのー、彼女はどんなひとなんですか?」
「はあっ⁉、ひょっとして付き合っているの?」
「いえ、まだ本気じゃないんですけど」
「そうか、それでなんだな。僕の留守に、彼女からの伝言メモを町田くんが書いてくれていることが多いのは……。電話で話しているんだ?」
「まあ……。営業所では僕が電話を取る事が多いので」
「そうだね。メールでもいいのにと思うような伝言があるから、変だとは思っていたんだ……」
「彼女、よく芦沢さんの話しをするんですよ。それで、芦沢さんが付き合っておられるのかと思って……」
「町田くん、それは無いよ。グループに女性は彼女しか居ないからな、メンバーはみんなよく彼女と話すし、大切にしているんだ。僕も支店に行くと、終業後に一緒に食事に行ったりもするからね、それで話題に出るんじゃないのかな」
「じゃぁ、お付き合いはされてないんですね?」
「ああ、してないよ」
「そうですか……」
「どうしたんだよ?。えらく慎重なんだなぁ……」
「まあ……、僕は高校大学と、ずっと男ばかりの中で生活して来たので慣れないんです」
「学生時代は、何をやっていたの?」
「高校時代は探検同好会で、大学ではケービング同好会でした」
「ケービング?……、洞窟探検の?」
「よく知っておられますね。そうなんです」
「きみが八島さんと面と向かって話したのは、この店に来たとき?」
「そうです、彼女は総務だったでしょ。支店で何度か顔は見ていましたけど……、ただの女子社員としてしか見ていませんでしたから」
「それで、印象はどうだったの?」
「印象ですか?」
「そうだよ、初対面のときの印象だよ。お互いにどう思ったの?」
「芦沢さん、何か興味があるんですか?」
「う、うん。僕の恋愛哲学とでも云うか……。初対面の一瞬に、それ以降の全てが懸かっていると思っているから……」
「そうなんですか?。何て答えたらいいのかなぁ……」
「まあいいよ。又の機会で……」
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