上 下
79 / 85
第06章 竜界編

12 邪竜に救いを

しおりを挟む
 ある意味一番の被害を被った邪竜。その邪竜を救うために蓮太は無竜の案内で塔の東にあるという神殿に向かっていた。しばらく東に向かい飛ぶと、どこか教会のようにも見える立派な神殿が見えてきた。

「あれか」
《はい、あの中に妹がいます》
「わかった、後は俺に任せて無竜は塔に戻るんだ」
《な、なぜですか!? 私も行きます!》
「だめだ。邪竜はお前を恨んでいるんだろ? 悪意に染まった邪竜がどんな攻撃を仕掛けてくるかわからない。もしかしたら守りきれないかもしれないからな」
《っ! でもっ!》
「大丈夫だ。誰かを守りながら戦うより一人で戦う方が楽だからな。妹は必ず連れて帰る。ちゃんと元に戻してな 
《わかり……ました。妹を……どうか妹を助けて下さいっ!》
「ああ、じゃあ行ってくる」
《塔で帰りを待ってますからっ!》

 蓮太は上空で無竜と別れ、一人神殿の入り口に降り立った。

「こりゃまた……ずいぶん厳重に封印されてんな。入り口からしてこれかよ。ま、解除すっけど」

 神殿の入り口には幾重にも封印結界が施されていた。解除する手順を守らなければ一生開かない仕組みになっている。蓮太はその扉──の隣にある壁を破壊した。

「……壊れるじゃん。扉関係ねぇじゃん! まぁ竜の知能じゃこんなもんか。俺なら建物全体に【破壊不能】を付与すっけどな。とりあえず入るか」

 蓮太は瓦礫を蹴り飛ばしながら建物に侵入し、破壊した壁を直した。そして建物に破壊不能を付与する。

「これで万が一俺がミスっても邪竜は外に出られないはずだ。さて……【サーチ】」

 蓮太は建物全体に探知をかける。すると地下に巨大な生命反応があった。それ以外に反応は何もない。

「まぁた地下かよ。竜は地下が好きなのか? ひねりがねぇな」

 ひとまず蓮太は反応があった地下を目指し先へと進んだ。そして長く地下へと続く階段を下り、再び厳重な封印結界が施された扉を見つけた。

「……ここは普通に解除してやるか。【デリート】」

 蓮太は封印に向け手をかざし、全ての術式を破壊する術式を叩き込んだ。すると幾重にも重なっていた封印結界はガラスが割れるような音とともに砕かれ消えた。蓮太は結界が消えた扉に手をかけ押し開いた。

《グルルルル……ダレダ……!》
「おいおい……起きてんじゃねぇか」

 封印されていると聞いていたため、蓮太はてっきり邪竜が眠らされているか、凍らされていると想像していた。だが邪竜は手足に枷を嵌められ壁に磔にされていただけだった。 

「無竜よぉ……、これじゃ逆効果だぜ」
《コタエロ! ダレダキサマッ!》
「あ? 貴様だと?」
《グッ──! ナ、ナンダ……》

 いきなり貴様呼ばわりされた蓮太は邪竜に向け威圧を放った。すると邪竜が一瞬怯んだ。

「貴様とはなんだ貴様とは。おぉん!?」
《チ、チカヨルナ!》
「だからよぉ……命令すんなや。あぁ?」
《グッ!?》

 蓮太は邪竜の顎を掴み力を込めた。

《ガァァァッ! ハ、ハナセッ!》
「離して下さいだろ」
《ハ、ハナシテクダサイ……》
「よしよし、ちゃんと話は理解できるようだな。良い子だ」
《ハウッ……アァァ……》

 蓮太は邪竜の頭を撫でてやった。すると邪竜は嫌がりもせず、蓮太の手を受け入れた。

「お前の全竜は死んだ。俺が殺した」
《……エ?》
「【竜化】」 
《ウッ! マ、マブシイッ!》

 蓮太は邪竜の前で竜化して見せた。

《ナ、ナニモノナノダ……》
《俺は竜の頂点に立つ者、神竜だ》
《シ、シンリュウ!? アノ……デンセツノ!》 
《そうだ。今からお前をこいつで清める》
《ハワッ!? ソ、ソソソソソレデ!?》
《そうだ。お前が片言じゃなくなるまでたっぷりとな》
《……ゴクリ。ア、イヤ。ワ、ワタシハクッシナイ!》
《そりゃ楽しみだ。簡単に堕ちるなよ?》
《アッ──》

 蓮太は全竜がそうしたように、邪竜に愛を注いでやった。

《コンナ──コンナモノ──ッ!》

 一日後。

《ワ、ワタシハ屈しないぞぉぉぉぉぉっ!》

 二日後。

《ま、まだまだぁっ! 私は堕ちないっ!》

 三日後。

《な、なぁ……? まだ抜かないのか? もう三日間も繋がったままだが……》
《まだたったの三日だろ。全竜にどれだけ汚されたか思い出してみろ!》
《ゼンリュウゥゥゥゥゥゥッ!! ユルサナイ──アッ──》

 それを二回ループし、十日目の朝。

《も、もうらめぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 死ぬッ、死んぢゃうぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?》
《ふぅ……。そうだな、少しペース落とすか》

 大量に注がれた愛情により、邪竜は正気を取り戻していた。蓮太は正気を取り戻した今もまだ繋がったままでいる。

《じゃあ色々質問させてもらうぜ》
《あ、ああ》
《まず、お前はもう誰にも恨みを抱えてないか?》
《……しいて言えばおま──》
《まだだったか》
《や、やめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……》

 翌朝。

《恨み抱えてる?》
《か、抱えてないぃ……っ、身体も心も真っ白だぁ……っ》
《そうか。姉の事をどう思う?》
《姉さん……。い、今は私を守るためだと理解している》
《そうだ。お前が無竜に封印された理由は全竜の悪意から守るためだ。自分が知能すら失いかけていた事を覚えているか?》
《お、朧気にだが……。なぁ……まだ抜かないのか?》
《まだだ。お前の身体に誰が主か教え込んでる最中だからな。お前が俺を主と認め、従うなら抜いてやる》
《あ、主だとっ!? むむむ……、いきなりそう言われても……。確かに神竜なら従わなければならないが……。あなたがやった事は全竜とそんなに変わらないのでは……》
《ばっかもぉぉぉぉぉんっ!》
《あいたぁっ!?》

 蓮太は邪竜の頭に手刀を落とした。

《変わるだろ。全く違う。全竜のはただ自分の欲望をぶつけるだけ。俺は愛で優しく包み込むような感じだろうが! 俺が欲望に負けてこんな手段をとったと本気で思っているのかっ!》
《す、すまないっ! そんなつもりでは……》
《俺はお前のためを思って最善の手段をとったつもりだったのに……。まさか全竜と同じ扱いをされるとはな……。傷付いたぞ》
《そ、そんなつもりで言ったわけじゃ……。ど、どうしたら許してもらえるのだ》
   
 すると蓮太はニヤリと笑い、邪竜にこう言った。

《なら今度は邪竜の方からしてくれないか?》
《ふぁっ!? な、なななな何を言って!?》
《あ~……癒しが欲しいなぁ~……》
《わ、私からなど……私からなどぉぉぉぉっ!》

 翌朝。 

《うっうっ……。私はダメな竜だっ! 周りに流されあまつさえこのようなはしたない……》
《まぁまぁ。そんな自分を卑下するなよ。もうお前が誰かに振り回される事はないんだからな》
《え?》

 蓮太は落ち込む邪竜にこう言った。

《さっきお前にスキル【因果応報】を付与した》
《い、因果……応報?》
《そうだ。お前は他人の悪意を吸収してしまう性質のようだったからな。だがスキル【因果応報】があれば自然に吸収される悪意さえも放った者に返る。因果応報とは悪事を働けばやがて巡り自分に返るって意味でもある。もうお前が狂う事はない》
《ほ、本当か!? 私はもう誰かに振り回されたりはしないのかっ!?》
《ああ。もう心配いらん》
《あ……あぁぁぁっ! 良かった! 良かったぁぁっ!》

 邪竜は蓮太にしがみつき泣き続けるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ギャルゲーの世界に転生した俺はヒロインからモブまで全てを愛す!

夜夢
ファンタジー
『ヒロイン? モブ? そんなの関係ねぇっ! 全員俺の嫁にしてやらぁっ! 』 ある日突然ギャルゲーの世界へと入り込んでしまった非モテ系オタク主人公。 主人公はいつもこう思っていた。 「うぉぉい、このゲーム……モブキャラの方が可愛いじゃん! なんで攻略対象じゃねぇの!?」 今日は三十歳の誕生日。 ちなみに彼女がいた事はない。 誕生日のプレゼントは自分で買った。 ギャルゲーパック爆誕! 全てのギャルゲーがこれ一本に! 懐かしのギャルゲーから最新のギャルゲーまで全網羅! 限定百本当たり付き! お値段百万円の大特価! さあ、ギャルゲーに命をかける者よ! これで熱いパトスを発射せよ! ふざけたキャッチコピーだが主人公は迷わずこれを購入。ちなみに金は腐るほどある。 主人公は自宅に届いたディスクをすぐさまPCに挿入する。 「よしっ! 全クリするまで止めねぇからなっ!」 そこで主人公の意識は途絶えるのであった。

怠惰な俺は転生しても怠惰に暮らしたいと思い、神様にスローライフを懇願してみた

夜夢
ファンタジー
争いは嫌い、働くのも嫌いな主人公【田中 陸人】は生まれてこのかた慌てた事がない。 過保護な親に甘え続けて三十年、趣味はネットゲームとネットサーフィン。昼夜問わずPCにかぶり付き続けた彼はその日頃の生活習慣から体を病み、若くしてこの世を去る事に……。 そんな彼がたまたま得たチャンス。 死んだ彼の目の前に神様が現れこう告げた。 「お主にもう一度だけチャンスを与えよう。次の世界では自分のためではなく人のために生きてみせよ」 彼は神にこう返した。 「神様、人のために生きるには力が必要です。どうかそれを成すための力をお与え下さい」 ここから彼の第二の人生がはじまるのである

謎スキルを与えられた貴族の英雄譚

夜夢
ファンタジー
この世界【イグナース】は千年前に起きた人魔大戦以降六人の王と対立した一人の王が頂点に立ち世界を良き方向へと導いてきた。 七人の王は皆人智を超越した力を有していた。 だが所詮は人族。老いによる力の衰退には抗えず後継者となる者を育成してきたが未だ後継者足り得る者は現れていない。 世界がそんな事になっているなど知らず、とある大陸の小さな国に一つの希望が誕生していた。だがその希望は真価を見出されず僅かな金銭と共に生家を追い出される。 希望は果たして世界を維持する頂点に至り平和を維持するか。はたまた人族の敵と与し世界を千年前の姿に戻すか。 これは真価を見出されず追放された貴族嫡男の人生を追った冒険物語である。

八方美人な俺が恋愛ゲー主人公じゃないキャラに転生した件〜ヒロインも悪役令嬢も全部まとめて面倒見ます〜

夜夢
恋愛
西暦2300年。社会現象を巻き起こす事となる伝説のクソ乙女ゲー『異世界恋愛物語』が誕生した。 このゲームは単なる乙女ゲーにあらず、ルートによってはRPG要素を含み、またあるルートではクイズルート、音ゲールートと様々なルート分岐があり、クリアはできるが全ルート攻略に膨大な時間がかかるというオタ殺しゲームだ。 誰もが様々なルートで攻略を試みるも、三年経っても誰一人真のエンディングに辿りつけていない。 そして異世恋(いせこい)はいつしかプレイヤーからトゥルーエンドが存在しないクソゲーと言われ伝説となった。 これはそんな伝説のクソゲーの主人公と並ぶキャラ【リヒト・フェイルハウンド王子】へと転生したとある男の物語である。 ※毎週金曜更新します

魔法使いになった男~転生先はゲームの世界だった~

夜夢
ファンタジー
30歳まで清い身体でいると魔法使いになれる。そんな噂話を真に受け、主人公は30歳まで清いからだを守り抜いた。幼い頃から数々の誘惑があったが全てを逃げ切り、30歳まで後残り1秒…。 そこから新しい主人公の物語が始まる。

転生発明家は異世界で魔道具師となり自由気ままに暮らす~異世界生活改革浪漫譚~

夜夢
ファンタジー
 数々の発明品を世に生み出し、現代日本で大往生を迎えた主人公は神の計らいで地球とは違う異世界での第二の人生を送る事になった。  しかし、その世界は現代日本では有り得ない位文明が発達しておらず、また凶悪な魔物や犯罪者が蔓延る危険な世界であった。  そんな場所に転生した主人公はあまりの不便さに嘆き悲しみ、自らの蓄えてきた知識をどうにかこの世界でも生かせないかと孤軍奮闘する。  これは現代日本から転生した発明家の異世界改革物語である。

スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢
ファンタジー
この世界はスキルが全て。 成人の儀式で神様から誰もが一つスキルを授かる事ができる。 スキルを授ける神は様々おり、争いの絶えないこの世界では戦闘系スキルこそ至上と考えられていた。 そしてそれ以外の補助系スキルや生活スキルなど、後発的に習得可能とされるスキルを得た者は世界から冷遇される。 これはそんなスキル至上世界で効果不明なスキル『箱庭』を得た主人公【レイ・イストリア】が家から追放されるもそのスキルを駆使し、世界を平和に導く英雄伝説である。

ステータスを好きにイジって遊んでたら、嫁たちが国造りを始めました

内海
ファンタジー
「剣と魔法の世界で、スラム街の麻薬中毒の母親から、父親が誰かも分からないアナタが生まれるはずでした!!」 間違って生まれた先の方が、圧倒的に良かった件。 そんな世界なんてゴメンだ! 元の世界でがんばるから元の世界に……あ。 1年間トイレと風呂以外は部屋から出た事がない修斗は、エロ画像でオナニーをしていたら興奮し過ぎて脳卒中で死んでしまう。 体重が100kgを超えていたのも悪かったのだろう。 しかし死後の世界で美人な女神さまに謝られた。 「送る世界を間違えちった、ごめんなさーい!」 お詫びとして欲しい能力を1つだけ貰い、本来生まれるはずの世界に生まれ変わる事になる。 そう、WEB小説で読み漁ったファンタジー世界への異世界転生を果たしたのだ! が、スラムで麻薬中毒の母親に産み捨てられ、いきなりの絶体絶命だ!

処理中です...