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第01章 転生編

12 侵攻開始

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 ヴェスチナ王国国王はよほど怒り狂っていたのだろう。国境を守る兵士から連絡が入ったのは、オークの首を送り付けてから二週間後だった。

「敵兵の数、およそ三十万! 王よ、我が軍はいかに!」
「三十万……だと? それは把握しているヴェスチナ王国正規軍の全てではないか! 奴らは全戦力を投入してきたというのか!?」

 どうするべきか悩む王にエレンが言った。

「父上」
「ん? どうしたエレン」
「はっ。今回の戦、我らノイシュタット王国軍はそのまま待機で構いません」
「な、なに!? 待機とはどういう事だ? 国を捨てろと?」
「いえ。たかだか三十万の軍勢に我が軍を動かす必要などないという事です」
「なにを言いたいのだエレンよ」

 エレンは隣に立つ蓮太を前に出し言った。

「この度の戦、このレンタが瞬く間に解決してみせましょう」
「……なに?」
「敵軍を殲滅するのはこのレンタ一人で十分事足ります。なのでノイシュタット軍は後方で待機していただき、敵軍の殲滅を確認後、ヴェスチナ王国を占領に向かって下さい」
「いや、ちょっと待つのだエレン。敵は三十万だぞ? いくらなんでも一人とは理解不能だ」

 そこで蓮太が王に進言した。

「陛下」
「なんだレンタよ」
「前回俺は一万の軍勢を秒で殲滅しました」
「うむ。聞いておる。だから準男爵に昇爵したのだ」
「その節はありがとうございます。その前回の戦いで俺の力はさらに増しました。雑兵三十万など恐るるに足りません。今回も殲滅してみせましょう」
「……できるのか?」
「もちろんです」

 蓮太は初めから一人で戦うつもりだった。前回一万人を殲滅しただけで一気にレベルが上がった。ならば今回三十万もの人間を殲滅した場合どれだけレベルが上がるか。

「……ふむ」

 王は考えた。仮に失敗したとしても後方に軍を待機させておけばどうにか戦の形にはなる。また、蓮太が宣言通り単独でヴェスチナ王国軍を殲滅した場合、速やかに領地を占領しに向かえる。

「あいわかった。この戦をワシの代最後の戦とし、見事ヴェスチナ王国を手にしたその時はエレンに王位を譲るものとする。そしてレンタよ、お主には伯爵位を与える。次期国王エレンの親衛騎士隊長の地位を授けよう」
「……はっ! では俺は先に国境へと向かいます。陛下はエレンと共に軍を率いてきて下さい」
「うむ。先走るでないぞ?」
「それは状況によりますね。ではお先に。【転移】!」
「「き、消えた!?」」

 王はともかく、エレンの前で転移を使ったのも初めての事だった。

「な、何者なのだあ奴は」
「私にもわかりません。ですがレンタが味方である内は我が国は安泰でしょう」
「まったく。エレンよ、お前は昔から何か持っている奴だな。よほど神に愛されているようだ」
「たまたまですよ。さあ、父上。私達も戦支度をし急ぎ国境へと向かいましょう」
「うむっ! 兵糧は最低限で構わぬ! 我らの地を脅かすヴェスチナ王国に鉄槌を下すぞっ!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」

 一方、国境へと転移した蓮太はすでに国境を守る兵士と合流していた。

「な、ななな何としてもここは守り通さねばっ!」
「わ、わわわわかってるよっ! しかしあれはさすがに……」

 国境である門の向こう側は崖に挟まれた細い坂道になっている。その坂道の視認できる範囲全てがヴェスチナ王国正規軍で埋め尽くされていた。

「まぁまぁ、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
「なんでそんな冷静なんですか、レンタ様……」

 迫りくる大量の軍勢を前にしても蓮太は余裕を見せていた。

「あんなの楽勝でしょ。まぁ、見てな」
「え?」

 蓮太は両手を左右の崖に向け、魔力を練り始めた。

「我が魔法、その身でとくと味わうが良い。炎の力よ、全てを灰塵と帰せ。唸れっ! 大規模殲滅爆裂魔法! エクスプロージョン✕2!!」
「「「「へ?」」」」

 蓮太の両手から小さいが超熱量の火の玉が放たれる。それが両側にある側に着弾した瞬間、とんでもない規模の爆発が起き、崖が吹き飛んだ。

「ら、落石だぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「に、逃げ場がねぇぇっ! う、うわぁぁぁぁぁっ!」
「し、死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 吹き飛んだ崖が落石となりヴェスチナ王国正規軍の頭上から降り注ぐ。落石による土煙が前方を埋めつくしていった。

「な、何も見えない! どうなったんだ?」
「ふむふむ」

 何も見えないが蓮太にはスキル【生命探知】がある。視界に頼る必要などなく、次の攻撃に移る。

「もう一丁!」

 今度は両手を天に掲げ、残った生命反応のある範囲に狙いをつける。

「天より降り注ぐ光の柱、愚かなる者に鉄槌を! トールハンマー!!」

 突如空に現れた雷雲から轟音と共に無数の雷が地上へと降り注ぐ。これにより生き残ったヴェスチナ王国正規軍も瞬く間に数を減らしていった。そして隊列の最後尾でこの光景を目の当たりにしたヴェスチナ国王は迫りくる絶望に震えていた。

「あ……あああ悪魔だ……。我が軍勢がものの一瞬で……! なんという……」
「へ、陛下! ここは一旦退くしか──」
「逃がさねえよ?」
「「「なっ!?」」」

 煙の向こうから何者かがゆっくりと姿を現す。

「あ、悪魔めっ! お前だなっ、ワシの弟を無惨な姿に変えたのはっ!!」

 そう言った声は震えていた。次第に煙が晴れ、蓮太が残るヴェスチナ王国正規軍の前に姿を見せた。

「そうだが何か? お前らが悪巧みなんぞするから俺が働かなきゃならなくなったんだろうが。俺はなぁ……正直働きたくなんてねぇんだよっ! それなのに二回も出撃させやがって……!」
「な、何を言っているのだ?」

 蓮太は魔法ではなく、アイテムボックスから剣を取り出し構えた。

「い、いかんっ! 王を御守りするのだっ!」

 蓮太が剣を構えると僅かに残っていた兵士が国王の前に立ち肉の壁になった。

「王よ! 我らが時間を稼ぎますっ! その間に逃げて下さいっ!」
「お、お前ら……! す、すまぬっ!!」

 王は兵士に促されその場から反転し、さらに絶望を味わう事になった。

「【アースウォール】」
「ぐわぁぁぁぁっ! な、なん──か、壁が──」
「陛下っ!」

 蓮太には初めから誰一人逃がすつもりなどなかった。その場にいた全員を高い土の壁で覆い、逃げ道を塞いだ。

「逃がすかよ。今逃がしたらまた攻めてくるんだろ?」
「せ、攻めぬっ! もう二度とノイシュタットには手を出さんし関わりもせぬっ! お、弟の事も忘れるっ! そ、そうだ! なんなら我が国の美女をそなたに与えようではないかっ!」
「美女?」

 美女と聞いた蓮太の耳がぴくりと反応を示した。そしてこれに対し、ヴェスチナ国王はまだ交渉の余地があると判断し、調子に乗ってしまった。

「そ、そうだ! 美女だ! な、なんならワシの国に来て自分で選んでもらっても良いっ! あ、ああそうだ、新しい法を作ろうじゃないか! お主に限り好きな女をいつ抱いても良いようにしてやるぞっ!? だ、だからここはお互いに水に流してだな……」

 だが蓮太は至って冷静だった。

「ははははっ、バカか」
「な、なにっ!?」
「あのさぁ、別にお前に恵まれなくてもよ、俺はいつだってお前の国を蹂躙できるんだ。何故にお前から許可をもらわなきゃならん。お前は俺より偉いのか? ハッキリしろゴラァァァッ!!」
「ぐぅぅぅぅっ!」
「「「「がぁっ……!?」」」」

 蓮太の放った威圧が兵士達を吹き飛ばし、王を地面に転がした。王は尻餅をつきながら後退りを始めた。

「え、えええ偉いに決まっているだろっ! ワシは一国の王だぞっ!」
「ほ~う。王なら俺より偉いのか。なら当然俺より強くなきゃなあ? この世界は強さが全てだ、俺に言う事を聞かせたきゃ戦って知らしめるしかねぇよ?」
「ち、力が全てではないっ! ワシには金があるっ! 金があれば力のある者を雇えるっ!」
「……確かに財力も力ではあるな。だがなぁ……それも力で奪われちゃあおしまいだ。ほら、金の力で今すぐ何とかできるならやってみな?」

 できるわけがない。今この場において金などなんの意味ももたらさない。ヴェスチナ国王が繰り出した最後の悪足掻きも不発に終わった。

「ほら、できねぇじゃん。わかったか? 金なんて力でもなんでもねぇ。お前が自国で採れる資源を独占せずに隣国と取引をして良い関係を築けていればこうなる事はなかっただろうよ」
「く、来るなっ! ワシに近寄るなぁぁぁっ!」
「これはお前の欲深さが招いた事態だ。生まれ変わったらもう少しマシな人間になれよ、じゃあ……サヨウナラだ」
「あ──」

 蓮太の剣が風を斬りヴェスチナ国王の首を一閃。ズズッとずれた首は地面に転がり、残された胴体からは噴水のように鮮血が噴き上がった。

「「「へ、陛下ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」
「おっと忘れてた。残りを片付けなきゃな。ほら、かかってきな。お前達の王を殺った敵はここにいるぞ?」
「ぐぅぅぅっ! 全員抜剣っ!! 王の仇討ちだっ!」
「「「「お、おぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」

 僅かに残った兵士達が命を賭け蓮太に立ち向かってくる。

「よくもまぁあんな王にそこまで忠義を尽くせるな。だが情けはかけん。今楽にしてやるよ」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 蓮太は神速の足運びで兵士の間を縫うように駆け抜け、剣を鞘に納めた。

「つ……強すぎ……る……。ぐふっ」
「見え……なかった……がはっ」
「無念……ごふっ……」

 全員同時に地に倒れ、蓮太は倒れた兵士達を振り返りこう告げた。

「仕える主を間違えたな。来世では間違わないようにしな」

 そして地面に転がるヴェスチナ国王の首を拾いあげ国境の門へと向かう。辺りに生命反応は一つもない。

「ははっ、またレベルが爆上がりしたな。もう世界最強じゃん俺」

 こうしてヴェスチナ王国正規軍を圧倒し、更なる力を得た蓮太は嗤いながら国境に戻るのだった。
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