上 下
11 / 85
第01章 転生編

11 ヴェスチナ王国の反応

しおりを挟む
 ノイシュタット王国への進軍。任せたはずの公爵から一向に連絡がこず、痺れを切らした国王は配下を急ぎ国境へと向かわせた。

「なんだと? 国境は変わりなくノイシュタット王国の兵士が守っていただと?」
「はっ」
「なら弟はどこへ消えたのだ。奴には一万もの軍勢を与えて国境へと向かわせたのだぞ」
「それはわかりかねます。国境の門には争いが起きた痕跡すらなく、警備が強化された状態でありました」
「……ふむ。襲撃に失敗でもしたか? それでワシに合わせる顔がなく雲隠れでもしておるのか……」

 そう思案している時だった。

「へ、陛下!」
「何事だ、騒々しい」
「そ、それが……。ノイシュタット王国より木箱と書筒が送られて参りまして」
「なに? 中身はなんだ」
「そ、それが……その……」

 兵士は王の前に木箱を置き、蓋を開いた。

「なっ!? お、弟よっ!!」

 蓋を開けると氷漬けになった公爵の首が花に囲まれ入っていた。

「書筒を寄越さんかっ!」
「ははっ!」

 王はわなわなと震える手で文に目を落とした。

「お……おのれぇぇぇぇぇぇぇっ!! よくも弟をっ!!」
「へ、陛下。書にはなんと記され……」
「うるさいっ!! 勝手に読めっ!」

 大臣は投げつけられた文に目を通した。そこにはこう記されていた。

──前略。卑劣な手を使ったクソ王国へ。そちらに送った首は見てもらえたかな? そいつがオークの軍勢を引き連れてきたと勘違いしてつい殺っちまった。まぁ、許せ。ってのは冗談で、そいつがクソみたいにこそこそと悪巧みをしていたから集まっていた兵士もろとも俺が一人で殲滅してやった。たった一万ぽっちの軍勢でノイシュタットに勝てると思ってんじゃねーよバーカ。次はもっと連れてこいよ、臆病者の王様自らな。その豚の首と同じ場所に送ってやるぜ。殲滅者、レンタ・シーヴァより。追伸、お前の欲しがっている女は俺が美味しく頂いておく。豚に真珠は必要ないだろ。ではな──

「……一人で公爵様と一万もの軍勢を? 嘘に決まって──ぐふぁっ!?」
「そんな事はどうでも良いっ!! そいつのワシを舐めくさった態度……絶対に許してはおかぬわっ!! 今すぐ戦支度をしろっ!! 全兵力をもってノイシュタット王国……いや、レンタ・シーヴァとやらをなぶり殺しにしてやるわぁぁぁぁぁぁっ!!」
「は、ははっ!!」

 そうヴェスチナ王国国王が怒り狂っている頃、エレンの私室にて。

「──と記して首と共に送ったわけだが」
「なんって真似してくれてんのお前っ!?」

 さも冷静にそう言葉を紡ぐエレンに対し、蓮太は開いた口が塞がらなかった。しかも優雅にティータイムときたもんだ。

「まぁ、そう慌てるな。これだけ挑発してやれば今頃あちらの国王は怒り狂って全軍を率いてこちらに戦を仕掛けにくるはずだ。あの国は国王のワンマンだからな」
「お前……真っ黒すぎだろ」
「失礼な。これくらいどの国でもやっている。だが、首があった効果は大きいな。嘘も真実っぽくなった」
「その手紙じゃ俺が極悪人になってるじゃねぇか」
「殺ったのはレンタだしな。間違いではないだろう?」
「間違いしかねぇよ!?」

 蓮太は力が抜けソファーにドカッと腰を落とした。

「まぁ……送っちまったもんはしょうがない。今さら嘘でしたーとか言っても火に油を注ぐだけだしな。で、これからどうするんだよ」
「当然戦だ。妹を狙うゴミクズはさっさと消しておくに限る」
「勝てるのかよ? 兵士の数は同等でも装備はあっちが格上なんだろ?」
「ははははっ、装備など紙屑同然だろう? 殲滅者くん?」
「俺がやんのかよっ!?」
「お前しかおらぬよ。報酬は前払いしただろう?」

 そう言い、エレンは妖しく笑って見せた。

「あれっぽっちじゃ釣り合わねぇよ」
「足りぬなら今夜も払うが?」
「……ったく。俺をアテにしすぎだ」
「頼むよレンタ……。お前が動いてくれるなら私はどんな事でもする」
「そんなに妹が大事か?」

 そう言うとエレンは拳を握り立ち上がって力説を始めた。

「当然だっ! 私の妹はまさに天使! 光を帯キラキラと輝く銀髪にくりっとした大きな青い瞳っ! 何者をも疑う事を知らない綺麗な心っ! 可愛らしい仕草っ! 何をとっても非の打ち所がないっ! そんな可愛らしい天使を豚なんぞに盗られてたまるかっ! そのためなら私の身体などいくらでもくれてやるわっ!」

 エレンは重度のシスコンだった。

「……お前、嫌々俺に抱かれたのか?」
「いや? 嬉々としていつも受け入れているぞ?」 
「俺にはお前がさっぱり理解不能だ」
「まだ付き合いが短いからだな。その内わかるさ」

 確かに国境から戻ってきてからというもの、蓮太達の仲はかなり深まってはいる。だが蓮太はそこまでしてエレンが守りたい者の姿を未だに見てはいない。

「なぁ、俺にも妹を見せてくんない?」
「ダメだ。それだけはダメだ」 
「なんでだよ!? ってか姿も知らない奴のために命張れってのか!?」
「むぅ……。しかし……妹は天使だ。お前が惚れないとも限らぬし……」
「惚れるかよ。俺は一途なの! エレンだけいれば良いわ!」
「レンタ……!」  

 それからしばらくの間エレンの私室が入室禁止になった事は言う必要はないだろう。

「やってくれるかレンタ……、私のために……」
「わかったよ、やりますよ。この国を守ってやるよ。ヴェスチナ王国なんざ俺が潰してやるわ」
「ふっ、さすが私のレンタだ……。ではこのまま国境を守る兵士からの連絡を待つとしよう」
「……そうだな」

 そうして二人はヴェスチナ王国軍襲来の報せが届くまで部屋に籠るのだった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ギャルゲーの世界に転生した俺はヒロインからモブまで全てを愛す!

夜夢
ファンタジー
『ヒロイン? モブ? そんなの関係ねぇっ! 全員俺の嫁にしてやらぁっ! 』 ある日突然ギャルゲーの世界へと入り込んでしまった非モテ系オタク主人公。 主人公はいつもこう思っていた。 「うぉぉい、このゲーム……モブキャラの方が可愛いじゃん! なんで攻略対象じゃねぇの!?」 今日は三十歳の誕生日。 ちなみに彼女がいた事はない。 誕生日のプレゼントは自分で買った。 ギャルゲーパック爆誕! 全てのギャルゲーがこれ一本に! 懐かしのギャルゲーから最新のギャルゲーまで全網羅! 限定百本当たり付き! お値段百万円の大特価! さあ、ギャルゲーに命をかける者よ! これで熱いパトスを発射せよ! ふざけたキャッチコピーだが主人公は迷わずこれを購入。ちなみに金は腐るほどある。 主人公は自宅に届いたディスクをすぐさまPCに挿入する。 「よしっ! 全クリするまで止めねぇからなっ!」 そこで主人公の意識は途絶えるのであった。

怠惰な俺は転生しても怠惰に暮らしたいと思い、神様にスローライフを懇願してみた

夜夢
ファンタジー
争いは嫌い、働くのも嫌いな主人公【田中 陸人】は生まれてこのかた慌てた事がない。 過保護な親に甘え続けて三十年、趣味はネットゲームとネットサーフィン。昼夜問わずPCにかぶり付き続けた彼はその日頃の生活習慣から体を病み、若くしてこの世を去る事に……。 そんな彼がたまたま得たチャンス。 死んだ彼の目の前に神様が現れこう告げた。 「お主にもう一度だけチャンスを与えよう。次の世界では自分のためではなく人のために生きてみせよ」 彼は神にこう返した。 「神様、人のために生きるには力が必要です。どうかそれを成すための力をお与え下さい」 ここから彼の第二の人生がはじまるのである

謎スキルを与えられた貴族の英雄譚

夜夢
ファンタジー
この世界【イグナース】は千年前に起きた人魔大戦以降六人の王と対立した一人の王が頂点に立ち世界を良き方向へと導いてきた。 七人の王は皆人智を超越した力を有していた。 だが所詮は人族。老いによる力の衰退には抗えず後継者となる者を育成してきたが未だ後継者足り得る者は現れていない。 世界がそんな事になっているなど知らず、とある大陸の小さな国に一つの希望が誕生していた。だがその希望は真価を見出されず僅かな金銭と共に生家を追い出される。 希望は果たして世界を維持する頂点に至り平和を維持するか。はたまた人族の敵と与し世界を千年前の姿に戻すか。 これは真価を見出されず追放された貴族嫡男の人生を追った冒険物語である。

八方美人な俺が恋愛ゲー主人公じゃないキャラに転生した件〜ヒロインも悪役令嬢も全部まとめて面倒見ます〜

夜夢
恋愛
西暦2300年。社会現象を巻き起こす事となる伝説のクソ乙女ゲー『異世界恋愛物語』が誕生した。 このゲームは単なる乙女ゲーにあらず、ルートによってはRPG要素を含み、またあるルートではクイズルート、音ゲールートと様々なルート分岐があり、クリアはできるが全ルート攻略に膨大な時間がかかるというオタ殺しゲームだ。 誰もが様々なルートで攻略を試みるも、三年経っても誰一人真のエンディングに辿りつけていない。 そして異世恋(いせこい)はいつしかプレイヤーからトゥルーエンドが存在しないクソゲーと言われ伝説となった。 これはそんな伝説のクソゲーの主人公と並ぶキャラ【リヒト・フェイルハウンド王子】へと転生したとある男の物語である。 ※毎週金曜更新します

魔法使いになった男~転生先はゲームの世界だった~

夜夢
ファンタジー
30歳まで清い身体でいると魔法使いになれる。そんな噂話を真に受け、主人公は30歳まで清いからだを守り抜いた。幼い頃から数々の誘惑があったが全てを逃げ切り、30歳まで後残り1秒…。 そこから新しい主人公の物語が始まる。

転生発明家は異世界で魔道具師となり自由気ままに暮らす~異世界生活改革浪漫譚~

夜夢
ファンタジー
 数々の発明品を世に生み出し、現代日本で大往生を迎えた主人公は神の計らいで地球とは違う異世界での第二の人生を送る事になった。  しかし、その世界は現代日本では有り得ない位文明が発達しておらず、また凶悪な魔物や犯罪者が蔓延る危険な世界であった。  そんな場所に転生した主人公はあまりの不便さに嘆き悲しみ、自らの蓄えてきた知識をどうにかこの世界でも生かせないかと孤軍奮闘する。  これは現代日本から転生した発明家の異世界改革物語である。

スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢
ファンタジー
この世界はスキルが全て。 成人の儀式で神様から誰もが一つスキルを授かる事ができる。 スキルを授ける神は様々おり、争いの絶えないこの世界では戦闘系スキルこそ至上と考えられていた。 そしてそれ以外の補助系スキルや生活スキルなど、後発的に習得可能とされるスキルを得た者は世界から冷遇される。 これはそんなスキル至上世界で効果不明なスキル『箱庭』を得た主人公【レイ・イストリア】が家から追放されるもそのスキルを駆使し、世界を平和に導く英雄伝説である。

ステータスを好きにイジって遊んでたら、嫁たちが国造りを始めました

内海
ファンタジー
「剣と魔法の世界で、スラム街の麻薬中毒の母親から、父親が誰かも分からないアナタが生まれるはずでした!!」 間違って生まれた先の方が、圧倒的に良かった件。 そんな世界なんてゴメンだ! 元の世界でがんばるから元の世界に……あ。 1年間トイレと風呂以外は部屋から出た事がない修斗は、エロ画像でオナニーをしていたら興奮し過ぎて脳卒中で死んでしまう。 体重が100kgを超えていたのも悪かったのだろう。 しかし死後の世界で美人な女神さまに謝られた。 「送る世界を間違えちった、ごめんなさーい!」 お詫びとして欲しい能力を1つだけ貰い、本来生まれるはずの世界に生まれ変わる事になる。 そう、WEB小説で読み漁ったファンタジー世界への異世界転生を果たしたのだ! が、スラムで麻薬中毒の母親に産み捨てられ、いきなりの絶体絶命だ!

処理中です...