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第01章 転生編

03 転生

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 この地に産まれ落ちてから一ヶ月。

「ほぎゃあっ、ほぎゃあっ」
「はいは~い、今ご飯あげるから良い子で待っててね~」

 蓮太はごく普通の一般家庭ではなく、いわゆるスラムと呼ばれる場所で新たな人生をスタートしていた。

「はい、今日は私のおっぱいよ~」
「んきゅっんきゅっ」

 母親は今仕事をしている。何とは言わないが父親が誰かもわからなくなるような仕事だとだけ言っておく。現に今ミルクを飲ませてくれている女性も仕事でミルクが出るようになっていた。

「ふふっ、可愛いなぁ~。私の赤ちゃんも早く産まれてきてくれないかな~。んっ……こ~ら、舐めるんじゃなくて吸うの!」
「はむはむ……」
「あ、こらぁっ!」

 今蓮太を抱えているのは生前の蓮太よりかなり年下の女性だ。ブラック企業に勤めていたせいか、そういった事とはずいぶんご無沙汰だった蓮太は今の生活を満喫していた。

「も~……。今からそんなんでどうするの? 成長したらとんでもない男の子になりそうだわ。あっ」
「ちゅるちゅる……」

 スラムの住人は助け合い、寄り添いながら生きていた。ほとんどの家庭で父親がおらず、支え合って生きるしか道はないのである。

「はい、もうおしまいっ! 他にもミルク飲ませなきゃいけない赤ちゃんいるんだからね~」
「……けふっ」

 辺りを見回すと赤ん坊が数人いた。蓮太と同時期に産まれた子ども達だ。

「やっぱりおかしいのはレンタだけね~。他の子達は普通に飲んでくれるし」
《……そいつら女だからじゃね?》

 そんな生活を楽しみつつ、蓮太は神からもらったスキルを理解しようと、一人になると日夜スキルと向き合う。

《まぁ必要ないんだけどね。俺がもらったスキルは【万物創造】。それこそスキルでもなんでも創り出せるチートスキルだ。まったく、誰のおかげでこれ以上赤ん坊が増えないと思ってるんだか》

 あまり増え過ぎてもスラムでは生活していく事ができない。そればかりか冒険者ギルドに登録できるようになる十二歳になると家を追い出されてしまう。これも計画せずにポンポン子どもを作っているせいだ。

《さて、今日はどんなスキルを創ろうかな~》

 だが万物創造も万能ではなかった。理由は一日に創り出せるスキルは一つだけ。だがこれでもこの世界においては比類する者がいないくらい万能であると言っておく。

《初日に【不死】を創り、翌日に【絶対防御】、それから【成長促進】に【探知】、【状態異常無効】に【武神】、【魔導王】、【鍛治神】に【アルケミスト】だ。ひとまずこれだけあれば生きる事に困らないだろう》

 それから十年後。蓮太は十歳となり、まだスラムで暮らしている。成長促進の効果もあってか、蓮太は周りの子ども達より大きく成長を遂げていた。

 身体は筋トレで引き締め、伸ばしっぱなしだった黒髪も十歳の誕生日にバッサリと切った。加えてなぜか地球にいた頃の顔と同じくなかなかの美形だ。

「うんうん、なんでか知らないけど俺の顔だな。さて……あと二年でスラムを出なきゃならないか。ちょっと恩返しでもしておきますか」

 蓮太は世話になったスラムの住人達のために【物質創造】というスキルを駆使し、建物や家財を新しい創り出し皆に与えていった。

「レンタ……、あんた凄いスキル持ってるのね~」
「全然凄くなんかないよ、母さん。俺のスキルは【大工】だからさ。ちょっと古い物を新しく見せてるだけだよ」
「そう? まるで別物に見えるけど」
「ははは、それは気のせいだよ」

 蓮太はスキルを偽った。もちろん母親の事を信用していないわけではない。だが周りまで信用できるかと言ったらそうでもない。過ぎた力というものは必ず話になる。それも悪い方にだ。仮に権力者が蓮太の本当の力を知ればどんな手を使ってでも自分のモノにしにきただろう。

「あと二年ね。レンタ、あんたこれからどうするか決めてる?」
「うん、もちろん。俺、十二歳になったらここを出て冒険者になるんだ」
「冒険者に? あはははっ、スキルが大工なのに冒険者って! あははははっ」

 本当の力を知らない母親は笑い転げていた。実際このスラムに来る客の九割が冒険者だ。残り一割は奴隷商人と、本当にロクでもない。

「レンタは顔が良いんだからさ、男娼でもしたら?」
「嫌だよ。別に母さん達の仕事をバカにするわけじゃないけどさ、俺には向いてないよ」
「やってみなきゃわからないじゃない。そんなにスラムが嫌なの?」
「嫌って言うか、そういうルールでしょ? 男は十二歳になったらスラムを出て自活する。それがここのルールじゃないか」
「そうなんだけどねぇ……。スキルが大工じゃねぇ~。安い日雇いの仕事しかないかもよ?」
「だから冒険者になるって言ってるじゃん。スキルは大工でもそれなりに強いし大丈夫だよ」
「……そ。まぁ……まだ先の話だけど無茶はしないでね」
「わかってるって。のんびりとその日暮らせる分稼げれば十分だし」

 蓮太は真面目に働く気などサラサラなかった。前世で散々苦労してきた蓮太の抱負は【働いたら負け】だった。十二歳になったら人里離れたどこか綺麗な景色の場所でのんびり自給自足しながら暮らすつもりだった。

 それから二年で蓮太は思い付き限りのスキルを創り、いよいよスラムを出る日となった。

「じゃあ母さん、たまには顔を見にくるから」
「ええ、待ってるわ。すぐに帰ってくるなんて事ないようにね」
「大丈夫だよ。母さんも身体に気をつけて」
「はいはい。じゃあ……行ってきなさいレンタ」
「行ってきますっ!」

 こうして準備を整えた蓮太はスラムを後にし、その足で真っ直ぐ冒険者が仕事を求めて集まる場所、冒険者ギルドへと向かうのだった。
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