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最終章 天界編

01 ルシファー語る

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 ルシファーは地上に降臨した理由を口にし始めた。

「アーレスよ。お前達の職業は全て精霊神が授けている。それはわかるか?」
「ああ。そういうものだと教わってきた」
「ふむ。では天界に派閥がある事は聞いているか?」
「いや、それは初耳だ。派閥か……」

 アーレスは話が長くなりそうな予感を覚え、ストレージから椅子を取り出し腰掛けた。

「ならまず派閥の事から話すか」

 ルシファーの話によると、天界は全能神【ネクロディア】を主神とし、その下に精霊神がいる。さらにその下に戦神、魔神、人神、獣神が存在しているらしい。そしてこの四柱の下に他の神々が連なっているのだとか。

「天界もなかなか息苦しそうだな」
「ああ。それでだ、俺とヘル、そして酒呑童子は全能神に反逆し、天界の奥深くに幽閉されていたのだ」
「反逆って何をしたんだ?」

 ルシファーはしばし悩み、アーレスに言った。

「全能神は地上の民に職業を与える事を止めさせようとしている」
「……は? 職業を? なんでまた……」
「全能神いわく、人は職業があるから争うとか言ってたな」
「いやいや、そんなの関係なく人間は争うだろ。何せ欲の深さは誰にも負けないからな」
「そうだ。民から職業を取り上げた所で全くの無意味だ。そして職業を失えば救える命も救えなくなり、やがて民草は神への信仰を絶つだろう」
「恩恵がなくなったら神とか必要ないと考えるだろうな」

 ルシファーは頭を抱えながら溜め息を吐いた。

「わかってくれるか。お前でもわかった理由を全能神は理解できず地上との関わりを全て絶とうとしているのだ」
「……そうなったら神々は信仰を失い消滅してしまうだろうな」
「そこだ。我ら星神はこの星でしか信仰を受けておらん。たが全能神は違う。この星の他にもいくつかの星を担当しているからか、己はどんな事をしても消えないだろうと考え、連なる神の事を軽視しているのだ」
「……おいおい。全能神は大丈夫なのか? そんな独裁的な考えじゃ他の神に見限られるぞ」
「すでに手遅れだ。全能神は精霊神を幽閉した」
「なっ!? なんだと!? それでは職業を得られなくなるだろ!?」
「ああ。今後は精霊石を使っても祈りを捧げても職業は得られない。この星はやがて無職の民で溢れるだろう」

 職業を持たない。つまり何をするにも全て己の力で道を切り開くしかなくなる。しかも魔物という強敵が存在する世界でだ。

 以前職業が得られなくなりそうになった際、人はこぞって精霊石を狙い争った。それだけ職業は人の間に根付き、なくてはならないものになっている。

 今後はスキルが得られないと広まると、まず最初に考えられる事は今スキルを所持している者が今後持たざる者を虐げるだろうと思われる。特に困るのは人間だろう。魔族や獣人、エルフは長命な者が多い。そこでアーレスはハッと気付いた。

「……困らなくないか?」
「なに?」
「困るのは寿命の短い人間だけじゃないか。あと百年もすれば人間からスキルが消え、寿命の長い魔族や獣人が台頭できる。これまで敷いたげられてきた魔族達が恨みを晴らす時じゃないか」

 それを聞いたルシファーは玉座から立ち上がった。

「き、貴様は全能神の味方をする気かっ! 貴様に望みを託した精霊神に済まんとは思わんのかっ!」
「……精霊神から何を聞いたか知らないが、俺は最初から世界を救う気なんかないぞ?」
「貴様……!」
「俺はこの職業のせいで人生が丸っきり変わったんだ。それこそ最初に処刑されてもおかしくなかった。しかもその精霊神とやらに説明されたわけでも、何か頼まれたわけでもない。望みを託しただ? 笑わせるな。良いように使おうとしただけだろう。良いかルシファー」

 アーレスは椅子から立ち上がりルシファーを指差す。

「俺はもう誰かのために動かん。神が何をやらせたいさ知らんが俺には一切関係ない。むしろ世界から職業が消えるなら俺達にとってこれほど嬉しい事はない。あてが外れたなルシファー」
「……そうか。貴様には少なからず期待していたのだかな、どうやら思い違いだったようだ。ラフィエル」
「はっ!」

 ルシファーは隣に立つラフィエルに声を掛けた。

「天界に戻るぞ。俺らだけで精霊神を救い出す。兵を集めろ」
「あ、あの~……。私は堕天してますので天界には……」
「バカか。俺の力があるだろう。俺は神だ。堕天使と同じくくりで考えるな」
「す、すすすすすみませんでしたっ!」

 ラフィエルは慌てて部屋から飛び出し仲間を集めに向かった。

「邪魔したな。精々仲良しごっこでも楽しんでな、腑抜けが」
「挑発か? 安い挑発だ。話を持ってくる前に俺の性格を調べておくべきだったな。そしたら無駄を省けたってのによ」
「……もう貴様と話す事はない」

 そうしてルシファーは魔王城を出ていった。その後にラフィエルと堕天使軍が続き、最後尾をヘルと酒呑童子が追う。その姿をアーレスはバルコニーから見下ろしていた。

 そんなアーレスにアリアが問い掛ける。

「良いのか?」
「なにが」

 アーレスは不機嫌を面に出しながらアリアを見る。

「お主の母親が行ってしまうぞ?」
「今のあいつはヘルだ。母さんじゃない」
「ならラフィエルは? あれはお主の女じゃろ?」
「……去る者は追わん。それに新たな仲間も加わったし、まだ地上世界には色々と問題がある」
「……怖いんじゃろ?」
「あ?」
「ぐっ!」

 アーレスはアリアの胸ぐらを掴み持ち上げた。

「誰が何を怖いだと?」
「くくっ、わかっておるのてはないか? 相手は全能神、全ての神の頂点に立つ者じゃ。いくらお主とて敵わぬ相手じゃからのうっ!」

 アリアはアーレスの腕に爪を立て引き裂く。

「情けないぞアーレス!」
「なんだと?」
「お主は全能神の事を認めたわけではない! 敵わぬ相手だと考え戦いから逃げておるだけじゃ!」
「誰が逃げてるってんだ! 職業のない世界? 結構じゃないか! 人間の寿命なんざ精々百年程度、それを過ぎたら魔族や獣人、エルフ達の時代になるだろうが! それの何が悪い!」

 アーレスの言葉に間違いはない。新たな職業を持つ人間が現れなくなれば長く生きられる者が全てを支配できる未来が必ず訪れる。

「それが逃げだと言っておるのじゃ! アーレスよ、そんな与えられた世界で満足か? その未来では確実にお主の母親やラフィエルが不幸になるのじゃぞ!」
「それはあいつらが選んだ道だ! 俺には関係ない!」
「……ここまで言っても通じんか。アーレス、貴様がそんな臆病者とは思わなんだ! 貴様のような臆病者はもう必要ないっ! 早々に我が地から立ち去るがいいっ!」

 その言葉にアーレスはキレた。

「必要ないか。そこまで言うならもう未練などないっ! 出てってやるよ! 今後お前らに力を貸す事は一切ない!!」
「臆病者の力など必要ないわっ!! どこぞなり消え一人生きるが良いわっ!」
「はっ、上等だ! 吐いた唾飲むなよっ!!」

 そうしてアーレスは魔族領から飛び出し空の彼方へと消えた。

「……あそこまで言われて奮起せぬとは……。本当にわかっているのかアーレスよ。全ての職業が消えた後に待つのは全能神により抗う力を奪われた世界ぞ……! 全能神が魔族を必要ないと判断すれば妾らは消えてしまうのじゃぞっ! そんな危うい世界で幸せになれるというのかっ!」

 アリアの言葉は虚しく空に消えていくのだった。
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