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第一章 最初の国エルローズにて

第24話 尾張の大うつけ

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 翌朝、総一朗はメーネに店を任せ、西にあるフランツ領へと向かった。

「織田信長か。間違いなく強敵だ。俺に勝てるか……」 

 少々の不安を感じつつ、総一朗は西へと駆けた。朝からおよそ半日ほどかけフランツ領に入る。そして最初の町を見て総一朗は絶句した。

「……ひでぇな」

 町は痩せ細った住人が俯きながら歩いていた。大人も子供も老人も、全ての民が生気を失っていた。

「確か重税とか言ってたな。ここの領主はそんなに金を集めて何をする気なんだろうな。ま、どうでも良いか」

 総一朗は路地に座り込んでいる町人にチップを渡しスラムの場所を聞き出す。

「き、金貨なんて! い、良いのか?」
「ああ、気にするな。それで飯でも食ってこいよ」
「ありがてぇ……ありがてぇ~……」

 どうやら食う金もなかったらしい。男は金貨一枚を握りしめ屋台へと向かっていった。するとそれを見ていた他の町人達も総一朗の周囲に集まってきた。特に多かったのが女子供だ。

「兄ちゃん、俺達もう何日も水だけなんだ……。俺達にもお金くれよぉ……」
「あぁ? ったく、仕方ねぇな。全員ついてこい」

 総一朗は町人を引き連れ屋台の並ぶ場所に向かう。

「へいらっしゃい」
「店主、こいつらにこれで腹一杯食わせてやってくれ」
「へ? こ、ここここここれはっ!?」

 総一朗は全ての屋台の店主に虹金貨を一枚ずつ渡した。

「に、虹金貨ぁぁっ!? こ、困るぜ! 釣りがねぇよ」
「釣りはいらん。食いにきた奴に振る舞ってやれ。材料がなくなったら市場から買え」

 すると店主の一人が総一朗に尋ねた。

「あ、あんたこの町の人間じゃないだろ? なんでそこまで……」
「飢えってのは一番苦しいからだよ。可哀想じゃねぇか、あんなに痩せちまってよ。まぁこれはただの偽善で解決にはならねえが、一時を凌ぐ事はできるだろ。今を凌げば俺が何とかしてやる。だから腹一杯食わせるんだ」
「あ、あんた……。わかったよ、金はもらったからな。お~い、あんたら! 腹一杯食わせてやるから並びな!」
「「「「ご、ご飯だ!!」」」」

 一瞬で屋台の前に大行列ができた。店主達は大急ぎで調理し、町人達に配っていた。

「あぁぁ……お肉なんていつぶりかしら……うっうっ」
「はぐはぐはぐはぐ!」

 総一朗はそれを見届け、スラムへと向かった。

 スラムは町外れにあった。外壁が新しい事からここ数年でできた場所だと思われる。スラムは外壁に囲まれ完全に町から隔絶されていた。

「見張りがいるな」

 スラムへと入る入り口には門番らしき人物が二人並んで立っていた。総一朗は特に気を入れるでもなく、普通に入り口へと近づく。

「止まれ、この先はスラムだ。何か用か?」
「スラムに用って言うか、お前らの頭に用があるんだが」
「頭に? 何の用だ」
「そうだな。こう伝えてくれ。『明智光秀は三日天下だった。その先を知りたくないか』とな」
「はぁ? なんだそりゃ?」
「ちっ、ちょっと待て」

 総一朗は皮用紙に今の文章をしたため男に渡した。

「そいつを渡してくれ。俺はここで待つ」
「中に入らないならまぁ……。少し待ってろ」

 そう言い、男が一人奥へと駆けていった。そして残った男の一人が総一朗を上から下まで見る。

「もしかして殿の知り合いか? 似たような服を着ているが……」
「いや、俺が一方的に知っているだけだ。あっちは俺の事なんて知らねぇよ」
「ふ~ん……。とにかくだ、おかしな真似はするなよ?」
「わかってんよ」

 しばらく待つと奥へと向かった男が血相を変え戻ってきた。

「はぁっ、はぁっ! と、殿が会いたいそうだっ! お、俺についてきてくれっ」
「わかった」
「ほ~。殿が会いたいなんて珍しいな」
「そうなのか?」
「は、早くしろ! い、いやして下さい。俺が殿に斬られちまう」
「はいはい」

 総一朗は男についてスラムに入った。スラムにはあばら家がいくつも建ち並び、路上も狭い。身を隠すには十分過ぎる環境だ。そうして奥へと進むと突き当たりにしっかりとした建物が見えた。

「ここから先は一人で来いだそうだ。さあ、行け」
「ありがとよ」

 総一朗は男に礼を言い扉を開く。外観とは違い中は和風、どうやって入手したかはわからないが畳が敷かれていた。

「凄ぇな、畳かよ。この世界で初めて見たぜ。まさか極東の物か?」

 総一朗は久しぶりの畳に感動し、草履を脱ぎ畳に上がった。

「ほ~う、土足で上がらん所を見るに……主の話は本当のようだな」
「……は?」

 奥の暗がりに畳が積み上げられ、そこに声の主が鎮座していた。

「間抜けな顔をするな。話がしたい。ちこう寄れ」
「いやいやいや、待て待て! お前が織田信長!?」
「む? 何かおかしいか?」

 ゆっくりと前に進むと鮮明に姿が見えた。

「ワシが信長よ」
「お、俺の知ってる信長じゃねぇっ!?」

 上座に鎮座した人物は着物を着崩しキセルを咥えていた。それだけならまだわかる。だがその人物は義経と似た背格好をした少女だった。

「この語り野郎が。俺の知る信長は男だ! 死んだのは四十七歳だ。姿絵とまるで別人じゃねぇか」
「かっかっか! 確かにワシは男だ。ワシは主の知るように本能寺で死んだ。だがな、ワシの魂は死ななかったのよ。ワシの魂は仏の手によりこの世界に移されたのだ」
「そうか! この世界で新たに生まれ変わったのか!」
「当たりだ。で、主は何者だ? なぜワシの事を知っておる。死にたくなければ全て話せ」
「うっ!」

 信長からありえないくらいの殺気が放たれた。

「ほう、ワシの殺気に耐えるか」
「ふん、俺だって伊達に死線は潜っちゃいねぇ。舐めるなよ、天下人さんよ」
「かっかっか! すまぬ、試した。では話をしてもらおうか」
「……ちっ、性格わりぃぞ」
「かっかっか!」

 笑う信長の前に腰を落とし、総一朗は話を始めるのだった。 
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