上 下
21 / 63
第一章 最初の国エルローズにて

第21話 情報収集

しおりを挟む
 一ヶ月、総一朗は酒を提供しながら今いるこの国について様々な情報を集めた。そして店が休みの日、義経と弁慶を部屋に呼び話し合いの機会を設けた。

「いきなり集めてどうした?」
「まぁ聞け。この一ヶ月でだいぶ情報が集まったからな。それらをまとめてみたんだ」

 すると義経の表情が真面目なものへと変わった。

「……集めたって事は、もしかしてあまり良い国ではないと?」
「さすが義経だな。その通りだ。まず、この国は【エルローズ王国】って国なんだが……。正直この国の王は無能だ」

 総一朗の言葉に弁慶が返す。

「無能だと? 例えば?」
「そうだな、聞いた話だがこの国は六つの領地にわかれ、そこを各藩主……じゃなかった、領主が治めている。その六つが【フランツ領】、【コルセット領】、【バルドロア領】、【ミュンセット領】、【ガイアス領】、【フェルナンド領】だ。俺達のいる領がフェルナンド領、国王【グレン・エルローズ】の義弟、【フラム・フェルナンド公爵】が治めている」
「ふむ」
「この領地とバルドロア、ガイアス、ミュンセットは問題ない。問題があるのはまずフランツ領だ。この領地は税が高く、野盗が横行しているらしい。しかもその野盗を裏で操っているのがフランツ領領主【ゴーレン・フランツ伯爵】との噂だ」
「領主が自ら犯罪に加担しているだと? 救えんな」
「ひどい……」

 弁慶は呆れ、義経は民に同情している。

「次にコルセット領。ここの領主【ドーン・コルセット侯爵】はまさにクズだ。領内で美しい女を見つけると何かしら罪を捏造し、罰と称して自分のモノにしちまうんだと」
「なんだとっ!?」
「ゆ、許せないっ!」

 これには二人とも怒りを露にした。

「配置はこのフェルナンド領を中心に、南から左回りにガイアス、フランツ、ミュンセット、バルドロア、コルセットだ。フェルナンドには王都があり、そこに王城がある。王もそこに住んでいる。王もこの二つの領地に問題がある事は知っているが、なぜか動かない」
「その辺りの噂はないのか?」
「あるにはあるが……眉唾だな。フランツ伯爵は見逃してもらう代わりに金を渡し、コルセット侯爵は奴隷を渡しているとか……。そんなもので王が見逃すか? もしそれで見逃しているなら公爵が許さんだろ。公爵は人格者らしいからな」
「ふ~む……」

 するといきなり義経が立ち上がった。

「許せない! 特にコルセット侯爵! 女をなんだと思っているんだ! 弁慶、成敗に参るぞ!」
「はっ!」
「待て待て! 何する気だ」
「もちろん侯爵の首を──」
「阿保」
「あいたっ」

 総一朗は興奮する義経の頭に手刀を落とした。

「な、なにを!」
「良いか、仮にも相手はこの国の貴族様だぞ。もし手を出そうものなら国家反逆罪、お尋ね者だ。今後一生のんびり暮らすなんてできなくなっちまうぞ」
「でもっ!! なんの罪もない女性を食いものにするなんて許しておけないっ!」
「それに相手は国を守る貴族、屋敷の警備も厳重だろう。それをたった二人で相手にするだ? 無理に決まってんだろ」
「それは……でも悔しいっ! 悪人がいるのに裁けないなんて」

 そんな時だった。

「そ、総一朗さんっ! お、お母さんが! お母さんがぁぁぁぁぁっ!」
「ターニャ? ど、どうした?」

 突然ターニャが泣きながら店に飛び込んできた。

「ひぐっ、ぐすっ」
「ターニャ、泣いてちゃわからん。メーネさんがどうした」
「うぅぅぅっ、お母さん……コルセット侯爵の部下の人達に連れて行かれちゃったのっ」
「なっ!? なにぃぃぃぃっ!! 何時だ!!」
「い、今! さっき村を出て──え?」

 その場にはもう総一朗の姿はなかった。弁慶と義経は顔を見合せ笑った。

「さて、我らはどうしますか?」
「当然、侯爵の部下を皆殺しにした総一朗にバカな真似を~って言いに」
「はっはっは。それは良い。では参りますか」
「うんっ。ターニャはここで待っててね。お母さんは必ず連れて帰るから」
「う、うんっ。お願い……しますっ!」

 その頃、村を疾走する総一朗は村の出口の辺りで連行されていくメーネの姿を確認していた。

「テメェラァァァァァァァァッ!! 誰の女に触ってんだゴラァァァァァァァッ!!」
「あん? はれ……」
「総一朗さんっ!!」

 総一朗は疾走したままメーネを掴んでいた男の首と腕を斬り落とし、勢いそのままメーネを抱えて男達の中を駆け抜けた。そして振り向くと男の首が地面に転がり、胴体からは血が噴出していた。

「た、隊長っ!? き、きさまぁぁぁぁぁぁっ!!」
「五月蝿ぇよ。お前ら生きて帰れると思うなよ。皆殺しだ」
「あぁっ!? 俺達はコルセット侯爵の私兵だぞっ! 俺達に逆らったらどうなるか──」

 総一朗はメーネを抱えながら言った。

「ちょっと待っててくれ。終わったら一緒に帰ろうな」
「総一朗さん……ごめんなさいっ」
「大丈夫だ。怖いなら目を瞑ってな」
「は、はい……」

 総一朗は刀を構え男達に向き直った。

「死ね」
「あぁっ!? 良いのか! 反逆罪になるぞ!」
「知った事か。領主ごと殺ったらぁっ! いくぜ……【神速】」
「き、消え──ぎあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 総一朗は一瞬で男の懐に入り銅を真っ二つにした。

「こいつっ! つえぇ──がはぁっ!?」
「ぎあぁぁぁぁっ!!」
「ぐぼっ!?」

 男達は何が起きたかわからないままその命を散らしていった。

「ひ、ひぃぃぃぃっ! ば、化け物……」
「あぁん!? てめぇで最後だ。くたばれや」
「ひっ、いぎあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 総一朗は地を這い逃げる男の首を刀で一突きし、絶命させた。そして男達の死体を山積みにし、魔法を使う。

「【プチファイア】」

 男達の死体は火に包まれ炭と化した。そこに笑顔の弁慶と義経がやってきた。

「こら、反逆罪だぞ総一朗」
「お尋ね者だぞ、総一朗」
「ふん、知るか。俺の女に手を出したこいつらが悪い。っと、メーネ」

 総一朗はメーネに駆け寄った。

「総一朗さん……、私のせいで……!」
「なぁに、大丈夫だ。メーネのためなら朝飯前よ。さ、帰ろうな。ターニャも待ってるぜ」
「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 総一朗は涙を流し安堵するメーネを抱え店に戻った。道すがら弁慶達に冷やかされたのは言うまでもない。

「ドーン・コルセットを処す。一族郎党皆殺しだ」
「相手は貴族だから手は出さないんじゃなかったのか?」
「関係ない。奴は俺を怒らせた」
「三人で行く?」
「いらん。俺一人で十分だ。お前らは店とメーネ達を守っててくれ」

 総一朗は眠るメーネの頬を一撫でし、入り口に向かった。

「なるべく早くな。酒がなくなる」
「おう、すぐ戻る。村を頼むぜ」
「任せてよ、いってらっしゃい!」

 総一朗はニヤリと笑い黒い着物をはためかせ村を出るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルは見るだけ簡単入手! ~ローグの冒険譚~

夜夢
ファンタジー
剣と魔法の世界に生まれた主人公は、子供の頃から何の取り柄もない平凡な村人だった。 盗賊が村を襲うまでは…。 成長したある日、狩りに出掛けた森で不思議な子供と出会った。助けてあげると、不思議な子供からこれまた不思議な力を貰った。 不思議な力を貰った主人公は、両親と親友を救う旅に出ることにした。 王道ファンタジー物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

素質ナシの転生者、死にかけたら最弱最強の職業となり魔法使いと旅にでる。~趣味で伝説を追っていたら伝説になってしまいました~

シロ鼬
ファンタジー
 才能、素質、これさえあれば金も名誉も手に入る現代。そんな中、足掻く一人の……おっさんがいた。  羽佐間 幸信(はざま ゆきのぶ)38歳――完全完璧(パーフェクト)な凡人。自分の中では得意とする持ち前の要領の良さで頑張るが上には常に上がいる。いくら努力しようとも決してそれらに勝つことはできなかった。  華のない彼は華に憧れ、いつしか伝説とつくもの全てを追うようになり……彼はある日、一つの都市伝説を耳にする。  『深夜、山で一人やまびこをするとどこかに連れていかれる』  山頂に登った彼は一心不乱に叫んだ…………そして酸欠になり足を滑らせ滑落、瀕死の状態となった彼に死が迫る。  ――こっちに……を、助けて――  「何か……聞こえる…………伝説は……あったんだ…………俺……いくよ……!」  こうして彼は記憶を持ったまま転生、声の主もわからぬまま何事もなく10歳に成長したある日――

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

処理中です...