僕の名前を

Gemini

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第二章 恋愛と友愛

第四話

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「ごめん、遅れた」

 リビングのソファで待ってる俺に慌てて部屋から出てきた巴は真っ白なオーバーシャツとブラックデニム。

 巴の私服を久しぶりに見た。もしかしたら顔合わせ以来かもしれない。あのときは畏まった格好だったが、これはまた新鮮でいい。
 俺は先にコンビニに寄り巴にICカードを出させるとそれにお金をチャージしバス停に向かう。あと5分でやってくる。間に合った。巴はただ言われるがまま俺にカードを出すし、後を付いてくる。そしてようやくバス停で俺に聞いてきた。

「それで、どこ行くの?」
「バスで15分くらいかな」
「まだ秘密にしたいの?」
「まぁね」

 巴は不愉快だろうなと思うがきっと話してしまったら絶対断られる。だから到着するまで秘密だ。俺がにっこり笑ってみせれば巴はもうなにも聞いてこなかった。バスが来る方向をただ見ていた。


 到着したのはIKEA。巴は目をぱちくりさせている。

「巴に本棚買ってやりたくて」
「え? 僕の買い物? ……別にいらないよ、なくても困らないし」
「ちゃんと予算は貰ってる、ママも本棚ないの気にしてたから、気にいったの買ってきてってよ」
「……」

 母親に気を遣ってる巴だけど、ひとの好意を受け取らないということもまた傷付けていると学んだようだ。口には出さないが反論しないのはその証拠と受け止める。

 黙る巴の手を取って中に進んだ。上りのエスカレーターに乗せてようやくその手を離した。俺より一段上に立つ巴。少し汗ばんだ巴の項を見上げていると、思わず唾液が分泌されてしまいゴクリと唾を飲んだ。襟足を伝う汗が色っぽくて、健全な高校生には刺激が強めでクラクラしてしまう。俺は髪をかきあげて大きく息を吸い気持ちを切り替える。

 するとふいに巴が振り返って目が合う。

「長政は、ここ、来たことあるのか?」
「え? あぁ、うん、よく来てた」
「そうか」

 麻里によく連れて行かれた。このクッションかわいいとか、くまのぬいぐるみをかわいいとか言って抱き締めてたっけ。自分褒めてのアピールタイムだったな。

 二階にあがるとショールームのように実例を兼ねて家具がセットされ、ひとつひとつコンセプトに沿ってたくさんのコーディネートが紹介されている。

「本棚はどこにある?」

 巴は本棚のコーナーを想像しているのかもしれないな。

「……なんで笑ってんの」
「いや、ほら、ひとつずつ見てこうよ、せっかく来たんだからさ」

 巴の背中を押して独り暮らしがコンセプトのコーナーに入る。

「この本棚どう?」
「ちょっと大きくない?」
「そう?」
「うん、もっとちいさくていいよ」

 次は二人暮らしのコーナーに入ると二人がけの大きなソファに座った。柔らかめの体を包んでくれるようだった。

「長政はデカイから海外のソファのほうが合ってるね」
「確かに、これ落ち着く、ほら巴も……」

 巴の手首を引っ張り隣に座らせると体勢を崩しながら巴がドサリとソファに座り肩と肩が触れる。巴の耳がほんのり赤くなって巴の柑橘の香りふわりと漂った。

「なぁ、巴」
「ん?」
「巴はなんの香水つけてんの?」
「は? 香水なんてつけないし」

 巴は自分のシャツを指先で摘んでクンクン嗅いだ。ってことはやっぱ巴自身の香りなんだな……。

「な、がまさ?」

 俺は巴の肩にシャツの上から甘噛みしてた。

「なにしてんの……?」
「……巴のこと食っていい?」
「はぁ?!」

 慌ててソファから立ち上がろうとするが座面がふわふわ過ぎてなかなか腰が上がらずバタバタしてる巴の腰を後ろから抱き締めて引き寄せた。

「……やめろって」
「やだ」

 暴走してるのは分かってる。……けど、少しだけ満たされたい。

 トットットッ……巴の鼓動が伝わってきた。巴をチラッと見ると頬がピンクで恥ずかしさを隠しきれていないのに一応涼しい顔をして固まっていた。
 そんな巴の後ろにはダイニングテーブルが見える。テーブルの上にはコーディネートされたカトラリーたちがセットされている。
 あそこに巴が座って、俺の作ったオムライスを向かい合って食べんだ。野菜がねえじゃんって巴に突っ込まれないようにサラダも作ろう。

「……ねぇ、俺達引っ越したら毎日一緒にごはん作ろうね」

 俺はこんなロマンチックな男じゃなかったはずだよな。自分で言ってて笑うと巴はこっちを向いていて、また泣きそうな顔をしてる。




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