15 / 18
先輩
最終話
しおりを挟む
──十二月
井上は、試験に落ちた。
結果がどうであれ、クリスマスは井上のために手料理を振る舞う約束をしていた僕は部屋でステーキを焼いている。そろそろ着くというメッセージを貰ったからだ。
井上の好物のポテトサラダに、アボカドとクリームチーズをあえたやつ。それに帆立とサーモンのカルパッチョに具だくさんのポトフ。
そして、井上がクリスマスケーキを買ってきてくれることになっている。井上はスイーツが大好きで、ケーキにとても詳しい。
ピンポーンと、インターフォンが鳴る。
「はいはい、今開けるよ」
画面には太陽のような満面の笑みをした愛おしい人が映る。
「おかえり! 今日はすごく寒いね!」
「ほんと、あ! すげーいい匂い」
「ステーキ焼けたところだよ」
「うわー、腹ぺこなんすよぉ」
ケーキを冷蔵庫に仕舞って、テーブルに付いた。
「先輩、めっちゃ頑張ってくれたんすね、ありがとうございます」
「クリスマスだからね」
井上は、スマホで料理の写真を撮り始めた。「先輩こっち向いて」井上が嬉しそうで少し安心する。
一級建築士の試験はそもそも難関。井上はまた来年チャレンジしますと落ち込む様子は無かったが、大学を卒業してから約三年試験勉強してきたと思うと落ち込まないわけはない。
「クリスマスを先輩と過ごしてるって、なんか不思議ですよ」
「うん、僕も」
「へへ。先輩も嬉しそう」
「もちろん、嬉しいよ。というか、ワクワクするね、こんなクリスマスを過ごすのは初めてだから」
「オレもクリスマスをばあちゃんとか友達以外と過ごしたことなかったからほんとに、ありがとうございます」
ばあちゃん。
確か亡くなった両親に代わって育ててくれたのはおばあさんだったと入社頃に聞いたことがあった。
「他になにかある? したいこととか、したかった憧れとか?」
「じゅーぶんです。先輩が居てくれますし」
「ん……」
「先輩、おかわり、あるんですか?」
「え? まだ食べてもいないのに! うん。沢山あるよ」
「よっしゃ! んじゃ! いただきます!」
「はい。いただきます。それと乾杯ね」
「うす」
シャンパングラスを合わせた。
お腹いっぱい食べて、切り分けたケーキを持ってリビングに移る。ソファには座らず床に座ってソファに凭れた。テレビはサブスクのクリスマス特集で選んだ映画が流れている。
「先輩、来年は絶対受かるんで」
「うん、でも気負うなよ? 僕だって三回落ちてる」
「オレは二回で受かりたいなぁ」
「生意気だなぁ」
来年か……。今年もあと一週間もしないうちに終わってしまう。
今年は井上との関係が変わった。
身体の関係とかないし、キスも試験に落ちたからあの約束も保留になってる。だからまだ一回しかしてない。
けれど、気持ちは大きく変化した。会社以外で、井上は僕への気持ちを隠さなくなった。以前より僕を甘やかすようになって僕はこの数週間で三キロ太ってしまったくらいだ。
「でも、今年受かりたかったです。そうすればもっと良いクリスマスになっただろうし、気分良く年越しもできたのに」
ケーキにフォークを刺しながら、ふと井上の本音が出た。
「そんなこと、考えないでいい」
「でも……」
肩を落とす井上の肩に手を置いて優しく擦る。
「井上」
「……はい」
すっかり落ち込んでる井上の名を呼んでこちらを向かせる。
そして男らしく張り出した顎に手を添えると、井上の唇に自身の唇を合わせた。
「せ……」
驚いたまま固まっている井上に、向きを変えてもう一度だけキスをした。
「試験、落ちたのに……慰めのキス?」
「僕がしたいからだよ」
間近で絡む視線に、鼓動が跳ねる。
「もう一回、してい?」
答える間もなく熱い唇に塞がれた。
「ン───────……」
「先輩…………っ」
ベットに運ばれる。触れるだけのキスとは違って、井上のキスは口内を乱していく深いキスだった。井上のふわふわの癖っ毛を撫でながら、井上の心音を聞いていた。
井上の執拗な攻めにたまに必死にしがみついて、奥まで突き上げられると背中に爪を立ててしまった。
息が苦しくなるほどに貪るようなキスをされその容赦のなさに胸が震える。
「あ────……っ、ぃ……っ」
腰を強く掴まれて内壁を擦られると目の前がチカチカとしてくる。
「ンァ────……っ! うう……っ」
突かれるたびに声が溢れた。井上の大きな手のひらが全身に触れて、体の中は熱く擦られる。体に力が入らない。太ももが震えはじめて僕は勝手に吐精した。
「井上……、ごめ……」
「先輩、謝んないでいいよ……」
ぽたりと井上の汗が落ちる。腹のナカにはまだ井上がいる。
「オレこそすいません。まだやめられないから……」
井上は余裕なくつぶやいた。僕は井上の汗を拭ってやると、それを返事だと思った井上がグンと奥に入った。
「ン──……っ」
「先輩、きもちい……? ねぇ、先輩……先輩……っ」
ナカを擦りつけられながら名前を呼ばれて、そのたびに僕は頷きながら井上を抱きしめることしか出来なかった。
「先輩、好き、……好きです」
カーテンの隙間から朝日が入って微睡みにいる僕を優しい冬の太陽が照らす。
「先輩……」
その切なく呼ぶ声はどこから聞こえるのか。背中に体温を感じて少しだけ振り返ると伸びてきた腕に抱き締められた。
「先輩、ごめんなさい。無理させた……」
肩口に井上の息がかかった。
「気にすんな、これくらい」
井上が求めてくれるなら、いくらでも受け止めたい。井上の気持ちに応えたい。そうでないと、自分が不安になるくらいになっていた。年の差も否応なしに感じてしまうし。
「井上、もっと、しようか」
「駄目です、先輩」
「……」
「無理して明日出来ないとか嫌なんで」
「あした……?」
「今日無理して数日できないとか、そっちのがヤダ」
「毎日する気なんだ……」
「うス」
「こえぇ……」
「これからしようとする先輩のが、怖いッスけど」
おわり。
井上は、試験に落ちた。
結果がどうであれ、クリスマスは井上のために手料理を振る舞う約束をしていた僕は部屋でステーキを焼いている。そろそろ着くというメッセージを貰ったからだ。
井上の好物のポテトサラダに、アボカドとクリームチーズをあえたやつ。それに帆立とサーモンのカルパッチョに具だくさんのポトフ。
そして、井上がクリスマスケーキを買ってきてくれることになっている。井上はスイーツが大好きで、ケーキにとても詳しい。
ピンポーンと、インターフォンが鳴る。
「はいはい、今開けるよ」
画面には太陽のような満面の笑みをした愛おしい人が映る。
「おかえり! 今日はすごく寒いね!」
「ほんと、あ! すげーいい匂い」
「ステーキ焼けたところだよ」
「うわー、腹ぺこなんすよぉ」
ケーキを冷蔵庫に仕舞って、テーブルに付いた。
「先輩、めっちゃ頑張ってくれたんすね、ありがとうございます」
「クリスマスだからね」
井上は、スマホで料理の写真を撮り始めた。「先輩こっち向いて」井上が嬉しそうで少し安心する。
一級建築士の試験はそもそも難関。井上はまた来年チャレンジしますと落ち込む様子は無かったが、大学を卒業してから約三年試験勉強してきたと思うと落ち込まないわけはない。
「クリスマスを先輩と過ごしてるって、なんか不思議ですよ」
「うん、僕も」
「へへ。先輩も嬉しそう」
「もちろん、嬉しいよ。というか、ワクワクするね、こんなクリスマスを過ごすのは初めてだから」
「オレもクリスマスをばあちゃんとか友達以外と過ごしたことなかったからほんとに、ありがとうございます」
ばあちゃん。
確か亡くなった両親に代わって育ててくれたのはおばあさんだったと入社頃に聞いたことがあった。
「他になにかある? したいこととか、したかった憧れとか?」
「じゅーぶんです。先輩が居てくれますし」
「ん……」
「先輩、おかわり、あるんですか?」
「え? まだ食べてもいないのに! うん。沢山あるよ」
「よっしゃ! んじゃ! いただきます!」
「はい。いただきます。それと乾杯ね」
「うす」
シャンパングラスを合わせた。
お腹いっぱい食べて、切り分けたケーキを持ってリビングに移る。ソファには座らず床に座ってソファに凭れた。テレビはサブスクのクリスマス特集で選んだ映画が流れている。
「先輩、来年は絶対受かるんで」
「うん、でも気負うなよ? 僕だって三回落ちてる」
「オレは二回で受かりたいなぁ」
「生意気だなぁ」
来年か……。今年もあと一週間もしないうちに終わってしまう。
今年は井上との関係が変わった。
身体の関係とかないし、キスも試験に落ちたからあの約束も保留になってる。だからまだ一回しかしてない。
けれど、気持ちは大きく変化した。会社以外で、井上は僕への気持ちを隠さなくなった。以前より僕を甘やかすようになって僕はこの数週間で三キロ太ってしまったくらいだ。
「でも、今年受かりたかったです。そうすればもっと良いクリスマスになっただろうし、気分良く年越しもできたのに」
ケーキにフォークを刺しながら、ふと井上の本音が出た。
「そんなこと、考えないでいい」
「でも……」
肩を落とす井上の肩に手を置いて優しく擦る。
「井上」
「……はい」
すっかり落ち込んでる井上の名を呼んでこちらを向かせる。
そして男らしく張り出した顎に手を添えると、井上の唇に自身の唇を合わせた。
「せ……」
驚いたまま固まっている井上に、向きを変えてもう一度だけキスをした。
「試験、落ちたのに……慰めのキス?」
「僕がしたいからだよ」
間近で絡む視線に、鼓動が跳ねる。
「もう一回、してい?」
答える間もなく熱い唇に塞がれた。
「ン───────……」
「先輩…………っ」
ベットに運ばれる。触れるだけのキスとは違って、井上のキスは口内を乱していく深いキスだった。井上のふわふわの癖っ毛を撫でながら、井上の心音を聞いていた。
井上の執拗な攻めにたまに必死にしがみついて、奥まで突き上げられると背中に爪を立ててしまった。
息が苦しくなるほどに貪るようなキスをされその容赦のなさに胸が震える。
「あ────……っ、ぃ……っ」
腰を強く掴まれて内壁を擦られると目の前がチカチカとしてくる。
「ンァ────……っ! うう……っ」
突かれるたびに声が溢れた。井上の大きな手のひらが全身に触れて、体の中は熱く擦られる。体に力が入らない。太ももが震えはじめて僕は勝手に吐精した。
「井上……、ごめ……」
「先輩、謝んないでいいよ……」
ぽたりと井上の汗が落ちる。腹のナカにはまだ井上がいる。
「オレこそすいません。まだやめられないから……」
井上は余裕なくつぶやいた。僕は井上の汗を拭ってやると、それを返事だと思った井上がグンと奥に入った。
「ン──……っ」
「先輩、きもちい……? ねぇ、先輩……先輩……っ」
ナカを擦りつけられながら名前を呼ばれて、そのたびに僕は頷きながら井上を抱きしめることしか出来なかった。
「先輩、好き、……好きです」
カーテンの隙間から朝日が入って微睡みにいる僕を優しい冬の太陽が照らす。
「先輩……」
その切なく呼ぶ声はどこから聞こえるのか。背中に体温を感じて少しだけ振り返ると伸びてきた腕に抱き締められた。
「先輩、ごめんなさい。無理させた……」
肩口に井上の息がかかった。
「気にすんな、これくらい」
井上が求めてくれるなら、いくらでも受け止めたい。井上の気持ちに応えたい。そうでないと、自分が不安になるくらいになっていた。年の差も否応なしに感じてしまうし。
「井上、もっと、しようか」
「駄目です、先輩」
「……」
「無理して明日出来ないとか嫌なんで」
「あした……?」
「今日無理して数日できないとか、そっちのがヤダ」
「毎日する気なんだ……」
「うス」
「こえぇ……」
「これからしようとする先輩のが、怖いッスけど」
おわり。
139
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
記憶喪失の君と…
R(アール)
BL
陽は湊と恋人だった。
ひねくれて誰からも愛されないような陽を湊だけが可愛いと、好きだと言ってくれた。
順風満帆な生活を送っているなか、湊が記憶喪失になり、陽のことだけを忘れてしまって…!
ハッピーエンド保証
浮気性のクズ【完結】
REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。
暁斗(アキト/攻め)
大学2年
御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。
律樹(リツキ/受け)
大学1年
一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。
綾斗(アヤト)
大学2年
暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。
3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。
綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。
執筆済み、全7話、予約投稿済み
俺はすでに振られているから
いちみやりょう
BL
▲花吐き病の設定をお借りしている上に変えている部分もあります▲
「ごほっ、ごほっ、はぁ、はぁ」
「要、告白してみたら? 断られても玉砕したら諦められるかもしれないよ?」
会社の同期の杉田が心配そうに言ってきた。
俺の片思いと片思いの相手と病気を杉田だけが知っている。
以前会社で吐き気に耐えきれなくなって給湯室まで駆け込んで吐いた時に、心配で様子見にきてくれた杉田に花を吐くのを見られてしまったことがきっかけだった。ちなみに今も給湯室にいる。
「無理だ。断られても諦められなかった」
「え? 告白したの?」
「こほっ、ごほ、したよ。大学生の時にね」
「ダメだったんだ」
「悪いって言われたよ。でも俺は断られたのにもかかわらず諦めきれずに、こんな病気を発病してしまった」
偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜
白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。
しかし、1つだけ欠点がある。
彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。
俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。
彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。
どうしたら誤解は解けるんだ…?
シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。
書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。
初恋の公爵様は僕を愛していない
上総啓
BL
伯爵令息であるセドリックはある日、帝国の英雄と呼ばれるヘルツ公爵が自身の初恋の相手であることに気が付いた。
しかし公爵は皇女との恋仲が噂されており、セドリックは初恋相手が発覚して早々失恋したと思い込んでしまう。
幼い頃に辺境の地で公爵と共に過ごした思い出を胸に、叶わぬ恋をひっそりと終わらせようとするが…そんなセドリックの元にヘルツ公爵から求婚状が届く。
もしや辺境でのことを覚えているのかと高揚するセドリックだったが、公爵は酷く冷たい態度でセドリックを覚えている様子は微塵も無い。
単なる政略結婚であることを自覚したセドリックは、恋心を伝えることなく封じることを決意した。
一方ヘルツ公爵は、初恋のセドリックをようやく手に入れたことに並々ならぬ喜びを抱いていて――?
愛の重い口下手攻め×病弱美人受け
※二人がただただすれ違っているだけの話
前中後編+攻め視点の四話完結です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる