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224 これ、返品です!

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 カムハン皇宮、ハブライ皇帝は超いら立っていた。

戦に備え蓄えていた、宝物庫の財宝はすっからかん。

領主貴族や商人に、緊急で財貨を請求しても、何かと口実を設けて送ってこない。

客観的に考えたら、無理もないことだ。国を広げるため、今まで相当以上に無理をさせていたのだから。

ましてや、国家の最大戦力、ヤン将軍が、はっきり反旗を翻した。
リュウ将軍も、乾城から動かない。

そして、あろうことか、皇都防衛の要であるカン将軍も、軍をまとめ自分の領地に帰った。

国の有力者が、なりゆきを見守るのは当然だ。

「陛下」
 近衛隊長が、真っ青な顔で玉座の前にひざまずく。

「なんだ!」
 すっかり憔悴した皇帝は、とがった声で聞く。

近衛隊長の表情から、ろくな知らせでないことは分かっている。

「リュウ将軍が、皇都に向けて進軍を始めました。
ヤン将軍も、ゆっくり進軍を続けております。
二将軍に抵抗する領主は皆無です。
むしろ二将軍の兵力は増すばかり。
まことに申し上げにくいですが、陛下の身を隠す手立て、お考えになった方がよろしいかと……」
 皇帝は隊長をにらみつけた。だが、言葉は出ない。

「守りの戦力は?」
 皇帝は激情を強いて抑え、そう聞いた。

「皇都より離散し、カン将軍の元へ走る兵、数知れず。
二千、といったところでございましょうか」

「そうか……。さがれ」
 皇帝は、己の命運が尽きたことを悟った。

身を隠す手立て? 

そんなもの、あるわけがない。あったとしても、それでどうなる? 

皇帝は玉座から立って、執務室へ向かった。

二時間後近衛隊長は、毒酒をあおり、息絶えた皇帝を発見した。


 一週間後。ヤン将軍と二将軍は皇宮に入場。抵抗する兵は皆無。三将軍が進軍する際、一度も兵同士の戦闘はなかった。「謎の魔導師軍団」が、城や砦に「巨大つらら」をプレゼントしたら、あっけなく恭順。

 驚くべきことに、皇帝以外一滴の血を流すことなく、クーデターは終わった。もちろん、三将軍の圧倒的軍事力と、皇帝が無茶な徴収を続けたことも要因だ。

 俊也はユーノとパトランを連れ、皇帝謁見の間へ転移。善後策を話し合っていた一同は仰天する。

「次期皇帝、この度の戦勝、まことにおめでとうございます」
 俊也は恭しくことほぐ。

「相変わらずいきなりだな……。
悪だくみをしたら、ゆるさね~ぞ、ということか?」
 次期皇帝は、苦笑して玉座を降りた。

「現在の領地でご満足いただけたら、悪だくみとは思いません。
勝手にやってください」
 俊也の言葉は、次期皇帝に、きわめて非礼にあたるが、誰も気にする者はいない。気にしちゃダメ、と身に染みてわかっている。

「俊也殿、どれほど礼を尽くしても及ばない。
無血で皇帝になれる。
このとおり!」
 次期皇帝は、俊也の両手を取り、深く頭を下げた。

「皇帝たるもの、そのように軽く頭を下げてはいけませんよ。
残りの財貨だけは、宝物庫に返しておきました。
あ、それと、返品しろと嫁たちに言われた薄い本も」

「薄い本?」
「薄い本は薄い本です。
なかなかの逸品ですよ。
ユーノ、イスタルトの御隠居の出店計画を」
 
 俊也の指示に応え、ユーノがアルスショッピングモール出店計画を説明する。

「それはスゲーな……」
 ヤンはあきれる。そんなの大成功間違いなしじゃん!

「カムハンの輸出できる産品をまとめておいてください。
では……」
 俊也はユーノに目配せ。ユーノは一つうなずき、転移魔法陣を描く。
 俊也とパトランを館に送る。

「夫のぶしつけなふるまい、お許しください。失礼します。
転移!」
 最後にユーノの姿が消えた。

「あいつ、相変わらず愛想ねえな……。
手柄、もっと主張しろや!」
 そう言って、ヤンは爆笑した。周囲の者は、愛想笑いするしかなかった。
 だって、怖いんだもん! 次期皇帝ではなく、あの魔導師たちが。

 一時間後。
「なんだこれ!
いや、返品するしかねえか……。
あいつの嫁たち、おっかねえもんな……」
 次期皇帝は宝物庫の中で、そうつぶやいた。
「薄い本って、春画のことだったのね……。
おっ、なかなかエロイじゃん!」
 ヤンはもちろん、嫌いな方ではなかった。 

 そのころ湖の館では……。

「俊也さん!
エロ本がなくなってる!
どこに隠したの!」
 ブルーが俊也に詰め寄った。

「えっ……。カムハンに返したけど、まずかった?」
 俊也は思いがけない追及に戸惑う。俊也がその気になれば、生のエロスがお手軽に。その気がなくても、半強制的に。
俊也に薄い本は全く必要ない。

「どうして返しちゃったのよ!
妊婦嫁、エッチ抜きなんだから!」
 ブルーは一層詰め寄る。
「ご、ごめん! ハードにはできないけど、軽くサービスしようか?」
「うん、許す!」
 マタニティーブルーのブルーは、少しブルーが晴らせそうだった。
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