183 / 230
183 ナームをどうするか
しおりを挟む
同じころ、湖の館。幹部嫁三人は困惑していた。
王都から呼び出され、ユーノとマサラは王都へ跳んだ。二人は王都から帰ったばかりだ。
二人が会談したイスタルト三首脳によれば、ナームから侵入する、夜盗集団が倍増しているという。
背水の陣で臨んだ戦に敗れ、しかも巨額の賠償金を請求されている。
ナームをとことん飢えさせるのはまずいから、ミストは分割払いにしているそうだが、それでも貧しいナームにとっては、痛いどころではない。
本格的な冬になったら、いっそう人民は飢えそうだ。
「仕方ない、という言葉では、済まされないね。
かといって、ミストが敗れるのは、今以上に大問題だった」
ルラが珍しく愚痴っぽい調子でもらす。
「お父様は、余剰の食料を、ナームに格安で輸出してるそうだけど。
とても追いつかないみたい」
フラワーも憂鬱な顔で言う。
フラワーの父親が所有するシャネル領は、三首脳の領地の中で最もナームに近い。夜盗集団の被害も、一番大きいはずだ。
「我が尊敬する王は?」
エレンが聞く。
「また若い側室を増やしてご機嫌です。
あの王は、やることしか興味ないですから」
王都で三首脳から様子を聞いたユーノがぼやく。
「まあ、色欲意外に欲がないのは、あの王の数少ない長所だから。
よかった。
あの王に子種がなかったみたいで。
館の強壮剤、絶対王には飲まさないでおこう。
あれってすごいよね?」
ルラの言葉に、全員首肯する。ミストからは、三人の妃懐妊の報告が届いている。
そして、さっき三幹部の父親からも。つまり、例の強壮剤のおかげで、ルラ達三人に弟か妹が増えることになった。
主原料が、館前の特級畑から採集した薬草だからかもしれないが。あの畑は特殊だと判断するしかない。
今後区別して慎重に扱う必要があるだろう。
「私たちには、手の打ちようがないように思うんだけど。
夜盗の討伐隊を、組織するわけにいかないし。
仮にやったとしても、根本的な解決策にはならない」
フラワーが言う。
「日本の作物だね。種を輸入しよう。
日本には北海道という厳寒地帯があるそうよ。
そこで育つ作物なら、ナームでも育つんじゃない?」
ルラが提案する。
「たしか、ジャガイモ? ポテトチップスの原料だと聞いた。
イモ類なら飢えはしのげる。
それでいこう!」
エレンがパチンと手を合わせた。
「余剰の食料がある近隣領主にも、輸出働きかけてもらおう。
ユーノ、マサラ、面倒だけど急ぐ必要がある。
引き返してそう伝えて。
館の方針は、俊也が帰ったら、日本の作物で、何とかならないか、考えてみるということで」
「了解しました」
ユーノとマサラは、ルラの命に従い、慌ただしく王都へ引き返した。
「俊也に聞きだしてもらおうか?
ナームの詳しい事情。
下の密偵さんに」
ルラが苦笑を浮かべながら、二人に振る。
「一発二発はしょうがない。
俊也、大喜びだ。
最近嫁がみんな筋肉質になって、皮下脂肪に飢えてるみたい」
エレンも苦笑を浮かべて応える。
少女体型がまだ色濃いマサラとエンランは別として、魔力の器がピークに達したユーノやローランは、ときどきレジと励んでいるようだ。
誰があおったか知らないが、研修生嫁たちも。ミーナは細身だし。
「私たち妊婦と日本嫁だけだもんね。柔らかボディー。
出産後も精々筋肉つけないようにしよう」
フラワーの言葉に、首肯する二人だった。
エジパトから俊也が帰ってきた。早速嫁たちは詳細を報告。
「ナームがいっそう窮乏するのは、分かってたんだけどね。
盗賊が増えることも。
仕方ないとは思うけど。
俺たちは戦争の結果まで、責任は持てない。
だけど、できることはしたいね。
ルラ、ジャガイモに目をつけたのは卓見だと思う。
米はジャガイモより、効率的な作物だけど、栽培が難しい。
日本の米は品種改良が進んでて、北海道でも栽培できる品種があるけど、種を採れるかどうかわからないし。
向こうで調べてみる」
嫁たちは俊也の言葉にうなずく。
嫁たちは知っていた。俊也が「戦争の結果」について、意識的に考えないようにしていたことを。考えたとしても、個人レベルでできることは限られているから。
あちらの世界でのコ〇ナ禍がそうだった。
「素朴な質問なんだけど、ジャガイモには種があるの?」
さすが大貴族の娘。俊也はルラの基本的な質問にこう答える。
「詳しいことは知らないけど、種子で増えるものじゃない。
イモ類は種イモや苗を使うのが普通だと思う。
種イモを使うのが手っ取り早そう。
だから逆に援助するのは難しいね。
ナームの民は餓えてるから、種イモとして送っても、きっと食べちゃう。
極端な量を輸入するわけにもいかないし」
嫁たちはうなずく。
「難しいものね。だから俊也は手を出さなかったんだ?」
エレンがため息をつく。
「個人レベルではね。だけど、イスタルトの三首脳から相談があった。
方法によっては、かなり有効な援助も可能ということだ」
俊也は慰めるように言った。心の中では、有効な援助にするには、数年計画になるかもしれないと思いながら。
その間、ナームの餓死者はどれほどになるだろう?
「とりあえず、ナーム事情に詳しそうな人、身近にいるでしょ?
聞き取り調査してきなさい」
ルラは苦笑して命じた。
「いいの?」
俊也は恐る恐る嫁たちを見渡す。みんな肩をすくめ「どうぞ」と答えた。
王都から呼び出され、ユーノとマサラは王都へ跳んだ。二人は王都から帰ったばかりだ。
二人が会談したイスタルト三首脳によれば、ナームから侵入する、夜盗集団が倍増しているという。
背水の陣で臨んだ戦に敗れ、しかも巨額の賠償金を請求されている。
ナームをとことん飢えさせるのはまずいから、ミストは分割払いにしているそうだが、それでも貧しいナームにとっては、痛いどころではない。
本格的な冬になったら、いっそう人民は飢えそうだ。
「仕方ない、という言葉では、済まされないね。
かといって、ミストが敗れるのは、今以上に大問題だった」
ルラが珍しく愚痴っぽい調子でもらす。
「お父様は、余剰の食料を、ナームに格安で輸出してるそうだけど。
とても追いつかないみたい」
フラワーも憂鬱な顔で言う。
フラワーの父親が所有するシャネル領は、三首脳の領地の中で最もナームに近い。夜盗集団の被害も、一番大きいはずだ。
「我が尊敬する王は?」
エレンが聞く。
「また若い側室を増やしてご機嫌です。
あの王は、やることしか興味ないですから」
王都で三首脳から様子を聞いたユーノがぼやく。
「まあ、色欲意外に欲がないのは、あの王の数少ない長所だから。
よかった。
あの王に子種がなかったみたいで。
館の強壮剤、絶対王には飲まさないでおこう。
あれってすごいよね?」
ルラの言葉に、全員首肯する。ミストからは、三人の妃懐妊の報告が届いている。
そして、さっき三幹部の父親からも。つまり、例の強壮剤のおかげで、ルラ達三人に弟か妹が増えることになった。
主原料が、館前の特級畑から採集した薬草だからかもしれないが。あの畑は特殊だと判断するしかない。
今後区別して慎重に扱う必要があるだろう。
「私たちには、手の打ちようがないように思うんだけど。
夜盗の討伐隊を、組織するわけにいかないし。
仮にやったとしても、根本的な解決策にはならない」
フラワーが言う。
「日本の作物だね。種を輸入しよう。
日本には北海道という厳寒地帯があるそうよ。
そこで育つ作物なら、ナームでも育つんじゃない?」
ルラが提案する。
「たしか、ジャガイモ? ポテトチップスの原料だと聞いた。
イモ類なら飢えはしのげる。
それでいこう!」
エレンがパチンと手を合わせた。
「余剰の食料がある近隣領主にも、輸出働きかけてもらおう。
ユーノ、マサラ、面倒だけど急ぐ必要がある。
引き返してそう伝えて。
館の方針は、俊也が帰ったら、日本の作物で、何とかならないか、考えてみるということで」
「了解しました」
ユーノとマサラは、ルラの命に従い、慌ただしく王都へ引き返した。
「俊也に聞きだしてもらおうか?
ナームの詳しい事情。
下の密偵さんに」
ルラが苦笑を浮かべながら、二人に振る。
「一発二発はしょうがない。
俊也、大喜びだ。
最近嫁がみんな筋肉質になって、皮下脂肪に飢えてるみたい」
エレンも苦笑を浮かべて応える。
少女体型がまだ色濃いマサラとエンランは別として、魔力の器がピークに達したユーノやローランは、ときどきレジと励んでいるようだ。
誰があおったか知らないが、研修生嫁たちも。ミーナは細身だし。
「私たち妊婦と日本嫁だけだもんね。柔らかボディー。
出産後も精々筋肉つけないようにしよう」
フラワーの言葉に、首肯する二人だった。
エジパトから俊也が帰ってきた。早速嫁たちは詳細を報告。
「ナームがいっそう窮乏するのは、分かってたんだけどね。
盗賊が増えることも。
仕方ないとは思うけど。
俺たちは戦争の結果まで、責任は持てない。
だけど、できることはしたいね。
ルラ、ジャガイモに目をつけたのは卓見だと思う。
米はジャガイモより、効率的な作物だけど、栽培が難しい。
日本の米は品種改良が進んでて、北海道でも栽培できる品種があるけど、種を採れるかどうかわからないし。
向こうで調べてみる」
嫁たちは俊也の言葉にうなずく。
嫁たちは知っていた。俊也が「戦争の結果」について、意識的に考えないようにしていたことを。考えたとしても、個人レベルでできることは限られているから。
あちらの世界でのコ〇ナ禍がそうだった。
「素朴な質問なんだけど、ジャガイモには種があるの?」
さすが大貴族の娘。俊也はルラの基本的な質問にこう答える。
「詳しいことは知らないけど、種子で増えるものじゃない。
イモ類は種イモや苗を使うのが普通だと思う。
種イモを使うのが手っ取り早そう。
だから逆に援助するのは難しいね。
ナームの民は餓えてるから、種イモとして送っても、きっと食べちゃう。
極端な量を輸入するわけにもいかないし」
嫁たちはうなずく。
「難しいものね。だから俊也は手を出さなかったんだ?」
エレンがため息をつく。
「個人レベルではね。だけど、イスタルトの三首脳から相談があった。
方法によっては、かなり有効な援助も可能ということだ」
俊也は慰めるように言った。心の中では、有効な援助にするには、数年計画になるかもしれないと思いながら。
その間、ナームの餓死者はどれほどになるだろう?
「とりあえず、ナーム事情に詳しそうな人、身近にいるでしょ?
聞き取り調査してきなさい」
ルラは苦笑して命じた。
「いいの?」
俊也は恐る恐る嫁たちを見渡す。みんな肩をすくめ「どうぞ」と答えた。
0
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
【R18】聖処女騎士アルゼリーテの受難
濡羽ぬるる
ファンタジー
清楚な銀髪少女騎士アルゼリーテは、オークの大軍勢に屈し、犯されてしまいます。どんなに引き裂かれても即時回復するチート能力のおかげで、何度でも復活する処女を破られ続け、淫らな汁にまみれながらメスに堕ちていくのです。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる