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181 パトランと里帰り

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 俊也は、パトランの故国エジパトを訪ねていた。

パトラン一族首長への挨拶、それと、新技術「精神同調」と、バージョンアップした転移魔法を試すためだった。「精神同調」とは、簡単に言えば記憶しているイメージの共有。

俊也は以前から合体時、ある違和感を抱く時があった。すなわち、全然見覚えのない場所で、嫁を抱いている感覚。

後で聞いてみたら、その嫁の実家であったり、お気に入りだった庭園であったり。

新転移魔法、つまり、現地へ行かなくても、イメージを飛ばし、魔法陣を描く技術には慣れてきた。
そこで、イメージの共有ができないかと、俊也は試行錯誤。
その結果、凸と凹が合体したとき、額を合わせたら、パートナーがイメージする、鮮明な映像が伝わることを発見した。

非生物での転移実験を重ね、その新技術に十分な自信が持てた。そこでパトランの里帰りを試みたわけだ。

 エジパトの地は、俊也のイメージと全然違っていた。彼が思い描いていたのは、あちらの世界の中東地域。つまり、砂漠の国だった。

「びっくりするほど緑が豊だね」
 俊也が転移後の第一印象を述べた。

「自慢するようだけど、初代パトランのおかげよ。
彼女の膨大な魔力が、砂漠の地を豊な大地に変えた」
 パトランは得意げに胸を張る。『エジパトはナオルの賜物』。どこかで聞いたような言葉が、以前のエジパトだった。

つまり、大河ナオル流域は、豊かな自然の恩恵を得て、すぐれた文明を築き上げた。だが、流域から少し離れた地は、殺伐とした砂漠地帯だった。

戦乱が収まり、首長連合が成立した後、パトランが生涯をかけて取り組んだのが、砂漠の緑地化だったわけだ。

その努力は、彼女の子孫が連綿と続け、パトラン一族は、エジパトに欠かせない特別な地位を占めている。

「パトラン一族、心から尊敬する。
それだけの力があるなら、王の地位を求めるところだ」
 俊也は心から称賛した。

「ほめなくていい。
パトラン族は、みんなめんどくさいことを嫌う。
権力者は常にめんどくさい。
俊也さん、あなたは誰よりも、そのことを知ってる。
だから私は、あなたを尊敬する。
猫又ナイトさんやレジさんよりも」
 パトランは俊也の手を軽く握った。俊也形態のとき不用意に迫ったらひどいことになる。
ブルーから、そのことは、くどいほど言い聞かされていたから。
 ブルーも多少は大人になった。


 俊也はパトランの父親、ガウル・パトランをはじめ、一族と対面。

あいさつもそこそこに求められたのが、戦闘訓練だった。

そういえば「強さは美徳」。クレオの口癖だった。

「父上、どうせならガント兄さんと手合わせを。
俊也さん、ガント兄さんは獣人なの。
パトラン族最高峰の戦士よ」
 クレオは、待ってましたとばかりに意気込む。

やっぱりそうきますか。ニャンニャン!

 俊也は猫又形態に変身。
クレオはナイトを抱き上げ、ちゅっ! 

レジ形態、推参!

 周囲からどよめきがおこる。特に女性から。

クレオはしまった、と思った。慌ててレジの体を自分の体で隠す。

「俊也さんは、私と嫁たちの者なんだから! 
絶対渡さないよ!」

 猫又から変身したレジは、当然素っ裸だった。そして、女性衆人環視の中、一部分いきり立ってしまうのは、俊也の意思でどうすることもできなかった。
 立つ子と地頭には勝てぬ。変態性癖はいかんともしがたし、ということ。

 レジは館からお土産に運んだ、ライトソードを青眼に構える。
彼専用のライトソードは、日本刀を模している。
なんとなくかっこしいし、オリジナルのライトセイ×ーは、蛍光灯の棒にしか見えない。あれじゃチャンバラごっこでしょ、というのが俊也の正直な感想。
ルーカスさんは、クロサワのファンだと聞くけど、もっと細かなこだわりがほしかった。
まあ、アメリカ人なんですね。よくもわるくも。

一方、獣人に変身したガントは、長剣型のライトソードを、腰をやや落とした八双に似た構えで対峙する。
超ムキムキで力は相当ありそうだ。

「ウオォー!」
 獣人化したガントは、八双の構えのままレジに肉薄。まるでカタパルトからはじき出された戦闘機。
恐ろしいほどのバネだ。

レジは静止したまま、左小手、面、の二段打ち。

クレオ以外、誰もその刀の動きは見えなかった。

ガントは、ばたりと倒れた。レジのライトソードは赤く光っていた。

一瞬の静寂。そして、悲鳴にも似た歓声が沸き起こる。

レジはガントにリカバーの魔法を施す。ガントはよろよろっと立ち上がったが、何が起こったのかわからないままだった。

左腕にかすかな痛みを感じると同時に、意識は吹っ飛んだ。

「兄さん、真剣なら左腕は切り落とされ、頭から真っ二つに斬られてたはず。
これが私の夫よ。
レジさんに斬られても、そんなに痛くないでしょ?」
 クレオは超鼻高々で言う。

そう説明されても、ガントはきょとんとするだけだった。ただ、負けたという事実だけは認めるしかなかった。


 その後、クレオは、一族の強者一挙五人を相手に「修行」の成果を披露。
五秒で五人を倒した。

見守る一族の者は言葉もなかった。一対一の対戦で、獣人形態のクレオは、彼らより強かった。

彼女に勝てるのは、獣人のガントだけだった。
だが、あっという間に五人を倒せるほど強くはなかった。それも人間形態のままで。

「クレオ、レジさんと手合わせしたことはあるのか?」
 ガントがあきれ顔で聞く。

「一度だけ。わかるでしょ? 
全然練習にならない」
 クレオは苦笑して応える。

「そうだろうな……。俊也殿、魔法の方は? 
噂では、ナームの魔導師部隊を一掃したとか」
 ガントは尊敬の目で聞く。

「俊也さん、実力を見せて。
そうですね。空気が乾いているようだから」

「了解。ニャンニャン!」
 俊也形態から猫又形態へ。猫又ナイトは尻尾で魔法陣を描く。

「慈雨!」
 ザー、と雨音が石造りの宮殿外から聞こえる。

「お~!」

 降雨の魔法は、エジパト人にとっておなじみだが、複雑な魔法陣を描く必要がある。
一瞬で雨雲を発生させるような離れ技は、初代パトラン伝説に、残っているだけだ。

「やっぱり乾いた空気で、降雨の魔法は妖力が持っていかれる。
一日が限度かな」
 ナイトがぽつりともらす。

「一日! しかもその姿で話せる! 
クレオ、でかした! 
最高の婿殿だ!」
 ガウルは感動の涙を流し、そう叫んだ。

ちなみに、初代クレオでも、当地での降雨魔法は、一日に二時間が限度だった。

「父上、館の幹部三人は、ナイト君以上の魔力を持っています。
彼女たちを上回る魔導師は、ナイト2だけです。
十分くらいしか変身できませんけど」
 クレオの鼻は、天まで届きそうだった。
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