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158 叔父からの呼び出し

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※ 11/13 午前に投稿した分、前話のコピーが残ってました。
  申し訳ありません。同日18時に修正しました。 



 静香は、ナイトとアンをワンボックスカーに乗せ、車を走らせた。

アンはたっぷりごほうびエッチしてもらい、まだ妖しいフェロモンを放ったままである。

用意のボンテージ衣装は役立ったが、鞭が軽くしか振れなくてかなり残念。

俊也さんを思い切りたたくなんてできない! 真性の変態になりきれないアンだった。俊也さんも擬似変態だし。

ナイトはもちろん熟睡中。静香が目指すのは皇都大学、千葉キャンパス。皇都大学の理系キャンパスは千葉県に置かれている。

「もうすぐ着くよ。俊也君起こして」
 人気のない枝道へ入り、車を転換しながら静香が言った。

「はい」
アンは日常会話程度なら、日本語を聞き取れる。ナイトを抱き上げ鼻ツン。全裸の俊也は急いで服を身につける。

「俊也君に、Mの趣味があるとは思わなかった」
 一時間ほど前、俊也とアンのプレイを見学していた静香は苦笑する。
俊也とアンが、あの部屋で寝ていることは知っていたが。

「アンが大好きだから。軽くだよ、軽く」
 俊也も苦笑して返す。

「ナンカ、ヘンナコト、イッツタ?」
「Mの趣味」の意味がわからなかったが、アンは雰囲気を感じた。

だって、俊也さん、拘束されて色々いじられるのが大好きなんだもん。
私もいじるのが大好きだけど。鞭も「バラ鞭」で軽くだし。

心の中で言い訳する。あの男を「一本鞭」で打てなかったことは心残りだけど。性的な嗜好でなく、人間として深い憤りをぶつけてやりたかった。
弱者を思いのままにしたい。その根性が絶対許せなかった。
彼女は俊也と出会うまで、孤独な弱者だったから。

ちなみに、一本鞭の威力はマジやばいらしい。知らんけど。

「まあ、プレイのレベルなら人それぞれだけど。
今日は何の用かな?」
 静香は幹線道路に戻る。皇都大学薬学部、梅宮準教授は俊也の叔父で、魔法世界での薬品類を研究してもらっている。

相談があるということで、呼び出しを受けていた。

「大体は想像がつくけど。あちらの原料とこちらの原料では、全然効果が違う。
どうしよう? そんな感じ?」
 俊也の言葉に、静香はなるほど、とうなずく。

要するに、魔力の差、か。そうなったら量産化は難しいかもしれない。

「どうするつもり?」
 静香が聞く。

「カントの町おこしを考えてる。
薬草の契約栽培。
ある程度売れる見込みがついたら、あの地域全体に広める。
大量生産は無理だろうけど、採算はとれると思う。
今日の話次第では、生産流通システムを本格的に考えるから、相談に乗って」 

「了解」
 静香はそう答えながら思う。俊也君を選んだのは、経営者の柄じゃない、という点が大きかった。

だけど、案外「柄」かもしれない。「忙しい」人だから、経営者に収まりきれる人でもない。

まあいいか。私の心も体も、この男にしっかりつかまっている。


 三人は梅宮準教授の部屋を訪ねる。

「まずはおめでとうと言っておこう。
俊也君、静香さん、ご結婚、ならびにご懐妊おめでとう」
 準教授は眠そうな目で三人を迎えた。

私学ながら四十過ぎで準教授。生薬の研究者としては有能な人材だ。
ややポチャ体型の俊也の母親とは違って、長身でなかなかのナイスミドル。

もう少し着る物に気を使えば、女子大生にもてると思うのだが。

「ありがとうございます」と、俊也と静香はちょっぴり照れながら返礼する。

「静香さん、式を挙げなくていいんですか?」
 常識人の叔父は気遣う。

「式を挙げるとなったら、とんでもないことになっちゃいます。
むりやり私が迫ったんですから、入籍してもらっただけでも、ありがたいと思ってます」
 静香の言葉に、それもそうか、と準教授はうなずく。

巨大企業専務のお嬢さんだ。挙式や披露宴を行うとなったら、それなりの格式が必要だろう。

「今日来てもらったのは、量産化についての相談なんだ。
朝日野さんの意向は、大々的に販売したいということなんだけど……」
 準教授は、ちょっと困ったような表情で、言葉じりを濁した。

「要するに、あちらの原料でないと、うまく効果が発揮できない、ということですね? 
あちらの世界、魔力が満ち溢れてますから。
当然動植物にも、高い魔力が秘められてます」

「そうなんだよ。
もちろん、地球でこれまで発見されてない成分もあるんだよ。
だけど、大部分はこちらの物質で代替可能な成分なんだ。
ところが、代用品をつかったら、効き目ががくんと落ちる。
数値化はできないけど、僕の印象としては十分の一以下。
並みのスポーツドリンクや、強壮ドリンクと変わらない。
だけど、オリジナルのやつ、すごい効果がある。
僕はこの三日間、平均二三時間仮眠をとっただけなんだ。
ところが……」
 準教授は、館謹製の健康ドリンクをごくん。

「しゃっきり! 
今日も完徹どんとこい、って感じ。
参っちゃうよね。あの強壮ドリンクを飲もうものなら……。
加奈子が喜んだのなんの。
朝日野社長も大喜びだったよ。
娘作っちゃおうかな、なんてね。
……絶対売れるよ」
 準教授はにやりと笑う。

叔父さん……。下ネタなんて言う人じゃなかったんだけど。

俊也は苦笑を浮かべながらもうなずく。

ちなみに、加奈子さんは叔父の奥さんだ。容姿は十人並みだが、おっとりした優しい人だ。

「祖父に意見しておきます。
素人の若い娘に手を出すんじゃないぞ、と。
私より若い人を『おばあさん』なんて呼べない」
 静香は本音で言った。

祖父の泰造は、三年前妻を亡くしている。祖父はそれこそ仕事一途だったが、八十を超えて春を取り戻したなら、はしゃいで愛人をつくりかねない。
ただでさえ若く見える、嫁軍団と付き合い始め、タガが緩んでいるのだから。

「あちらで原料の生産、拡大するよう努めます。
山や森林で、どこでも生えてるような植物が多いですから、栽培には苦労しないと思います。
本気で取り組んでいいですか?」
 俊也は結論を求めた。

「とりあえずは、限定販売になるだろうけど、十分採算はとれる。
生産と流通は僕の仕事じゃない。
朝日野さんと相談して。
魔法の健康ドリンク、強壮ドリンク、学会に発表していいね?」

「もちろんです」
 ギブアンドテイク。俊也と叔父の利害はがっちりかみ合った。

「アンは初めてでしたね? 
この子、魔石の探索にかけては、向こうの世界でも第一人者だと思います。
薬草の知識も豊富です。
日本語ばっちり仕込みますから、来年にでもこの大学の実験設備、使えるように計らってもらえませんか? 
それが難しいなら、朝日野さんにお願いしようと思ってるんですが、叔父さんのお役にも立てると思います」
 俊也は、後ろの方で控えていたアンを紹介する。

「ああ、あのドリンクを開発した人だね? 
もちろん大歓迎だ。
僕や学生の勉強にもなる。
ちょっときれい過ぎるのが難点かもしれないが」
 準教授はアンに歩み寄り、握手を求める。

「ブリリアンデス。アントヨンデクダサイ」
 アンはにっこり笑って握手に応える。

「この子、俺の嫁の中でも、精神系の魔法ではナンバーツーなんです。
意識しなくても魅了の魔力を放ってしまう、困った子でもあるんです。
気をつけて下さいね」
 
はっ……。俊也に指摘され、準教授は我にかえった。
なるほど、この特性はかなり厄介だ。

「もちろん、攻撃魔法も得意ですよ。
格闘術もなかなか。
もろもろの危険性、周知徹底お願いします」

「わ、わかった」
 準教授は、気づいてやっと握手を解いた。

これは本当に危ない女性だ。



 
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