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156 朝陽の呼び出し

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 俊也は朝陽から呼び出しを受けた。

日本では、秋の連休初日にあたる。なんだろうと思いつつ、実家へ転位。

「ただいま。なんか…、ごめん」
 俊也はノックをせず、妹の部屋へ入ったことをちょっぴり後悔。

妹は着替えの真っ最中だった。

「別にいいよ。入って」
 部屋の中から妹の声が聞こえた。

「おじゃまします」
 もうAカップはありそう、と思いながら、俊也は入室。
朝日はブラウスを、着終えたところだった。スポーツブラなんか、着ける歳頃になったんだ……。

「カナちゃんから聞いたよ。
とうとう館の嫁全員制覇。
おめでとう」
 朝陽はニマニマしながら皮肉。マサラとエンランのことを言っているのだ。

「どうも。恐縮です。今日は何か?」

「相談に乗ってほしいんだけど。
ていうか、お説教思い切りかましてやって。
なっちゃんのことなんだけど……」
 そう前置きし、朝陽は説明し始めた。

朝陽のクラスメイト、木戸菜摘は、とにかく好奇心旺盛な小学生だった。

彼女が現在はまっているのは、『ファッションクイーン』というスマホのゲーム。

ファション界巨大組織の後継者を目指し、ファッションの実績を上げるため、ライバルと熾烈な競争を繰り広げるという、一種のシュミュレーションゲームだ。

そのゲームの同好の士が、情報交換や暇つぶしの会話をするサイトがあるという。

なっちゃんは、そのサイトにもいりびたり。そこまでなら大きな問題はない。

ところが、ハンドルネームしか知らない多分男性と、とりわけ仲良くなってしまった。

個人的なラインをやりとりするうちに、お互いの写真を送り合うようになった。

相手が送ってきた写真が、当人だとすれば、高一のイケメン。

なっちゃんは、ぼ~っとなって、要求に応じてしまった。
『君のかわいい下着姿見せて』

それがゆうべのことだったらしい。

怖くなったなっちゃんは、頼れる友人、朝日に相談したわけだ。

「論外!」
 話を聞き終え、俊也は激怒した。

「でしょ~。
男の欲望のどろどろしたところ、なっちゃんに話してやってよ。
兄さんほど適任者はいない」

「そうだな。
俺ほどのスケベは…ちょっと待たんか~い!」
 俊也はノリ突っ込みしてみました。

「わかってるよ。
兄さんは前代未聞のリア充。
スケベさはどろどろしてない。
だけど、相手の男は絶対どろどろぎたぎた。
そう思うでしょ?」
 朝陽は、兄のノリの良さに満足。こんなところは全然変わってない。

「小学生の下着姿を要求? 
意味がわからん!」
 俊也はふんぞり返って腕を組む。

「私の着替え、どきっとしなかったって言うの!」
 朝陽は憤慨する、ふりをする。妹でも、いや、妹だから余計、下着姿にうろたえるのは自然だ。

「ごめん……。正直に言ってどきっとした。
ロリ趣味の自覚はあるんだ」

「えっ? あるんだ?」
 兄は、合法ロリを十分堪能しているはず。非合法に属するロリ趣味もあったの? 
朝陽はちょっぴり意外だった。納得する部分もあるが……。

「マサラやエンランは、ロリ枠からかろうじて卒業した感じだけど、フミちゃんがね」

「あ~……、心臓病治した? 
中一だと言ってなかった?」
 中一の秋なら、まずまず女の体に、近づいているはず。個人差はもちろんあるだろうが。

「中一だよ。だけど、彼女は絶対高い魔力を持ってる。
つまり、極端に成長が遅いと思う。
へたしたら、お前より幼い体だ」

「そうなんだ…、って裸見ちゃったの!」

「心臓病だよ。服を着たままで治療にならない」
 興奮した朝陽は、矛を収める。

確かに。朝陽は琴音から聞いていた。兄の変態的治療法を。

現実に治しているのだから、変態と言い切れないが。

「もうすぐ来ると思う。お説教のほどよろしく」
 朝陽はぺこっと頭を下げた。

「会おうなんて言ってくるかもな。
そのときは殺していい?」

「ばれないようにできる?」

「もちろん」

「殺(や)れ」

「ラジャー!」
 
阿吽の呼吸で、物騒な相談がまとまった兄妹だった。意識はかなり違っているが。朝陽はブラックジョークのつもりだが、俊也は結構本気だった。

俊也はマジで頭にきている。なっちゃんは俊也のお気に入りだから。

命を取ろうとまでは思わないが、宦官状態にしてやる。

頭の中でナイトは、任せろ! と胸をたたいていた。


 十分ほどして、なっちゃんがやってきた。俊也がいたことに少し驚いたようだ。

「お兄さんに話しちゃった?」
 なっちゃんは、少し憤った口調で言った。

「私が一番信頼できる大人だから。
写真送ってから、なんか言ってきた?」
 なっちゃんは無言でスマホを見せた。

「この男、思ったより危ない」
 朝陽はスマホを兄に渡す。

『思ってた通りチョーかわいい! 
下着姿送ってもらったのは、君のサイズやイメージつかみたかったからだよ。
俺が選んだ服、着てほしいな。
俺のファッションセンス、チェックして』
 俊也は菜摘にスマホを返す。

「下手したら殺されるぞ。新聞読め!」
 兄の厳しい言葉に、朝陽は怯え顔でこくこくとうなずく。

「かっこいい人なんだよ」
 菜摘は奪い取るようにして、スマホを受け取り、ふてくされる。

「危ないのはブサメンだけ? 
なわけないだろ。
男の性欲が内向したら外見は関係ない。
アブノーマルな快感にとりつかれたら、いっそう攻撃的になる。
最近はネットのロリ規制厳しくなってるから、拡散の可能性は低くなってると思うけど、安心できない。
写真で脅迫してくるのが、この手の男の常とう手段だ。
うまいこと言って君を家に連れ込む。
俺が買った下着、着てみてよ。
嫌? いいのかな~。
あの写真、印刷して、君のご近所さんの郵便受けに入れちゃうよ。
そんなこと言ってきたら、どうする?」
 俊也のお下劣セリフに、なっちゃんはびくり。

「困る……。
お兄さん、こんな写真でそそられるの? 
私ってまだ、ぺったんこだよ」
 そう言って菜摘は、問題の写真を呼び出した。

俊也にスマホを渡す。

ごめん、なっちゃん、全然そそられない。さすがに俊也の守備…趣味範囲外だった。

「俺にはかわいいとしか思えないけど、そそられる男もいるんだよ。
消去するよ?」
 菜摘はこくんとうなずいた。

俊也はただちに消去。

「男の欲情ポイントは色々なんだ。
それは忘れない方がいいよ」
 俊也は表情を和らげて言う。

「たとえば?」
 菜摘は、いたずらっぽく笑って俊也を見上げる。

「俺の欲情ポイントは王道だから」
 俊也は目をそらして応える。なんだか「女」の目だった。

「私のおっぱいが、朝陽ちゃんぐらいふくらんだら?」

「遠慮なく欲情させていただきます」

「よろしい」
 なっちゃんは、満足げにうなずいた。

兄を白い目で見ながら、朝陽は思った。

お説教してもらう相手を間違えた。スケベの王道を歩んでいる兄だから、邪道の心理はわからない。

「で、なっちゃんはどうするつもり? 
エスカレートしたら、マジで危ないよ」
 朝陽は兄を見限り、そう聞いた。

「アカウント変える」

「おびき出して、お兄ちゃんに懲らしめてもらう。
そんな手もあるよ。
こんなやつ、放っておいたら他の女の子も危ない」

「そうか…、そうかもしれない。
懲らしめるって、どういうふうに?」

「どっかから石が飛んでくるかもな。
その男の股間に命中するかもしれない。
タマがつぶれるかもしれない。
二度とたたなくなるかもしれない。
めでたしめでたし。
どう?」
 なっちゃんと朝陽は、真顔で言う俊也にどんびき。

朝陽は確かに言ったのだが。「殺れ」と。

「マジで?」
 朝陽の言葉に、俊也はうなずく。

「痛くない?」
 なっちゃんは、恐る恐る聞く。

「死ぬほど痛いはず。タマがつぶれるほどの痛さなら、ショックで死んじゃうかもな。
君のためなら、マジでやっちゃうよ」

「気持ちはうれしいけど、許してあげて」
 心優しい菜摘は、その男のために頼んだ。

ジョークにしては、タチが悪すぎる。雰囲気的にジョークを言っているように見えないし。

菜摘は俊也の正体を朝陽から聞いていないが、あの魔法の国の王様ではないかと思っている。

あの猫耳ダブル尻尾付きの王様なら、マジでやっちゃうだろう。

「となると、心理的ダメージ? 
アンを呼ぶかな」
 俊也は朝陽が思っている以上に、ダークサイドに堕ちていた。
お気に入りの女の子のためなら、なんでもやっちゃう。

「もしかして、私が餌になるんですか?」
 なっちゃんが、恐る恐る聞く。

彼女の幼い頭脳でも、それしか方法がないことはわかる。
相手の住所や本名さえわからないのだから。送ってきた写真も、本人であるかどうか疑わしい。

「怖い?」
 なっちゃんは、こくんとうなずく。

「君が引き起こしたことだよ」
「でも……」
 なっちゃんは、べそをかきはじめた。

少しはこりているようだ。俊也はそう見てとった。

「一晩このぬいぐるみを抱いて寝て」
 俊也は猫又ナイトのぬいぐるみを渡す。

「それだけでいいんですか?」
 俊也は笑顔でうなずき、なっちゃんの頭をぽんぽんとたたいた。
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