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153 秘儀の効果

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 第三練習場では、ユーノが研修生三人に、魔法を指導していた。
猫又式魔法は教えられないから、魔法の杖を片手に握りながら。

「う~ん……。
何度も言うようだけど、魔法陣に魔力が集中しきれてない。
あなたの魔力なら、もう少し大きな火が出るはずよ。
あっ、おはようございます」
 ユーノは館三幹部と、ミーナに気づいた。研修生三人も四人と挨拶をかわす。

三人とも、しょげきった表情だった。

「どう?」
 ルラがユーノに聞く。

「俊也さんとのセックス、しばらく見送った方がいいと思います。
急に魔力が増えたら、暴走しかねません」
 ユーノは正直に答えた。

三人とも初心者に近い。イスタリアの魔法学校なら門前払いされるレベルだ。
もう少しまともな研修生を、送ってくると思っていたのだが。

「この子たち、自ら志願してここへ参りました。
なんといいますか、この子たちより高い魔力を持った者は、軍に組み込まれていたり、性格が悪かったり。ですから、長い目で見て下さい」
 
それと、見目が極端に悪かったり。ミーナは心の中で言葉を補う。ロン王は、これでも精一杯頑張って三人を選んだ。

「魔法の秘訣は思い込みよ。
誤解しないで。
思い上がりとは全く違う。
言い変えたら、できるはずだという信念ね。
おっかなびっくり魔法陣に魔力を通したら、ろくな魔法が発動しない」
 ルラは指で魔法陣を描く。

「松葉針!」
 魔法発動。

「足元の石、よく見て」
 三人はなんだろうと思い、それぞれの足元を見る。

「あっ! 松葉が石に刺さってる!」
 ソフィアが気づいて足もとの石を取り上げた。

他の二人も石を取り上げ、じっくり観察する。確かに松葉が、半分ほど石に刺さっていた。

目でも狙ったら、松葉さえ立派な凶器となるんだ! 石に刺さるぐらいだから、脳まで届いてしまうだろう。

「見た目派手なだけが、魔法じゃないということ。
とりあえず、板に松葉が刺さるよう練習してみたら? 
それができたら、俊也とのセックスを許可する。
ミーナさん、あの岩を狙って、インプロージョンを」
 ルラは前方の岩を指さし、ミーナを促す。

ミーナはうなずき、愛用の杖を構えた。なんだか、あの一抱えもありそうな岩さえ、破壊できそうな気がする。

杖で魔法陣を描き、手順に沿って公式を埋め込む。
「インプロージョン!」
 どか~ん! 岩は粉々に砕けた。

「本当にできた」
 できるという予感はあったものの、半分信じられない気分だった。
これなら今すぐにでも、ミストの大きな戦力になる。

「もう一度同じ魔法を」
 ルナは悪い顔をして言う。

「はい!」
 ミーナは自信満々で、再び魔法陣を描き、同様の作業を繰り返す。

「インプロージョン!」
「アンチ!」
 ミーナの詠唱が終わる寸前、ルラが魔法を発動する。ミーナの魔法は打ち消され、発動しなかった。

「上級魔導師なら、これぐらい朝飯前ですよ。
自慢ではないですが、魔法陣が完成する前に、強制キャンセルもできます。
もっとも、先に命をいただく方が手っとり早いですけど。
まだまだだということ、おわかりですね?」

「はい……」
ミーナはがっくりと肩を落とし、そう答えるしかなかった。

その後、館三幹部とユーノは、見本に中規模魔法を連射した。

この第三魔法練習場は、畑地にする予定だ。思う存分攻撃魔法を打ちまくり、四人は超すっきり。

傾斜地は、ほぼ平らにならされてしまった。気づいて振り返ると、四人の研修使節団員は目を大きく見開いていた。

「杖をあまり使わなかったこと、見なかったことにして」
ルラはしまった、と思いながらそう言った。

幹部とユーノは、今さらながら気づいた。調子に乗ってネコマを使ってしまったことに。

研修使節団員は一様に思う。この四人だけでも、ミストなんて簡単に滅ぼされてしまうだろう。

それにしても、あの魔法の発動の仕方、どうなっているのだろう? 

最初はちゃんと杖を使って、手順通り魔法を発動していたが、そのうち杖は、円を描くだけになった。

手のひらを当てる形で、魔法の公式を埋め込んだとしか見えなかった。

大魔導師レベルになったら、あんなチートな方法が使えるのだろうか? 
「見なかったことに」とルラさんが言う以上、例の「教えられない魔法」の一つに間違いない。

「教えられない」という理由もわかった。あの方法は、圧倒的に早く魔法が発動できてしまう。

つまり、対魔法戦においてまさに無敵だ。

「一つだけ、お聞きしてもよろしいですか?」
 ミーナが勇気を振り絞って聞く。

「答えられることなら」
 ルラは、来たな、と思いつつそう言った。

「みなさん、あんなことができるんですか?」
「忘れて下さいね。館の者は全員できます。
そんなものだと納得してください」 
 研修団員は、もちろん納得できなかったが、「はい」と答えるしかなかった。


「みんな、動きやすい服を買ってきたから。
館に帰って」
 一度大使館に帰っていた俊也が、大声で呼んだ。

「さ、私達の旦那様が、せっかく買って来たんだから。着られない、なんて言えないよね?」
 エレンが楽しそうに言う。

「覚悟してくださいね。
特に下着は、気合い入れてるはずですから」
 フラワーが澄まして言う。

昨日、夕食前にサイズを計られた。服を買うためか、と使節団は納得。
フィード伯爵が帰った後、たしかにどの嫁も、動きやすそうな服装に着替えていた。

スカートは、思い切り短かったが。

「はい!」
 使節団員は、初めて心からいい返事ができた。

楽しみ! きっと異世界で買ってきたのだ。そう想像し、ミーナは見当がついた。

「教えられない」もう一つの魔法。きっと転移魔法に違いない。
そして、「教えられない」理由は一つ。異世界との行き来だけでなく、この世界でも転移可能なのだ。

それが可能なら、これまでの戦術なんて、全く意味がなくなってしまう。

なるほど、とミーナは思った。

この館の人たちが、どうしてこんな辺鄙な地で閉じこもっているのか、はっきりした理由がわかった。

強大すぎる力を、自ら封じ込めているわけだ。

ミーナは固く決意した。二つの魔法の秘密は、絶対ミストに明かさない。
何が何でもその秘密を手に入れようとしたら、ミストが本当に滅ぼされかねない。

「今日は本当にうかつだった。
だけど、いずれは見られると思ってた。
念のために言っておく。
ゆうべの約束を破ったら、生かしておけない」
 ルラは冷厳な表情と口調できっぱり言った。

「もちろんです。いいわね? みんな」
 ミーナ団長は三人を見据えて言った。

「はい。私たちなんて、殺そうと思ったらそれこそ瞬殺。十分わかりました」
 ソフィアの言葉に、他の団員は、はっきりうなずいた。この人たちの言葉に逆らうなんて、そんな恐ろしいことはできない。
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