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128 その後
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教習所の所長室。
教官から「報告の必要があるから、一応ついてきて」と言われ、俊也は同行している。
「つまり、青形君には、一切の過失がなかった。そう考えていいんだね?」
五十がらみの所長は、教官の報告を聞いて、ほっとした顔になった。教官は藤原というらしい。
「はい。青形君、ボールが飛び出してすぐブレーキをかけました。
実に適切な判断でしたが、残念ながら後続車が……。
ドライブレコーダーの記録は、警察に提出しています。
青形君や、ウチに非がないことは、証明されるはずです」
「そうか。まあ、よかった」
俊也は「よかった」はないだろ、と思ったが、何も言わなかった。
第三者としての本音だろうから。
所長のデスクに電話が入る。所長は応答する。
「警察からだ。事故車はすぐ発見されたそうだが、盗難車らしい。
警察が改めて聴取したいそうだ。
青形君、面倒だが協力してもらえるか?
藤原君も」
所長は電話を切ってそう言った。俊也と藤原教官は了承するしかなかった。
俊也と藤原教官が、所長室で待っていると、二十分ほどで二人の刑事がやってきた。
「どうもお手数をおかけします。所長さんにはお話ししたんですが、あの乗り捨てられた車、盗難届が出てました。
ドライブレコーダーにも映ってはいるんですが、不鮮明で」
三十代だろうか、若い刑事が申し訳なさそうな顔で言う。
「指紋は?」
俊也が聞く。
「残ってます。照合しましたが、前歴者に該当しません。
それでなんというんですか、…藁(わら)にもすがりたい?
青形君、犯人について、何か気付いたことでもあったら助かります」
俊也は迷った。だが、あのひき逃げ犯は、絶対許せない。
「刑事さん、お二人だけに…いや、藤原先生も残ってもらえますか?
お話したいことがあります」
俊也は、所長にちらっと視線を向けて言った。
「私がいたらまずいのかな?」
所長は若干戸惑いながら言う。
「なるべくなら…、まあいいです。
ただし、絶対秘密は守ってください。
いいですね?」
四人はなんだろうと思ったが、一応うなずいた。
「ニャンニャン!」
俊也は猫又ナイトに変身。
一同唖然。
「ご存じかもしれないが、シュンヤーダ国王である。
ルームミラーで犯人の顔は見た。
是非協力したい。
念写すればドライブレコーダより、鮮明な写真を提供できる。
藤原さん、あなたが写したことにしてくれないか?
幅寄せする後続車が、気になった。
そういうことにして」
藤原教官は、コクコクとうなずいた。はっと気づいたふうに、制服の胸ポケットからスマホを取り出す。
猫又ナイトは、両手で器用に受け取り、これまた器用にスマホを操作する。
尻尾で魔法陣を描き
「念写!」
と唱える。スマホの撮影機能が作動。
「鮮明化の処理をした。証拠能力はないだろうが、犯人特定の手がかりにはなると思う。
盗難車に指紋が残っているそうだから、問題ないと思うが?」
猫又ナイトは、刑事二人に振る。
「はい。助かります!」
若い方の刑事は、ベテラン刑事に視線を向ける。
ベテラン刑事は、仕方ないという顔でうなずいた。
若い刑事は、スマホを受け取り、写真を確認する。そしてベテラン刑事に渡す。
「たしかに証拠能力はないな。
鮮明すぎる……。
いや、ご協力感謝します。
生田、帰るぞ」
「三谷さん、ちょっと待って下さい。
俺のスマホに送信します。
スマホを持って帰ったら困るでしょ?」
生田と呼ばれた刑事は、藤原教官を見る。
教官はコクコクとうなずく。生田刑事は二台のスマホを操作し、送信完了。
この場にいる全員に謝意を示し、二人は所長室を出て行った。
「さて、藤原先生。少し協力してもらえるかな?」
「なに…なんでしょう?」
終始ぽか~んとした顔で、状況を見ていた教官は、そう応えた。
「俺の鼻と、そなたの鼻をくっつけてくれ。
このままの体では、身動きがとれない」
「はい。鼻と鼻をくっつければいいんですね?」
教官はソファーの猫又ナイトを抱き上げ、ツン。ボフン……。
猫又は素っ裸の俊也に。
「こんなかっこうで失礼します。仕方ないんですよ」
俊也は悠然と服を身につけた。事前に注意を与えなかったのは、教官へのサービスだった。
その誠意は通じたのか、教官はその様子をガン見していた。
所長にまでガン見されたのは、不本意だったが。
教官から「報告の必要があるから、一応ついてきて」と言われ、俊也は同行している。
「つまり、青形君には、一切の過失がなかった。そう考えていいんだね?」
五十がらみの所長は、教官の報告を聞いて、ほっとした顔になった。教官は藤原というらしい。
「はい。青形君、ボールが飛び出してすぐブレーキをかけました。
実に適切な判断でしたが、残念ながら後続車が……。
ドライブレコーダーの記録は、警察に提出しています。
青形君や、ウチに非がないことは、証明されるはずです」
「そうか。まあ、よかった」
俊也は「よかった」はないだろ、と思ったが、何も言わなかった。
第三者としての本音だろうから。
所長のデスクに電話が入る。所長は応答する。
「警察からだ。事故車はすぐ発見されたそうだが、盗難車らしい。
警察が改めて聴取したいそうだ。
青形君、面倒だが協力してもらえるか?
藤原君も」
所長は電話を切ってそう言った。俊也と藤原教官は了承するしかなかった。
俊也と藤原教官が、所長室で待っていると、二十分ほどで二人の刑事がやってきた。
「どうもお手数をおかけします。所長さんにはお話ししたんですが、あの乗り捨てられた車、盗難届が出てました。
ドライブレコーダーにも映ってはいるんですが、不鮮明で」
三十代だろうか、若い刑事が申し訳なさそうな顔で言う。
「指紋は?」
俊也が聞く。
「残ってます。照合しましたが、前歴者に該当しません。
それでなんというんですか、…藁(わら)にもすがりたい?
青形君、犯人について、何か気付いたことでもあったら助かります」
俊也は迷った。だが、あのひき逃げ犯は、絶対許せない。
「刑事さん、お二人だけに…いや、藤原先生も残ってもらえますか?
お話したいことがあります」
俊也は、所長にちらっと視線を向けて言った。
「私がいたらまずいのかな?」
所長は若干戸惑いながら言う。
「なるべくなら…、まあいいです。
ただし、絶対秘密は守ってください。
いいですね?」
四人はなんだろうと思ったが、一応うなずいた。
「ニャンニャン!」
俊也は猫又ナイトに変身。
一同唖然。
「ご存じかもしれないが、シュンヤーダ国王である。
ルームミラーで犯人の顔は見た。
是非協力したい。
念写すればドライブレコーダより、鮮明な写真を提供できる。
藤原さん、あなたが写したことにしてくれないか?
幅寄せする後続車が、気になった。
そういうことにして」
藤原教官は、コクコクとうなずいた。はっと気づいたふうに、制服の胸ポケットからスマホを取り出す。
猫又ナイトは、両手で器用に受け取り、これまた器用にスマホを操作する。
尻尾で魔法陣を描き
「念写!」
と唱える。スマホの撮影機能が作動。
「鮮明化の処理をした。証拠能力はないだろうが、犯人特定の手がかりにはなると思う。
盗難車に指紋が残っているそうだから、問題ないと思うが?」
猫又ナイトは、刑事二人に振る。
「はい。助かります!」
若い方の刑事は、ベテラン刑事に視線を向ける。
ベテラン刑事は、仕方ないという顔でうなずいた。
若い刑事は、スマホを受け取り、写真を確認する。そしてベテラン刑事に渡す。
「たしかに証拠能力はないな。
鮮明すぎる……。
いや、ご協力感謝します。
生田、帰るぞ」
「三谷さん、ちょっと待って下さい。
俺のスマホに送信します。
スマホを持って帰ったら困るでしょ?」
生田と呼ばれた刑事は、藤原教官を見る。
教官はコクコクとうなずく。生田刑事は二台のスマホを操作し、送信完了。
この場にいる全員に謝意を示し、二人は所長室を出て行った。
「さて、藤原先生。少し協力してもらえるかな?」
「なに…なんでしょう?」
終始ぽか~んとした顔で、状況を見ていた教官は、そう応えた。
「俺の鼻と、そなたの鼻をくっつけてくれ。
このままの体では、身動きがとれない」
「はい。鼻と鼻をくっつければいいんですね?」
教官はソファーの猫又ナイトを抱き上げ、ツン。ボフン……。
猫又は素っ裸の俊也に。
「こんなかっこうで失礼します。仕方ないんですよ」
俊也は悠然と服を身につけた。事前に注意を与えなかったのは、教官へのサービスだった。
その誠意は通じたのか、教官はその様子をガン見していた。
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