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90 アメちゃん、食べ

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 俊也一行は、延期になった魔石採掘のため、早朝馬車から出立。馬と馬車には、昨日より厳重な結界を張った。

昨日は無事だったが、「高級宿」の見張りは全然信用できない。

昨日拾った中で、同行の元村人はブレイブだけだ。ブレイブには、「外れ魔石」だけしか出ない場所を教わる必要がある。

残りの五人は、頼りないが馬の世話だけを頼んだ。宿のマスターにいくばくかの金を握らせ、厩舎を借り切った。宿の外から入るルートは、結界でつぶした。
厩舎へ行くには、宿から入るしか手はない。さすがにそこまで用心したら、馬は大丈夫だろう。

馬車周辺には「入るな危険。ヤバい結界で防御中」と、でかく張り紙した。
効果は聞いてないが、マジでヤバいことになるだろうと、俊也は結果報告を、ちょっぴり楽しみにしている。残した五人に、一応監視は命令しているものの、どの街にも、必ず真性のおバカキャラはいる。

夜になれば、好奇心や欲に負けて、結界内に入る者が出てくるかもしれない。


 一行は順調に登った。一昨日やっつけたダークウルフの群れは、多分この辺りの最大勢力だったのだろう。危険な魔獣や野獣の姿は見えなかった。
オオカミの餌となりそうな小動物の姿もない。
 

周囲の高い木々が途切れ、急に見晴らしがよくなった。地質を確かめたら、溶岩性だ。

ホーカツ高原は、火山の大噴火によってできたのではないか。俊也はそう想像する。
三角形の頂点が吹っ飛んで、台形型になったのだろう。

「アン、このあたりでよく採れる魔石は?」
 信也は振り向いて聞く。アンはマサラとエンラン二人と談笑しながら登っていた。
昨日からそうだった。アンと二人は、比較的交流は少なかったのだが、なんかやたらと仲良くなっている。
いいことだと思うので、もちろん俊也は何も言わなかった。

それにしても、何かあったのだろうか?

「火属性ですね。たまに植物属性。私は本格的に掘れないし、結構大勢人がいたから、一日だけです。あまり稼ぎにはなりませんでした。
まあ、雷属性のいいのが見つかって、結果オーライでしたけど」
 アンはいかにも機嫌良さそうな表情で応える。これも珍しいことだ。

「火属性は固まって眠ってる感じ?」
 俊也は、重ねて聞いた。

「そんな感じです。もう浅いところの魔石は雷だけでしょうけど、少し掘れば、火が出てくると思います」
 
なるほどね……。火属性の魔石が多く出るのは、当然火山性の山や、その周辺だ。
カント周辺には、火山帯が通っていない。そのため、火属性の魔石は、まず出ない。
輸送コストが重なるため当然高値で取引されている。

火属性は暖房器具のエネルギー源として、高所得者階層に重宝されている。だから、他の属性の魔石より高い。
たとえば、植物属性の魔石に比べれば、カントでは三倍ほどで売られている。
コストパフォーマンスを考え、俊也は魔石暖房器を買わなかった。
だが、雷魔石を定期的に運ぶつもりだから、ついでに火属性を仕入れ、暖房に使ってもいいかな、と思う。

となれば…、作戦変更だ。強権発動も考えていたのだが、ダイニー侯爵の虎の威を借る、ゴローコーの出番はない。

さて、どうするかな……。俊也は次の作戦を考えながら、崩れやすい山道を再び登り始めた。


登山道のゴールが見えてきた。とりあえず様子を見よう。
俊也は方針を決めないまま、休憩を命じた。情けないことに、ブレイブの顎が上がっていたから。

エンランとマサラにも疲れが見える。それは仕方ない。

現在レジ形態での裏技は、何度か「経口補給」をしただけだから。
それでも、田舎で育ったブレイブ以上の体力を持っている。腕力も壮年の男性を上回っているだろう。

我ながら、俺のピー液、どんだけすごいんだよと思う。もちろん、自身で「経口補給」する気には絶対なれない。
正直、あんなものよく飲めるなと思っている。

結果、かく言う俊也もあっぷあっぷ。途中、ナイトに変身し、イザベルに抱いてもらっていたのだが。
ブルーはやっぱり怖いから。

「ブレイブ、自分が情けないか?」
 俊也は呼吸を整えるブレイブに言う。ブレイブの表情は、昨日から浮かなかった。
当然一昨日の経験が、深い心の傷を作っているのだ。

「みなさん、どんなトレーニングやってるんですか?」
 ブレイブは思う。魔力がべらぼうに高いのは、まだ納得できる。俊也さん以外は間違いなく貴族の出だ。
ド田舎で暮らしていても、それぐらいはわかる。顔のつくりが、平民と根本的に違うから。
野性を強く感じるアンさんさえも、絶対濃い貴族の血を引いている。
顔もそうだし、何より魔法の威力。あれは平民ではありえない。

「ブレイブにはかわいそうだけど、あなたがどんなに鍛えても無理なの。背伸びし過ぎないで」
 イザベルが、ブレイブにキャンディーを与えた。もちろん日本産だ。

「これ、なんですか? 魔石みたいに…違うか。何かの果物の絵が」

「アメちゃんよ。オオサカのオバチャンが、常時装備してるの。
アメちゃん食べ。
そう言って知らない人にも押し付けるんだって。
だけどおいしいよ。
かまないでレロレロするの」
 おい、ブルー、その舌の動きおかしいぞ! それに、誰から聞いた? カナしかいないか……。

俊也はとりあえず流した。ブレイブに説明できない。
ほら! 口を開けて転がしてるぞ。やっぱり…、口から落とした。

「ごめんなさい。だけど、なんだろう? 食べたことがない味がする」
 ブレイブは、落としたキャンディーを拾い上げ、匂いをかいでいた。

「それはマンコー……」
「マンゴーだから! 南の国のフルーツ! 
ブルー、あいまいな知識ひけらかさない! 
君の責任だぞ。お代りやれ」

「え~! 残り少ないのに。ウオーター。
……ごめん。これ上げるから」
 ブルーは悲しそうな目で、新しいアメちゃんをブレイブに差し出した。

ブルー……。好意であることは、分かってるんだよ。

アメちゃん、洗ったら食べられそうだったね。

だけど、ブレイブが全身びしょ濡れになるほど、洗うのはどうかな?
 肝心のアメちゃんも飛んでいったし。

俊也はがっくりと肩を落とした。他のメンバーは腹を抱えて笑っている。

だが……、

「おいしい……」
 アメちゃんを口の中で転がし、ブレイブに笑顔が浮かんだ。
残り少ないアメちゃんを提供したブルーは、泣き笑いめいた表情だった。

ブルー、やっぱり君って最高だよ。俊也はしみじみとそう思った。
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