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85 オーバーキル

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 三十分も経たないうちに、ブルーとイザベルが帰ってきた。ブルーが何か言いかけたところ、ユーノが唇に人差指を当てた。

ブルーとイザベルは心得ている。小さな声で、男子たちに指示を出し、獲物を置かせた。

普通のイノシシだ。オオカミたちにこの餌を食べる余裕は多分ない。

俊也さんは「自分たちの餌」のつもりだろう。オオカミをやっつけた後、余裕でイノシシパーティー。

村人にメンバーの強さを、強烈にアピールできる。そしてそれは、俊也さんについていく六人の正しさを、証明することにもなる。

全く食えない人。ユーノは、そこまで俊也の思考が読める、自分の食えなさ加減に、気づいていなかった。

ユーノにそれを指摘したら、彼女はこう言うだろう。

「私は俊也さんの計画を、分析できるだけです。こんな先の先を読んだ食えない作戦、私には立てることができません。
もちろん、私を食べられるのは俊也さんだけですけど。
ぽっ……」
てな感じ? 


作戦開始十分前。言い忘れたが、俊也は時計を全員にプレゼントしている。

ユーノはナイトを抱き上げ、つんと鼻と鼻をくっつける。

俊也は寝ぼけ眼で立ち上がる。

俊也さんでも、読み切れないだろう作戦開始。ユーノは寝起きでかわいい俊也ジュニアをこきこきして、パオーン化させた。

「これが俊也さんのおティンティンよ。
こわいでしょ? 初めていれられたら、痛いのなんの。
わかるでしょ? 
男子、このオティンティンは気にしちゃダメ。
これは特別。女の子は、ほどほどもいいの」
 大ウソも平気でつけるユーノだった。初体験無理大ありのマサラやエンランでさえ、強い快感が得られたことは、最高機密だ。


 俊也はどうせ変身するから、恥辱の変身ポーズで、猫又ナイトに変わった。
いつかはバレるのだ。最高機密の転移魔法と猫マが、バレなければよし。俊也は、そう判断している。

妊婦四人や、護衛兼料理係として残っているアンリには悪いが、帰るまで一週間ほど、ケアのための転移魔法は使えない。

俊也の変身を見届け、六人が口をパクパクさせているのは無視。

ユーノのホラにあきれながら、アンがトラップを説明する。

アンがころを見計らい、トラップを発動させたら、柵が立ち上がる。

その柵は、波型を並行させたような形で、オオカミのスピードを落とし、巨岩にさえぎられた袋小路に追い込むようできている。

岩の上から中規模魔法を落とせば、追いこめたオオカミは、ほぼ全滅させられる。

イヌ科の動物が群れで行動するときは、直線的に集団で走ることをアンは知っていた。

「よくこんな柵を……」
 猫又ナイトが感心して、アンをほめようとしたところ、彼は気づいた。

村の防御柵がなくなっている。

「村人が喜んで協力してくれました。今は必死で遠くへ逃げているでしょう。
もっと時間があれば……」
 確かにその通りだ。ナイトは「上出来だ」とほめる。「喜んで協力」は、怪しいどころではないが。

「もちろん、オオカミをトラップに誘導できるよう、少し上の木々を、いい感じに倒したんですよ。
これでも精一杯だったんです」

「だから上出来だと言っている。今夜は俊也がたっぷり可愛がる。楽しみにしていろ」
 猫又ナイトが、勝手にご褒美を約束する。

嫁たちは抗議しかけたが、やめた。アンは今の自分でできることを、自分で考え、精一杯やりとげた。

フラワーなら、もっとスマートにトラップを仕掛けるだろうが、そこは、ないものねだりというもの。

フラワーの神経系や幻惑魔法を、まだアンは使いこなせない。

この作戦が成功したらアンが殊勲賞だ。

もう足をひっぱる村人は…いた。元だけど。

「お前たち、木には登れるな? 俺がいいというまで、登っていろ」
 六人は猫が俊也に変わり、俊也が猫に変わった不思議を無視することにした。

猫が偉そうにしゃべることも。尻尾が二本あることは、もうどうでもいいと思った。


「俊也さん、レジ形態の方が、この場合適切かと」
 イザベルが、俊也のレジ形態用戦闘ズボンを恭しく捧げる。

俊也は思う。権威付け演出はもういいよ。普段は退屈しきっている嫁たちは、このイベントにノリノリだった。

猫又ナイトは一つうなずき、イザベルのキスを待った。ちゅっ……。

いらっしゃいませ! お弁当温めますか? 
千円からおあずかりします! 
チーン! 
レジは急いでズボンをはいた。

レジのネーミング、なんとかならないものだろうか? 
コンビニでバイトしている気分。

そういえばコンビニのレジ、チーンなんて鳴っただろうか? 
もちろん下ネタじゃないですよ。

ただ樹上の女の子三人をもっと脅かし、男の子三人の自信を、もっと打ち砕いたのは事実だった。


 戦闘の場面は、R十六規制でも厳しいものがある。よって、自主規制することにする。

記者はあくまで平和主義なので、あしからず。


「俊也さん、この死体の山、どうしますか? 毛皮、ほとんど採取できないと思いますが」
 元オオカミたちの、無残な残骸から目をそらし、ローランが聞く。

久々の集団戦闘。みんな張り切りすぎてオーバーキルもいいところだ。
ローランは思う。魔導師の本格的な戦闘はこれだから。まだブルーさんの戦った後がましに思える。

「村人たちがどうにかするだろ。宿へ帰ろう。おやすみ」
 レジはナイトに変身した。ローランはナイトを抱き上げる。

ユーノは思う。俊也さんの計画は若干狂ったようだ。村人は逃げ出すし、ここではイノシシバーベキューなんて、絶対やる気になれない。

あのイノシシは、せめてもの置き土産としよう。はたしてあの村人たちは、感謝するだろうか? 村内はほとんど無傷だが。
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