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83 ハレルヤ
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俊也はロンの村に着いて、呆然とした。小さな村だとは聞かされていたが、家は全部で十数軒しかない。
そのうち力自慢の男が、五人殺された。なんとか頼りになりそうな男手は、十人しかいなかった。
後は老人と子供、おばさんと娘さんだけ。
ダメだこりゃ。
もう一度ダークウルフに襲われたら全滅だ。
オオカミたちは、家畜で一度食欲を満たした。近場で獲物がなくなったら、かなりの確率で、一度味をしめたこの村を襲うだろう。
現に人間の集団を襲った。オオカミにとっても人間は怖い。それでも襲ったということは、もうすでに飢餓状態にあると推測できる。
この村は捨てるしかないというのが、俊也の観測だった。
俊也はこの村の長老と話してみた。長老は単に一番歳をとっているだけだった。
聞けば村のまとめ役は、ニーナの父親だったそうだ。
俊也は村の全員に集まってもらい、将来の展望を聞いた。
結果、お先真っ暗で、どうしていいかわからない、が共通の見解だった。
そろってカントに移住しますか? と聞いても、そんな名も知らない街へ行きたくないと、誰も首を縦に振らない。
あっか~んわ。俊也にも解決策が思いつかない。
「ねえ、みんな、生きていくだけの力を持ってる?
こんな辺鄙(へんぴ)な村で、生き残れる?
現に食糧、なんとかなる?
もう冬は近いよ。蓄えある?」
なんとアンが語り始めた。館のメンバーと、ラブミーテンダーの関係者としか口をきかなかったアンが。
今でもアンは、それ以外の人間を信用していない。
「私が一人で暮らし始めたのは、ニーナぐらいの見た目年齢だった。
幸か不幸か私には魔力があった。
見た目より、生きるための知恵を、母親と生活から得ていた。
だから一人で、この村より危険な土地で生き抜いた。
あなたたちには、家畜を育てる知恵は、あるでしょうね。
農作や狩猟の知恵もあるでしょう。
だけど、一頭のダークウルフを倒せる力や、知恵を持ってる?
私はこの人たちのおかげで、百頭ぐらいなら倒せると思う。
だけど、その力はこの人たちに頼ることで初めて得られた。
魔力があっても、使い方を知らなければ話にならないでしょ?
この人たちみんな、知恵も力も持ってる。
だからあなたたちに、移住しないかと誘える。
頼れる人には頼ってみたら?
自分たちの力が身に付いたら、この人たちの元から離れればいいの。
この人たちは、甘やかせてはくれない。
あなたたちが自立できると認めたら、それ以上の世話はやかない。
オオカミに食べられてもいいなら、このちっぽけな村にしがみつくといい。
私の話はここまで。
私はこの人たちみたいな、お人よしじゃない。
どうなのよ!」
村人たちは、うつむいて返事ができなかった。
「俊也さん、行こう。この村人たち、ダメだよ。
このお人よしの俊也さんは、ふもとのダークウルフを、討伐するつもりだったんだってさ。
俊也さん、こんなやつらは、お荷物にしかならない。
餓える前に、オオカミたちの餌になる方がましだよ。
行こう!」
最近まで独力で生きてきた、アンしか言えない厳しい言葉だった。
だけど、俊也は正しいと認めた。
「ブレイブ、ニーナ、本当に必要な荷物だけまとめろ。
この村には二度と来ないから、そのつもりで」
ブレイブとニーナは、うつむいて肩を震わせていた。
「いやだったら残れよ。
オオカミの餌になれ!
行こうか」
俊也はロバの口をとった。
「待って! おじちゃん!
私はついていく。
お父ちゃんやお母ちゃん、お兄ちゃん、あんなむごい死に方は絶対ヤダ!
息があるのに内臓から食べられるんだよ。
血まみれになったオオカミたちが、長い臓物を奪い合うの。
私、私、目を閉じられなかった。
みんな見ちゃったんだよ~!」
俊也は泣き叫ぶニーナを、しっかり抱きしめた。
そうか、みんな見ちゃったのか……。目が閉じられなくて、かわいそうだったな。
いや、目をつぶってても同じか。
俊也の体全体が光り始めた。メンバーは目を見張った。手やパオーンが光る現場は何度も見た。
だが、こんな俊也は初めてだった。
「ニーナ、今から君は俺の仲間だ。
昨日見たことは全部忘れろ」
俊也はニーナを抱擁から解いた。村人の何人かは逃げ出した。
きっと魔力があったのだろう。その者たちには、俊也からほとばしる魔力を感知できたのだ。
ニーナは俊也の腕の中で、ぐったり目を閉じている。
これは変質者判定されても仕方ないか。俊也は、さすがに自分の体にみなぎっていた、魔力のほてりを感じていた。
「俊也さん、しばらく休ませましょう。多分魔力酔いです。
いきなりあんな魔力に包まれたら、そんな感じになります。
その子、多少は魔力があるみたいですね。
私なら大丈夫だと思いますが、実験してみますか?
一号はどうでしょう?
中途半端な魔力量ですから、どうなるか見当もつきませんが」
ユーノが真顔で言う。
ブルーはひえ~! と叫び逃げ出した。
「ブルーさんは、いくら言ってもレジ形態一本でしょ?
あれでも多少魔力は、上がるみたいですが、やっぱり俊也さんを味わってもらわないと。
ね?」
ユーノは嫣然とした目で俊也を見上げる。
バックから、なんとか無事に御用は務まるだろう。俊也は仕方なくうなずいた。
そして俊也は気づいた。また「おじちゃん判定」されちゃったよ!
ニーナ、俺はこの中で一番若いんだよ。
俊也はニーナをたたき起して、そう言い聞かせたかった。
ふと、俊也はニーナの表情に気づいた。
うわ~! いった後の女の顔だ!
引きずってでもブレイブは連れていく。
残念ながら、ニーナは、俊也のストライクゾーンからはずれていた。
残酷なようだが、事実だから仕方ない。まあ、よく見たらちょっぴり可愛いけど。
俊也のストライクゾーンは、異様に狭まっていた。きっと嫁たちを迎える前なら、妥協できただろう。
何様だと言いたいが、俊也様だからしかたないと記者は思う。いかがなものか?
ちなみに、ライ×ー一号は、四頭のダークウルフを狩り、尻尾をひきずって帰ってきた。
前の戦闘では不評だったので、ちゃんと剣を使い、すっぱり首を落としていた。
あれなら毛皮がとれそうだけどね……。一頭につき、子馬ほどのでかさなんだけど。
俊也は今度『ものの怪姫』でも借りようかなと思った。
今の血まみれブルー、確実にあの姫より迫力数倍だけど。
もう一つちなみに、意識を取り戻したニーナは、両親や兄が死んだという認識はあるが、その経過はどうしても思い出せなかった。
ニーナは一度天国へ行って、帰って来たと思い込んでいる。ハレルヤ……。
そのうち力自慢の男が、五人殺された。なんとか頼りになりそうな男手は、十人しかいなかった。
後は老人と子供、おばさんと娘さんだけ。
ダメだこりゃ。
もう一度ダークウルフに襲われたら全滅だ。
オオカミたちは、家畜で一度食欲を満たした。近場で獲物がなくなったら、かなりの確率で、一度味をしめたこの村を襲うだろう。
現に人間の集団を襲った。オオカミにとっても人間は怖い。それでも襲ったということは、もうすでに飢餓状態にあると推測できる。
この村は捨てるしかないというのが、俊也の観測だった。
俊也はこの村の長老と話してみた。長老は単に一番歳をとっているだけだった。
聞けば村のまとめ役は、ニーナの父親だったそうだ。
俊也は村の全員に集まってもらい、将来の展望を聞いた。
結果、お先真っ暗で、どうしていいかわからない、が共通の見解だった。
そろってカントに移住しますか? と聞いても、そんな名も知らない街へ行きたくないと、誰も首を縦に振らない。
あっか~んわ。俊也にも解決策が思いつかない。
「ねえ、みんな、生きていくだけの力を持ってる?
こんな辺鄙(へんぴ)な村で、生き残れる?
現に食糧、なんとかなる?
もう冬は近いよ。蓄えある?」
なんとアンが語り始めた。館のメンバーと、ラブミーテンダーの関係者としか口をきかなかったアンが。
今でもアンは、それ以外の人間を信用していない。
「私が一人で暮らし始めたのは、ニーナぐらいの見た目年齢だった。
幸か不幸か私には魔力があった。
見た目より、生きるための知恵を、母親と生活から得ていた。
だから一人で、この村より危険な土地で生き抜いた。
あなたたちには、家畜を育てる知恵は、あるでしょうね。
農作や狩猟の知恵もあるでしょう。
だけど、一頭のダークウルフを倒せる力や、知恵を持ってる?
私はこの人たちのおかげで、百頭ぐらいなら倒せると思う。
だけど、その力はこの人たちに頼ることで初めて得られた。
魔力があっても、使い方を知らなければ話にならないでしょ?
この人たちみんな、知恵も力も持ってる。
だからあなたたちに、移住しないかと誘える。
頼れる人には頼ってみたら?
自分たちの力が身に付いたら、この人たちの元から離れればいいの。
この人たちは、甘やかせてはくれない。
あなたたちが自立できると認めたら、それ以上の世話はやかない。
オオカミに食べられてもいいなら、このちっぽけな村にしがみつくといい。
私の話はここまで。
私はこの人たちみたいな、お人よしじゃない。
どうなのよ!」
村人たちは、うつむいて返事ができなかった。
「俊也さん、行こう。この村人たち、ダメだよ。
このお人よしの俊也さんは、ふもとのダークウルフを、討伐するつもりだったんだってさ。
俊也さん、こんなやつらは、お荷物にしかならない。
餓える前に、オオカミたちの餌になる方がましだよ。
行こう!」
最近まで独力で生きてきた、アンしか言えない厳しい言葉だった。
だけど、俊也は正しいと認めた。
「ブレイブ、ニーナ、本当に必要な荷物だけまとめろ。
この村には二度と来ないから、そのつもりで」
ブレイブとニーナは、うつむいて肩を震わせていた。
「いやだったら残れよ。
オオカミの餌になれ!
行こうか」
俊也はロバの口をとった。
「待って! おじちゃん!
私はついていく。
お父ちゃんやお母ちゃん、お兄ちゃん、あんなむごい死に方は絶対ヤダ!
息があるのに内臓から食べられるんだよ。
血まみれになったオオカミたちが、長い臓物を奪い合うの。
私、私、目を閉じられなかった。
みんな見ちゃったんだよ~!」
俊也は泣き叫ぶニーナを、しっかり抱きしめた。
そうか、みんな見ちゃったのか……。目が閉じられなくて、かわいそうだったな。
いや、目をつぶってても同じか。
俊也の体全体が光り始めた。メンバーは目を見張った。手やパオーンが光る現場は何度も見た。
だが、こんな俊也は初めてだった。
「ニーナ、今から君は俺の仲間だ。
昨日見たことは全部忘れろ」
俊也はニーナを抱擁から解いた。村人の何人かは逃げ出した。
きっと魔力があったのだろう。その者たちには、俊也からほとばしる魔力を感知できたのだ。
ニーナは俊也の腕の中で、ぐったり目を閉じている。
これは変質者判定されても仕方ないか。俊也は、さすがに自分の体にみなぎっていた、魔力のほてりを感じていた。
「俊也さん、しばらく休ませましょう。多分魔力酔いです。
いきなりあんな魔力に包まれたら、そんな感じになります。
その子、多少は魔力があるみたいですね。
私なら大丈夫だと思いますが、実験してみますか?
一号はどうでしょう?
中途半端な魔力量ですから、どうなるか見当もつきませんが」
ユーノが真顔で言う。
ブルーはひえ~! と叫び逃げ出した。
「ブルーさんは、いくら言ってもレジ形態一本でしょ?
あれでも多少魔力は、上がるみたいですが、やっぱり俊也さんを味わってもらわないと。
ね?」
ユーノは嫣然とした目で俊也を見上げる。
バックから、なんとか無事に御用は務まるだろう。俊也は仕方なくうなずいた。
そして俊也は気づいた。また「おじちゃん判定」されちゃったよ!
ニーナ、俺はこの中で一番若いんだよ。
俊也はニーナをたたき起して、そう言い聞かせたかった。
ふと、俊也はニーナの表情に気づいた。
うわ~! いった後の女の顔だ!
引きずってでもブレイブは連れていく。
残念ながら、ニーナは、俊也のストライクゾーンからはずれていた。
残酷なようだが、事実だから仕方ない。まあ、よく見たらちょっぴり可愛いけど。
俊也のストライクゾーンは、異様に狭まっていた。きっと嫁たちを迎える前なら、妥協できただろう。
何様だと言いたいが、俊也様だからしかたないと記者は思う。いかがなものか?
ちなみに、ライ×ー一号は、四頭のダークウルフを狩り、尻尾をひきずって帰ってきた。
前の戦闘では不評だったので、ちゃんと剣を使い、すっぱり首を落としていた。
あれなら毛皮がとれそうだけどね……。一頭につき、子馬ほどのでかさなんだけど。
俊也は今度『ものの怪姫』でも借りようかなと思った。
今の血まみれブルー、確実にあの姫より迫力数倍だけど。
もう一つちなみに、意識を取り戻したニーナは、両親や兄が死んだという認識はあるが、その経過はどうしても思い出せなかった。
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