72 / 230
72 二度目の弾劾裁判
しおりを挟む
翌日の土曜、ルマンダの個展の件で、かわいそうな俊也は、ルンルン気分で現地妻の家に通った。
気の毒なことに、彼の第一声は「ただいま」だった。
「へ~、あなたが『お兄ちゃん』なんだ?
話があるから、二階へ来なさい。
ただいま、だってさ。
ふん」
彼を待ち受けていたのは、強烈な怒りと憎悪を秘めた琴音だった。
彼女の背後で、カナは両手を合わせていた。
「彼女、私の友達の琴ちゃん。全部話しちゃったの」
カナは琴音の怒りにおびえながら、俊也の耳元で、そうささやきかけた。
「カナ!」
「はい。ごめんなさい!」
カナは、イマイチ割り切れないものを感じながら、言葉を慎むことにした。
どうしてあんなに怒ってるんだろう? その疑問は一層深まった。
琴音はゆうべから、泊まり込んでいた。カナは勢いに負けて、つい正直に答えてしまったから。
「俊也さんなら、明日帰ってくるけど」。
俊也はわけがわからないまま、琴音の前で正座させられていた。
妹の弾劾を、受けた時を思い出した。あの時より、はるかに厳しい法廷に立たされた気分だ。
この検事、間違いなく「死刑」を求刑する。
「まず最初に言いたい。カナとは別れる気だったんでしょ?
どうしてカナを受け入れちゃったの?
その時は、十人の嫁がいたんでしょ!
しかも新人二人をお持ち帰り?」
俊也もカナも、神妙にその言葉を受け入れるしかなかった。
お互い、関係を持つことは、無理しまくりだと分かっていたから。
「その通りだと思います。すべては俺の中の男が原因です。
カナちゃんは妹のつもりでいたのに、強烈に意識してしまいました。
カナちゃんは俺に好意を持ってくれる、一人の女性だと」
琴音は少しひるむ。
カナの方が、関係を迫ったということは聞いていた。十人の嫁がいると知って、カナは猛烈な対抗心がわいたという。
その気持ちもなんとなくわかる。
「不誠実でしょ! 十人プラス二人? それに現地妻のカナ?
どう回してるのよ!」
琴音は方向がずれたかな、と思いながらも問いただした。
「なんとか満足させているつもりなのですが、俺の思い上がりでしょうか?」
琴音はカナを見る。
「ごめん。セックス自体に全然不満はない」
カナにそう答えられて、琴音はいっそうたじろぐ。
そうなんだ? そんなにすごいんだ……、って違うだろうが!
「カナが不安に思っていること、わかってるの!」
琴音は切り札を出した。
「わかってるつもりです。
第一に寿命の問題。
俺のほとんどの嫁たちは、どれほど長生きするかわかりません。
カナちゃんは、多分この世界の、平均寿命プラスあるかどうか。
間違いなく真っ先に老います。
もう一つ。俺の嫁のほとんどは、いわゆる高貴の家柄です。
俺も庶民だからわかります。
彼女たちは、その家柄ゆえの、オーラめいたものを感じさせます。
平民は思わずひれ伏すような。
だけど、彼女たちは、そんな自分を娼婦に等しいと思い込んでます。
家の呪縛、あなたは想像できますか?
彼女たちのほとんどは、最初打算百パーセントで、俺と関係を持ちました。
俺は不純だと思いません。
結ばれる動機付けとしてアリだと思います。
逆に、不利益だと分かってて結ばれる方が危険です。
例外はルラとルマンダだけだと思います。
ルラは俺を転移させた責任。
ルマンダは長く男に触れなかった寂しさ。
なんと言われようと、俺は誇りに思ってます。
動機を別として、彼女たちを呪縛から解放したことを。
お姫様って、つらいんですよ。
少なくとも、ぼんやり生きてきた俺よりずっと」
琴音は言葉につまった。この男、ただのヤリチン男じゃないのでは?
いいや、絶対許せない!
「どうして全部分かってて、カナを抱いたの!」
「だって、拒めますか?
奇天烈極まりない事態に巻き込まれた俺を、なおかつ慕ってくれる。
そんな女を拒めますか?
理屈では分かってました。
拒むべきだと。
だけど、俺は強烈にカナが愛しかった。
抱きたいと思った。
カナもそれを望んでました。
抱いた以上、俺はカナに責任を持たなければなりません。
カナも抱かれた責任を、持ってもらうべきだと思いました。
間違ってるかもしれません。
だけど、俺は間違っているとは思いません。
カナが、別れると言うなら、俺は引き留めることはできませんが。
カナ、後悔してる?」
俊也はカナを見つめた。
「後悔してないと言えばウソになる。
だけど、初めてカナと呼んでくれたね?
どうして『カナちゃん』だったの?」
俊也は、全く思いがけない方向から問われ、混乱した。
完全に無意識だったから。
じっくり考える。
「軽蔑しないで。大義名分が立つシスコンそのものだったから。
ごめん。俺は君の夫だ。君は俺の妹じゃない。
君より覚悟がなかったのは俺だ」
俊也は深く頭を下げた。
「琴ちゃん、お騒がせしてごめん。超すっきりした。
私は俊也さんの嫁。
それ以外の何物でもない。
お願いだから、頭を上げて下さい」
カナも深く、俊也に頭を下げた。
「バカみたい……。私は一体何なのよ」
琴音は泣き笑い状態になった。心にぽっかり空洞が空いたような気がした。
カナは完全に私から切り離された。そう実感したから。
彼女はカナが大好きだった。それこそ性を超越したレベルで。
気の毒なことに、彼の第一声は「ただいま」だった。
「へ~、あなたが『お兄ちゃん』なんだ?
話があるから、二階へ来なさい。
ただいま、だってさ。
ふん」
彼を待ち受けていたのは、強烈な怒りと憎悪を秘めた琴音だった。
彼女の背後で、カナは両手を合わせていた。
「彼女、私の友達の琴ちゃん。全部話しちゃったの」
カナは琴音の怒りにおびえながら、俊也の耳元で、そうささやきかけた。
「カナ!」
「はい。ごめんなさい!」
カナは、イマイチ割り切れないものを感じながら、言葉を慎むことにした。
どうしてあんなに怒ってるんだろう? その疑問は一層深まった。
琴音はゆうべから、泊まり込んでいた。カナは勢いに負けて、つい正直に答えてしまったから。
「俊也さんなら、明日帰ってくるけど」。
俊也はわけがわからないまま、琴音の前で正座させられていた。
妹の弾劾を、受けた時を思い出した。あの時より、はるかに厳しい法廷に立たされた気分だ。
この検事、間違いなく「死刑」を求刑する。
「まず最初に言いたい。カナとは別れる気だったんでしょ?
どうしてカナを受け入れちゃったの?
その時は、十人の嫁がいたんでしょ!
しかも新人二人をお持ち帰り?」
俊也もカナも、神妙にその言葉を受け入れるしかなかった。
お互い、関係を持つことは、無理しまくりだと分かっていたから。
「その通りだと思います。すべては俺の中の男が原因です。
カナちゃんは妹のつもりでいたのに、強烈に意識してしまいました。
カナちゃんは俺に好意を持ってくれる、一人の女性だと」
琴音は少しひるむ。
カナの方が、関係を迫ったということは聞いていた。十人の嫁がいると知って、カナは猛烈な対抗心がわいたという。
その気持ちもなんとなくわかる。
「不誠実でしょ! 十人プラス二人? それに現地妻のカナ?
どう回してるのよ!」
琴音は方向がずれたかな、と思いながらも問いただした。
「なんとか満足させているつもりなのですが、俺の思い上がりでしょうか?」
琴音はカナを見る。
「ごめん。セックス自体に全然不満はない」
カナにそう答えられて、琴音はいっそうたじろぐ。
そうなんだ? そんなにすごいんだ……、って違うだろうが!
「カナが不安に思っていること、わかってるの!」
琴音は切り札を出した。
「わかってるつもりです。
第一に寿命の問題。
俺のほとんどの嫁たちは、どれほど長生きするかわかりません。
カナちゃんは、多分この世界の、平均寿命プラスあるかどうか。
間違いなく真っ先に老います。
もう一つ。俺の嫁のほとんどは、いわゆる高貴の家柄です。
俺も庶民だからわかります。
彼女たちは、その家柄ゆえの、オーラめいたものを感じさせます。
平民は思わずひれ伏すような。
だけど、彼女たちは、そんな自分を娼婦に等しいと思い込んでます。
家の呪縛、あなたは想像できますか?
彼女たちのほとんどは、最初打算百パーセントで、俺と関係を持ちました。
俺は不純だと思いません。
結ばれる動機付けとしてアリだと思います。
逆に、不利益だと分かってて結ばれる方が危険です。
例外はルラとルマンダだけだと思います。
ルラは俺を転移させた責任。
ルマンダは長く男に触れなかった寂しさ。
なんと言われようと、俺は誇りに思ってます。
動機を別として、彼女たちを呪縛から解放したことを。
お姫様って、つらいんですよ。
少なくとも、ぼんやり生きてきた俺よりずっと」
琴音は言葉につまった。この男、ただのヤリチン男じゃないのでは?
いいや、絶対許せない!
「どうして全部分かってて、カナを抱いたの!」
「だって、拒めますか?
奇天烈極まりない事態に巻き込まれた俺を、なおかつ慕ってくれる。
そんな女を拒めますか?
理屈では分かってました。
拒むべきだと。
だけど、俺は強烈にカナが愛しかった。
抱きたいと思った。
カナもそれを望んでました。
抱いた以上、俺はカナに責任を持たなければなりません。
カナも抱かれた責任を、持ってもらうべきだと思いました。
間違ってるかもしれません。
だけど、俺は間違っているとは思いません。
カナが、別れると言うなら、俺は引き留めることはできませんが。
カナ、後悔してる?」
俊也はカナを見つめた。
「後悔してないと言えばウソになる。
だけど、初めてカナと呼んでくれたね?
どうして『カナちゃん』だったの?」
俊也は、全く思いがけない方向から問われ、混乱した。
完全に無意識だったから。
じっくり考える。
「軽蔑しないで。大義名分が立つシスコンそのものだったから。
ごめん。俺は君の夫だ。君は俺の妹じゃない。
君より覚悟がなかったのは俺だ」
俊也は深く頭を下げた。
「琴ちゃん、お騒がせしてごめん。超すっきりした。
私は俊也さんの嫁。
それ以外の何物でもない。
お願いだから、頭を上げて下さい」
カナも深く、俊也に頭を下げた。
「バカみたい……。私は一体何なのよ」
琴音は泣き笑い状態になった。心にぽっかり空洞が空いたような気がした。
カナは完全に私から切り離された。そう実感したから。
彼女はカナが大好きだった。それこそ性を超越したレベルで。
0
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる