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55 俊也、日本政府をペテンにかける

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※故、安倍晋三氏を揶揄する内容が含まれていますが、記者は彼の人格や功績を評価しております。
執筆当時、時の権力者であったため、このような内容を選びました。
権力に対する軽い風刺は、許容されてしかるべきだと判断したわけです。

☆ ☆ ☆

 俊也が手紙と魔法の布を送った翌日、カナの父親は問い合わせで大忙しとなった。

マジで猫の手を借りたいほど、切迫した状況だったということだ。

修造は、俊也が用意した文面を送った。その内容は以下のとおり。


1 殺菌効果が予想通りなら、量産化に向けて布を徹底分析すること。家長の許可は得ている。
ただ、家長の言葉によれば、分析は不可能だろうとのことだった。
布使用の副作用も調査いただきたい。

家長の言葉によれば、一切の副作用なしだが、念のためアレルギー中心に実験していただきたい。
医薬品不使用であることは、分析実験ですぐ実証できるであろうとのこと。

もちろん、耐用回数も実験すること。

家長の話によれば、何度洗っても、ほぼ一年は持つはずだとのこと。
まさかとは思うが、まさかが、現実となった。本当だと信じたい

2 前の文面の記載通り、一族による量産は不可能である。「猫の手の友人」が交渉した結果、週に五千枚を目指すと確約を受けた。

3 ゆえあって一族の居住地、氏名は一切明かせない。

4 伊藤修三氏は「猫の手の友人」が、全幅の信頼を置く人物である。
一枚につき五百円の約束で仲介を引き受けて下さった。
断わっておくが、伊藤氏は仲介だけを引き受けた。詳細を問い合わせても、伊藤氏は一切知らない

5 この布を販売するなら、一枚二千円以内とする。
必要性が切迫している方を優先すること。
また二千円以上の額で販売したら、該当者との交渉は完全に打ち切る。
但し、マスク本体の製造費は除く。
マスク製造費はわからないので、合わせて三千円以内でいかがなものか?

6 この布を利用して制作したマスク、できれば「ネコノマスク」のネーミングでお願いしたい。ただし、強制力は伴わない


最後の返信を終えて修造は思う。俊也君、とんだ食わせ者だ。
研究者を利用し、責任の所在をあいまいにしている。

もちろん、製品自体には絶対の自信を持っているようだ。

すべては出所を明らかにしない配慮。それもわかる。ウチのカナ、もらってもらえないものだろうか? 

実はもう、もらわれております。お気の毒です、お父さん。三人の娘を持つ記者より。


 一週間後、厚労大臣、門野辰三は首相執務室を訪れた。

首相野辺郁造は、浮かない顔でソファーに座っていた。

「総理、例の『ネコノマスク』の件でしょうか?」

「そうなんだよね。大体ネーミング悪すぎない? 僕の『ノベノマスク』とかぶりすぎ」
 
そっちかよ……。厚労大臣は内心舌打ちする。

「ネーミングなど、どうでもよくないですか? 週に五千枚でも販売しましょう。
販売窓口と販売方法は慎重に検討いたします。
どの研究室も性能は保証しています。

単なる麻布に、どうしてあんな効果があるのか、さっぱりわからないそうですが、画期的な製品であることは間違いありません。

最大感染経路である鼻と口の安全は保証されるのです! 『ネコノマスク』は強制ではないそうですから、総理がいやなら変えます」
 
この厚労大臣、個人的にあのネーミングバカ受けだった。確かに首相を揶揄するネーミングだが、仕方ないと思う。

あれは明らかに失敗だ。相当反対したが拒否された。

「製品名変えてくれるならいいけど。周知したら問題が多すぎない? 
どんなふうに考えてるの? 
その販売窓口と販売方法」
 
やっとまともな反応が返った。「慎重に検討します」と勢いで言ったものの、多くの問題がある。

とりあえず、仲介の伊藤氏の名は絶対公にできない。ルートの蛇口が閉められたら、それこそお手上げだ。

政府が無視したら、多くの研究者から絶対ブーイングが起こる。今やあの「魔法の麻布」の存在は、研究者たちの常識だから。

今黙っているのは、顕著な効果があり、副作用ゼロで耐久性もある。だけど、どうしてそうなるのかが、さっぱりわからない。

つまり、「魔法の布」としか言いようがない点が、科学者として恥ずかしいからだ。

政府が抑え込もうものなら、恥をかなぐり捨て、一斉に反発ののろしが上がるはずだ。

文冬あたりにリークするとか? そうなったら糾弾されるのは政府だ。「ノベノマスク」の失敗どころの騒ぎじゃない。「ヌルリイクゾウ」が真っ先に首を切るのは、厚労大臣である自分。

これはなんとかしなければいけない。

「今は慎重に検討するとしかお答できません。考えさせて下さい」

 厚労大臣は逃げに出た。はっきり言えば妙案はない。

役人たちに押し付けよう。結論はそれだった。



 大臣は執務室に帰り、一息つく。は~……。どうしようかな? 

ノックの音。大臣はなげやりに「入れ」と答えた。第一秘書だった。

「失礼します。大臣あてに封書が届いております。本来なら私が確かめるべきですが、親展と記入され、例の人のペンネームが裏に記されております」

「猫の手の友人?」
「そうです。いかがいたしましょう?」
「よこせ!」
 
大臣は秘書から奪うように封書を開けた。


取り急ぎ用件だけお伝えします。あの布の秘密を執拗に、家長に聞いたところ、しぶしぶ教えてもらえました。

言いにくいですが、本当に「魔法」をかけたそうです。
私はこの目で見ました。火炎や水などを自由自在に操る現場を。

私に隠していたのも当然だと思います。誰もがトリックだと思うでしょうから。

私はトリックだと思えませんでした。実際あの布の分析結果はいかがでしょう?

多分家長の言葉通り、何も出てこなかったのではないかと思います。

一族が私に心許したのは、家長の娘と結婚したからです。だから彼らの秘密をすべて教えてくれました。

多分だれにも信じてもらえないでしょう。前記の事実の公表は控えていただく方が、賢明だと思います。

ですが、あの布の力だけは本物だとおわかりのはずです。

ところが、一向に配布された形跡がありません。

私や一族は、日本国民への誠意を、可能な限り示したと自負しております。

もうこれ以上待てません。今まで政府に買い取っていただいた分はご自由にお使い下さい。それでは

妻に見つかっていまいました。「無責任すぎる」としかられました。

その通りでしょう。
私は考えました。
たとえば、こんな私案はどうでしょう? 

保菌者と濃厚接触があった方に、このマスクを政府が無料で配布する。効果は政府が保証すると伝えて。

こんな情勢ですから、政府の財政がひっ迫していることは私にもわかりますが、少なくとも「うつさない」ということに関しては、最大の効果が期待できます。

もう一つ、妻が言うには、治癒の秘石というものが存在するそうです。
魔力を秘めた石に、治癒魔法を心得る魔導師が、丸一日かけて魔法を施します。

その石を一個つくるには、途方もない手間がかかります。
まず魔石自体が貴重であること。
一族の者が総出で探索しても、年に一個見つかれば成功だそうです。もちろん、魔導師でなければ、魔石だと判断できません。

魔法をかけた魔導師も、三日ほど動けなるそうです。それほど魔力と体力を消耗するとお考えください。

その魔石は大きさと品質、魔導師の力により、効果は変化します。

ですが、最高級の魔石なら最低一年は使い回しができます。消毒して効果をお確かめ下さい。

実証実験はできておりませんが、病状が悪化したコロ〇患者でも、一時間患部の上に置くだけで、病状はうそのように回復するはずだとのことです。

伊藤修三氏に、最高級の魔石を預けておきます。
魔石の運搬方法は、絶対教えられません。

伊藤氏に一切関与しないとお約束頂いたら、伊藤氏はその石を政府に譲渡いたします。

本来なら、値が付けられないほどの貴重品ですから、一億円を請求いたします。

もちろん、石の効果を確認してから、伊藤氏の口座へお振り込みください。

もう一つの条件。仲介料や石の販売利益として、伊藤氏の得た利潤は、特別功労者として無税。

伊藤氏はコロ〇騒動で、店の経営がままならない状況ですから、これは絶対譲れません。

以上よろしくお願いいたします。

  猫の手の友人

追伸 代わりの魔石を制作するため、一族は総力を注ぎます。
政府に魔法の布の販売先や、販売方法がないと判断いたしました。以降魔法の布の生産は打ち切ります。ご了解ください。

一族に余裕ができたら、また販売も考えます。ただ、いつになるか前記の事情でわかりません。ご容赦ください。

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