45 / 230
45 食堂・娼館ラブミーテンダー
しおりを挟む
アンリの回復を待って、御老公一行は『ラブミーテンダー』に到着。
「一階はレストラン兼酒場、二階は……娼館となっております。
娼館といっても、無理やり客を取らせてるわけじゃないんですよ。
体を売るお兄さんやお姉さん方が、気に入った相手と、即席ラブする仲介をしているだけなんです。
もちろん、お金はお相手から頂きますが、嫌な相手は決して二階へ通しません。
みんな一階で働いてますが、そのお給料だけでは足りない、事情がある方ばかりです。
だから、軽蔑しないでくださいね。
それと、両親や兄は、十パーセントの手数料…はっきり言えば用心棒料?
それをもらってるだけですから」
アンリはムキになって弁明する。
「それで『ラブミーテンダー(優しく愛して)』か。店のお兄さんやお姉さんたち、まだ恵まれてるね。
それしか生き方のない人もいる。
他にも娼館はあるだろ?」
俊也の言葉に、アンリはほっとしてうなずいた。
他にも娼館は四軒ある。この店以外は、悲惨なものだ。
アンリは抵抗がぬぐえないが、両親や兄が、そういった人たちの、逃げ場を確保していることだけは認めている。
俊也は家族の経営する店で、アンリが働かない理由がわかった。
アンリにとって、外で働くことがギリギリの妥協なのだ。
俊也はバックヤードで、アンリの両親に引き合わされた。名前はアダムとイヴらしい。多分本名ではないだろう。
「そうか。ブリリアンを救ってくださったのは、この方か」
アダムは腕を組んでうなずく。
「ありがとう。そしてごめんね。
アン…ブリリアンが姿を隠したのは、仕方がなかったの。
あの子、特殊な能力を持っているから。
今この二階に隠れてる。
すぐ呼んでくる。あの子も気にしてたし」
イヴはそう言って、バックヤードを出ていった。
「詳しくはわかりませんが、お二人ともかなりの魔力をお持ちですね?
筋肉の付き方や、身のこなし方を見てもわかります。
お二人とも魔法戦士だったんでしょ?」
イザベルの言葉に、アダムは苦笑してうなずいた。
「お嬢さん二人には、とうてい及びませんが。この店の用心棒ぐらいは務まります」
「もしかして、侯爵の……」
「ブルー、余計な詮索はするな」
俊也はブルーをとがめた。
「ごめんなさい。余計なこと言って」
ブルーはシュンとしてうなだれる。
「ブルーは天真爛漫な女の子です。お許しを」
俊也は頭を下げた。
「いやいや。あなた方のことも一切聞きません。お昼は?」
「まだです」
「それでは、ラブミーテンダー特製ランチをご馳走しましょう。
アンリ、例の部屋にご案内しろ。
ランチは運ぶ。
一階やここじゃ落ち着かないだろ?」
そう言って、アダムは厨房の方へ行った。
二階隠し部屋のドアが開いた。アダムがランチを運んできたのだ。
「あなた、ちょっと聞いて。この人、アンリとアンを料理人として雇ってくれるというの。
今のアンリの給料二倍、休みは週に二日。
住みこみになるけど、女性は十人。
男の人はこの人だけ。
特にアンにとっては、申し分ない話だと思うんだけど」
妻の言葉に、アダムは少し考えた。俊也さんから申し出てくれたのだ。
侯爵様も、とがめないだろう。
そうなんです。この夫婦、実はシャネル侯爵の密偵を長く務めているのです。
息子には伝えているが、アンリに話していないし、アンリも知らない方がいいだろう。
「いいと思うぞ。詳しい話は君が聞いておいてくれ。
最終判断は君に任せる」
アダムはそう言って、ワンプレートランチを、二人前テーブルに置いて部屋を出た。
「腹ぺこ少女。先に食べろよ」
部屋は狭いし、テーブルも小さい。俊也はヒールを使った三人に譲った。
「じゃあ、じゃんけんしよう! アンリ、じゃんけん知ってる?」
「えっ、私もですか?」
ブルーの言葉に、アンリはちょっと驚く。俊也が従者二人に先を譲ったということにも驚いたが。
階級社会のこの地において、ありえないことだから。
「もちろんよ。グー、チョキ、パーのどれかを出すの」
ブルーは手で見本を示しながら言う。アンリはこぼれるような笑顔になって、じゃんけんに参加した。
なんか安心して雇ってもらえそう。
「アンリ、アン、雇ってもらいなさい。条件は後で知らせて」
イブはそう言って、負けたらしい娘の肩をポンと叩いた。
「二人をよろしくお願いします。あなたなら手を出してもいいですよ」
そう言って隠し部屋から出ていった。うまくお手付きなったら、娘も一生安泰だ!
生活資金だけの問題ではない。食事の順番を女に譲る。その一事をとっても、この人なら間違いない。
俊也のちょっとした思いやりは、彼の評価を爆上げさせた。
「手を出してもいい……。あわわわ……」
赤面して硬直するアンリだった。
「一階はレストラン兼酒場、二階は……娼館となっております。
娼館といっても、無理やり客を取らせてるわけじゃないんですよ。
体を売るお兄さんやお姉さん方が、気に入った相手と、即席ラブする仲介をしているだけなんです。
もちろん、お金はお相手から頂きますが、嫌な相手は決して二階へ通しません。
みんな一階で働いてますが、そのお給料だけでは足りない、事情がある方ばかりです。
だから、軽蔑しないでくださいね。
それと、両親や兄は、十パーセントの手数料…はっきり言えば用心棒料?
それをもらってるだけですから」
アンリはムキになって弁明する。
「それで『ラブミーテンダー(優しく愛して)』か。店のお兄さんやお姉さんたち、まだ恵まれてるね。
それしか生き方のない人もいる。
他にも娼館はあるだろ?」
俊也の言葉に、アンリはほっとしてうなずいた。
他にも娼館は四軒ある。この店以外は、悲惨なものだ。
アンリは抵抗がぬぐえないが、両親や兄が、そういった人たちの、逃げ場を確保していることだけは認めている。
俊也は家族の経営する店で、アンリが働かない理由がわかった。
アンリにとって、外で働くことがギリギリの妥協なのだ。
俊也はバックヤードで、アンリの両親に引き合わされた。名前はアダムとイヴらしい。多分本名ではないだろう。
「そうか。ブリリアンを救ってくださったのは、この方か」
アダムは腕を組んでうなずく。
「ありがとう。そしてごめんね。
アン…ブリリアンが姿を隠したのは、仕方がなかったの。
あの子、特殊な能力を持っているから。
今この二階に隠れてる。
すぐ呼んでくる。あの子も気にしてたし」
イヴはそう言って、バックヤードを出ていった。
「詳しくはわかりませんが、お二人ともかなりの魔力をお持ちですね?
筋肉の付き方や、身のこなし方を見てもわかります。
お二人とも魔法戦士だったんでしょ?」
イザベルの言葉に、アダムは苦笑してうなずいた。
「お嬢さん二人には、とうてい及びませんが。この店の用心棒ぐらいは務まります」
「もしかして、侯爵の……」
「ブルー、余計な詮索はするな」
俊也はブルーをとがめた。
「ごめんなさい。余計なこと言って」
ブルーはシュンとしてうなだれる。
「ブルーは天真爛漫な女の子です。お許しを」
俊也は頭を下げた。
「いやいや。あなた方のことも一切聞きません。お昼は?」
「まだです」
「それでは、ラブミーテンダー特製ランチをご馳走しましょう。
アンリ、例の部屋にご案内しろ。
ランチは運ぶ。
一階やここじゃ落ち着かないだろ?」
そう言って、アダムは厨房の方へ行った。
二階隠し部屋のドアが開いた。アダムがランチを運んできたのだ。
「あなた、ちょっと聞いて。この人、アンリとアンを料理人として雇ってくれるというの。
今のアンリの給料二倍、休みは週に二日。
住みこみになるけど、女性は十人。
男の人はこの人だけ。
特にアンにとっては、申し分ない話だと思うんだけど」
妻の言葉に、アダムは少し考えた。俊也さんから申し出てくれたのだ。
侯爵様も、とがめないだろう。
そうなんです。この夫婦、実はシャネル侯爵の密偵を長く務めているのです。
息子には伝えているが、アンリに話していないし、アンリも知らない方がいいだろう。
「いいと思うぞ。詳しい話は君が聞いておいてくれ。
最終判断は君に任せる」
アダムはそう言って、ワンプレートランチを、二人前テーブルに置いて部屋を出た。
「腹ぺこ少女。先に食べろよ」
部屋は狭いし、テーブルも小さい。俊也はヒールを使った三人に譲った。
「じゃあ、じゃんけんしよう! アンリ、じゃんけん知ってる?」
「えっ、私もですか?」
ブルーの言葉に、アンリはちょっと驚く。俊也が従者二人に先を譲ったということにも驚いたが。
階級社会のこの地において、ありえないことだから。
「もちろんよ。グー、チョキ、パーのどれかを出すの」
ブルーは手で見本を示しながら言う。アンリはこぼれるような笑顔になって、じゃんけんに参加した。
なんか安心して雇ってもらえそう。
「アンリ、アン、雇ってもらいなさい。条件は後で知らせて」
イブはそう言って、負けたらしい娘の肩をポンと叩いた。
「二人をよろしくお願いします。あなたなら手を出してもいいですよ」
そう言って隠し部屋から出ていった。うまくお手付きなったら、娘も一生安泰だ!
生活資金だけの問題ではない。食事の順番を女に譲る。その一事をとっても、この人なら間違いない。
俊也のちょっとした思いやりは、彼の評価を爆上げさせた。
「手を出してもいい……。あわわわ……」
赤面して硬直するアンリだった。
0
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
【R18】聖処女騎士アルゼリーテの受難
濡羽ぬるる
ファンタジー
清楚な銀髪少女騎士アルゼリーテは、オークの大軍勢に屈し、犯されてしまいます。どんなに引き裂かれても即時回復するチート能力のおかげで、何度でも復活する処女を破られ続け、淫らな汁にまみれながらメスに堕ちていくのです。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる